卒業式後の取り調べ
昨日と同じ四人の教員が、朝から校長室のソファに集まった。
卒業式を控え、あまり時間は無かったが、ユーリアの件について少し話をした。
「もう帝国へ連絡なさったんですね」
「うん…校内で規則に抵触する魔法発動がありました。事情聴取のためユーリアを数日間こちらで預かります。…って手紙を送ったよ」
「お疲れ様です、責任者様」
「言い方考えるのも大変ですね」
軽い朝食を囲みながら校長を労った後、ジュラは救護室に移した生徒と、記憶障害の可能性があるユーリアの件を共有した。
副校長はテーブルを片付け、仕上げの水拭きをしながら尋ねた。
「その場しのぎでやってる訳では無さそうですか?」
「無くもないけど可能性は低いかな。本格的な聞き取りは午後だね」
イトーは食後のお茶を手にしながら、壁に掛かった時計を見た。
「そろそろ移動を始める時間です。シュガールさんは今、一人ですか?」
「一応、見張りはつけてる。階段を施錠したから地下なら動き回っても大丈夫」
「なるほど」
校長が、よっこいしょ、とひざに手を乗せて立ち上がった。
「まずは卒業生の送り出しですね」
四人は講堂へ向かった。
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卒業式中、ユーリアの見張りに駆り出された男は暇だった。
(ロウは寝てないかな)
ユーリアは鍵のかかっていない檻の中で膝を抱えて座り、立ち上がることも無かった。
むしろ彼の方が寝てしまいそうなところ、ジュラが彼の肩を叩いた。
「お疲れ様。もう行っていいよ」
「…あぁ、ジュラ。お疲れ様です」
特に申し送り事項も無かったため、彼はそのまま立ち去った。
ジュラはユーリアを連れて椅子のある部屋に移動した。
「さて」
ジュラはさっきまでいた見張り役が沸かしたお湯を使い、適当にお茶を用意した。
そしてユーリアの向かいに腰を下ろし、改めて問いかけた。
「何で、あんなことしたの?」
「それが役目だから」
ジュラはため息をついた。
既に何度も同じような質問をしては、この答えだった。
「…どうして国に返さないんですか」
ようやく別のことを話しはじめたユーリアを意外に思いながら、ジュラはカップを手に取りながら答えた。
「自分も人殺しになりたくはないからね」
「…」
「君もそうなんじゃない?」
その言葉に、俯いたままのユーリアは不意に顔を上げ、ジュラと目が合った。
その表情を見たジュラは、やはり彼女を帝国に戻してはいけないような気がした。
「まだ誰も死んでないよ。君も」
「…先生…でも…私は……」
そこからしばらく、ユーリアは黙った。
ジュラは足を組んで副校長からもらったお菓子を広げ、お茶を飲んだ。
「シャロットを殺せば、この世界で生きていけると思った…」
静かに話しはじめたユーリアの方を向き、ジュラは音がしないようカップをそっと置いた。
(この世界?)
気になる部分は後で確認することにして、ジュラは続く言葉を待った。
「結局、私は自分のためにあの子を殺そうとした」
(テラシアは守ろうとしたのに)
「テラシアとは違う。一緒になんて…いられる訳なかったんです。私なんか」
アウトプットに慣れていない彼女の言葉は途切れ途切れで飛びがあり、話し終えるまで長い時間がかかった。




