0.1 転生したら
今夜は、王家主催のパーティである。
本来ならば、そこに招待されたことは喜ぶことが普通であろう。
ましてや、第一王子も参加するとなれば、年頃の少女らはキャッキャキャッキャとはしゃぎまわる。
だが、ルナ・カルテトは、このパーティの開催を、地獄の到来かというほどに危惧していた。
それもそのはず。
彼女は、今夜断罪される予定の“悪役令嬢”なのだから。
(あぁ〜、ほんっとにやばいんだけど。)
補足すると、この“物語”の結末まで知りうる、転生者である。
ゴリゴリの現代っ子であった少女は、歩道を歩いていたところ、車に突っ込まれてこの世界へ転生した。
―――――断罪直前に。
転生した頃にはもうヒロインへの数々の所業は終え、これからの断罪は必然となってしまっている。
(絶望感半端ねぇ)
だが、今から逃げるにしても今の自分の名誉が損なわれ、現代っ子として話したこともない人々に馬鹿にされるのがオチだ。
メンタルは豆腐だが、プライドだけは高い。
なんとかして乗り切りたいとこ――――――
その時、個室の扉が開き、従者の少女が中に入ってくる。
「ルナ様。ご指定のお時間になりましたので、お迎えに上がりました。」
「あ、ありがとう……。」
礼を告げると、従者の少女は怯えたように肩を震わせる。
礼を告げるのは人として当然のことだと認識しているのだが、なにかおかしなことをしたのかとルナは少し不安になったが、不審がられては困ると、スルーすることにした。
スタスタと廊下を歩き、会場へ向かう。
ルナは婚約者としてこの王宮に部屋を設けられており、先程まではそこで待機していた。
歩きながら、装飾が映す自分自身の容姿の変化に動揺しつつも、ルナは凛とするよう意識する。
長い廊下を歩きつつ、ルナは状況を整理する。
(えーっと、ここは多分なんか知らんけど多分なんか知らんけど昔読んだラノベん中で、うちは断罪される当て馬のご令嬢。その後は書かれてへんかったような気ぃするけど、どうせあるんやろな。
今までルナは正ヒロインのリリス・アルノコトンをイジメ倒してきて、それをルナの婚約者のアルバート・ナルヘルムが守って、婚約破棄。
よぅある設定やな。)
バリッバリの関西弁を駆使しつつ、ルナ及び元関西現代っ子は、なんとなく整理していく。
つまり、ルナは正ヒロインのリリスに嫌がらせを行い、それを阻止しようとした王子―――アルバートにより、断罪・婚約破棄される。
(いやいや、うちなんもやってへんて!
やったのルナやし。)
物語ではルナの心情は描かれておらず、ルナ自身の今までの考えも何も分からない状態なのだ。
外見はそうでも中身が違うというのに断罪されるというのはゴメンだ。
「あ、あの、ルナ様。こちらが会場で御座います。」
怯えたように報告する従者の声でハッと我にかえり、ルナはいつの間にか扉を通り過ぎていたことに気がついた。
「申し訳御座いません!私の注意が足りなかったばかりに、ルナ様に無駄にお力を消費させてしまいました。ど、どうか、この首だけは、どうか御慈悲を―――――!!」
「――――――っへ?」
この子は何を言っているのだろう、ルナは率直に思った。
そして、ある結論を導き出した。
それは、ルナの性格が原因だということである。
ルナは男爵令嬢のリリスをイジメるくらいには肝が座っている。従者の少女に嫌がらせをするくらい、どうとでも思わない性格なのだろう。
そして、その『ルナ』の行動は、この少女をこれほどまでに締め付けていた。
「――――――大丈夫。そんなことで首はねたりしませんよ!」
そう言うと、従者の少女は安心したように息をつき、そしてその瞳を潤わせる。
ルナは少女を泣かせてしまったのではないかと慌てふためく。周囲の目など気にせずに。
「えっえっと、どうしたの?痛いの?大丈夫?」
慰め方など知らない現代っ子は、なんとかして涙をとめようとする。
現代っ子は少女の涙に弱いのだ。
「……いいえ、違うです。」
少女はこぼれ落ちる寸前の涙を拭い、ルナの目を見る。
「―――――――嬉しいんです。」
目を細め、微笑む少女は、光輝いているように見えた。
ルナまでつられて涙ぐめればよかったが、生憎ルナにはそこまでの気はまわらない。
「そう?なら、よかったね!」
そう言い、笑い合うだけで、精一杯だったのだ。
すると、会場の方が賑やかになっている事に気づいた。
どうやら王子でも現れたのだろう。
(………断罪の時間か………)
「じゃあ行こっか。」
「はい、ルナ様。」
大きな扉に手をかけ、力いっぱいに押す。
そして、ルナは自分の目を疑うことになる。
(え、え、どうなっとんの??)