13 俺の決意
僕は、父と弟の三人家族だった。
弟は怖がりで、優しい子だった。
お父さんも、強くて優しい、最高の家族だった。
でも、あのとき。弟が、あんなことしなければ。
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この少年は、あまりにもかわいそうだ。
物語を読むとき、カナノ………ルナはいつもそう思っていた。
ただ、家族思いなこの少年は、大切な家族を取り戻したくて、日常という宝を手に入れたくて、ある人の手を借りてしまった。
よくある設定の登場人物だ。
この少年がその中で突起して可愛そうな訳では無い。
だが、救いのない少年という点が、とても可愛そうだった。
過去は語られても、それを解決しようとほしない主人公。
回収されない伏線に、カナノはいつも苛立った。
(だれか、この子助けたってや)
自身の力の及ばない世界であることを確定し、誰かが、伏線を回収してくれることを祈っていた。
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ヤバい!アルウェンは心底ルナを止めなかったことを後悔していた。
第一、ご令嬢がこんなところにノコノコとやってくることがおかしいのだ。
だが、そう考えてももう遅い。
すでに目の前にいる少女は首筋に牙を刺されている。今頃何かしたところで、この少女は我々騎士団を訴えるのだろう。
そう考えると、助けないほうが身のため人のためというものだろう。
何せ、この少女……ルナ伯爵令嬢は悪名高く、貴族社会の恥とされているのだから。
だが、そうすることもできない。何せ彼女は、アルウェンの後輩なのだから。
アルウェンは、ルナリエルという人間とルナが、同一人物だと信じているのだ。
それには、アルウェンなりの特別なわけがあった。
アルウェンは特殊能力者だ。
能力は、超感瞬聴。効果は、声の質が記録され、老若男女の差はもちろん、個人の音波も聞き分けられる。また、普通に耳がよくなるというものだ。
これにより、ルナが入団するときにルナが女性だと分かったのだ。
そして、今。確信した。入団の時に多少声を変えていたのだろうが、この耳はごまかせないのだ。
そして、アルウェンの能力を理解しているアルムフェルザも、アルウェンにこのことを聞かされて、うすうすルナのことを気づいていた。
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ルナにとびかかった少年を、その場にいる者総出で引きはがす。
だが、少年は仮にも地壊龍。そう簡単には動かない。
ルナを地面にたたきつけるようにまたがる少年は、今もなおルナの首筋に牙を立てる。
どうしても動かない少年…そしてルナを、リリスが恐怖したように、心配するように見つめる。
そして、意を決したように、大声で少年に呼びかける。
「…あの、あなたが欲しいのは、私の血でしょ?ルナ様を襲ってどうるの‼
お父さんを、助けたいのではないの⁉」
まるで、全てを知っているかのように。