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魔導師としてがんばります!  作者: あまみ すすき
断罪パーティ編
12/14

12 必要とは何なのか

 俺は…いや、僕は、お父さんのために………‼

 絶対、捕まえて、連れてくるから。

 優しい優しいお父さんは、いらないよと言うだろうけれど、それでも、僕にはお父さんが、必要なんだ……


 ............


 ルナの気がかりだったこと…それは、地壊龍の跡。

 物語で、地壊龍には過去があるのだ。

 そして、それが次の章につながる。

 だが、ルナには章をつなげる気などさらさらなかった。

 ここで地壊龍を救わなければ、また暴れだし、強化されて逆襲にくるからである。

 そして、なにより。


 (あの子が、かわいそうやから…)


 地壊龍のいた跡は、騎士団が取り囲んでいた。

 どうやら調査に来ているようだ。

 ルナは暑苦しい団員の間を抜け、中心にたどり着く。

 制止する声を無視し、現場に目をやる。

 そこにいるのは、蹲って泣きじゃくる少年。彼こそが、地壊龍の正体である。

 少年は一瞬ルナに目を向け、そして期待外れだといわんばかりに睨みつけ、また蹲ってしまう。


 (どないしよ…)


 ここまで来たはいいものの、生憎慰めることなどできない不器用なルナはあたふたと困ってしまう。


 「ルナ伯爵令嬢様、それ以上近づくと危険です。」


 アルウェンが制止しようと手を伸ばす。

 だが、その手は駆け付けたカレンが弾く。息を荒らしているため、どうやら走ってきたらしい。

 そのことに感謝しつつ、ルナは少年に顔を近づける。騎士団がシーンと静まり返ることは自然に感じ取れた。


 少年の耳元に口を近づけ、囁く。


 「君は……君が、必要。」


 突然きた人にこんなことを言われても、きっと困ってしまうだろう。

 だが、それはあくまで憶測。

 実際、そんなことよりもその喜びが勝るのだ。

 そして何より、この少年が求めているものを知っている。

 その実感が、前置きを飛び越えてルナから出てきてしまったのだ。


 「ホントに?」


 少年はムクリと顔を上げ、群青の瞳でルナを捉える。

 その目は、怪しげだと思っている隅に、希望という単語が覗いている。

 ルナは、その希望が膨らむことに期待し、補足する。


 「君のことを、助けるために、君が、必要なんよ。」


 少年はキョトンと目を丸くする。

 その様子の愛らしさにルナは目を細める。

 

 (……この人は、何を言っているんだ?)


 少年は思った。この人は、誰なのだろう。

 そして、僕を、助けるというのは、どういうことなのだろう、と。

 だが、そんなこともお見通しと言わんばかりに、ルナは余裕を持っている風にみえた。


 「…………どういうことだ」


 その時、少年でも、アルムフェルザでもない、低音でよく響く声が耳を撫でる。

 その声は、怒りではなく、ただ心配していることを感じさせた。

 

 「――――――アルバート」


 ルナは、不意につぶやいた。

 そうだ、ここにはアルバートとリリスもいたはずなのだ。何故忘れていたのだろう。

 ルナは己の失態を悔やんだ。

 ここにアルバートやリリスがいると、邪馬をされかねないというのに。


 「ルナ様、説明していただけませんこと?」


 予想通り、アルバートの後ろには愛らしい顔を無理に顰めたリリスが立っていた。口に扇子を添えているが、その冷や汗は隠せていない。

 アルバートもそれに同調し、ルナに説明を求める。


 「申し訳ないのですが、この少年が怪我をしているようなので、失礼し――――――」


 「無理ですわ」


 その言葉を、リリスが遮った。

 その声はどこか怯えていて、震えていた。

 自分より身分の高い者の言葉を遮るなど、本来ならば許されない行為だが、そんなことを気にするルナではない。

 

 「それは、どうして?」


 ルナは敬語を使うことをやめた。

 そして、優しく、寄り添うように声音を変化させた。

 それは、前世でうさぎを飼っていたときに習得した技である。

 

 「そ、それは、その少年が、その…………」


 そうリリスがいいかけたとき、少年がハッとしたようにリリスに振り返る。

 そして、群青の瞳を燃やしてその口に牙を覗かせる。


 「――――――アカン!!」


 ルナが反射的に少年とリリスの間に割って入る。

 リリスと少年の距離はさほど近くないが、それでもルナは危険視した。

 それは何故か。

 リリスこそが、この少年の狙いそのものであるからだ。


 ルナが割って入った瞬間、少年は牙を光らせ、リリスに飛びつく。だが、その過程にルナが割って入ったため、自然とルナに攻撃がいく。

 勿論、ルナはそのことを承知で割り込んだのだ。


 少年は仕方がないと言わんばかりに、ルナの首筋に牙をたてる。

 

 「いっ」


 ルナは手に持っていた剣を使おうと手を上げる。だが、その手は止まってしまった。


 少年は地壊龍である。

 地壊龍は、万物を破壊へ導く。

 その通り、ルナに破壊が迫っていた。

 首筋は青く変色し、瞳は虚ろに揺れる。

 アルムフェルザはアルウェンが引き剥がそうと力を込めても、少年は牙を抜かない。


 そして、ルナは気を手放した。

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