花喰い
都の中央広場の石畳に拳を打ちつけながら、女は殺してやると叫んで果てた。女の亡骸からはむせるように甘い花が群れ咲いた。
花に近づく人間は皆、死んだ。花は都中に繁殖した。旺盛な生命力で、次々と人を虜にして殺したんだ。
うん。待って。煙草に火を点けさせてくれ。
ふう。青空の下の一服は格別だね。
何せあの花がここいらを埋め尽くすようになって、外に出るのも覚束なかったから。
貴方もそうだろう?
それでも今、ここにいる。見上げたジャーナリスト根性だ。
花を一掃する方法はない。あれには火も効かない。人間を栄養にして、ただただ爛熟の一途さ。女の恨みを晴らさせてやれば良い?
そうだねえ……。
怖いこと言うね。つまりは人身御供だ。
ああ、ほら、また一人、花の餌食になったよ。花喰い。花喰いだよ。
艶々と美しい花弁は毒々しさもある。
余り近づかないほうが良いよ。あれの瘴気にやられるから。
ふらふらと吸い寄せられるんだ。進んで花の餌食になる。
花にはルビーみたいな核がある。言わば親玉だ。
亡骸が変じて核となった。
爛々と花は狂い咲き獲物を待ち構えている。
次は俺かな。それとも貴方かな。
青い空の下、毒々しいように美しい花の群れはいっそ、壮観だ。
花は蕾が綻んで狂って咲いて喰って増えて、千切っても千切っても死にはしない。
人を喰らっては生き続ける化け物。
あんなに美しいのに。
あんなに優しかったのに。
男がいけなかった。女を裏切ったあいつがいけなかった。
ああ、一服が終わる。
女を裏切った俺の命も、もうすぐ終わるんだろう。
でもその前に、この猟銃で、あいつをどかんとやらなきゃね。
ねえ、記者さん。
ちゃんと記録しておいてくださいね。