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合流、突入、脅迫…?

翌朝、彼が食堂に下りて行ったところ、ジブレーがカウンターでお茶を飲んでいた。


「おはよう」

「あぁ、おはようござ……」


彼は時計を確認した。

(始発で王都を出たとしてもまだ列車内のはず…ですよね?)


「え?魔法?これが魔法です?」

「…ふっ」


ジブレーは堪えきれず、笑い声がこぼれた。


「ごめんなさい、驚かせて。そう、列車よりも速く移動できる王族用の道具があるの。タリスが使わせてくれて、さっき着いたところ」

「はぁ~。さすがですね、王太子殿下」

「王族もいいことがあるみたいね」


彼を驚かせることに成功したジブレーは、彼に席を勧めながら、珍しく冗談めいたことを口にした。


「本当ですね、朝からお嬢様にお会いできる幸運に恵まれたのは、私も一応王族だからでしょうか」

「…朝から調子が良さそうね。ボスが朝食を作ってくれるんですって」


ロウは女の子が好きとテラシアから聞いていたが、彼もそうなんだろうか。お国柄なのだろうか。


ジブレーは(久々に苦手なやつが出てきたわ…)と思う一方で、それだけ昨日は彼も余裕が無かったのかも知れない、と感じた。


「ジブレーー! おはよーーーーーーー!!!」


そこへ、サイティが飛んで来た。興奮した様子で両手をバタバタしていた。


(おはよう。外にいたのね)

「そう!ワンちゃんがいるの!可愛いわよーー」

「犬?」

「あ、そうそう、野良犬を料理長が保護したんですよ」


隣にいた彼が答えたことで、ジブレーはまた声が出ていたことに気付いた。



ちょうど良いので、ジブレーは森の入り口で走る犬と彼を見守りつつ、用具入れの近くにあるベンチに腰掛けた。


「駅前に教員用の寮があるのよ。そこを叩くわ」

(ジュラ先生に会うってことよね?気になっていたのが、先生は面倒が嫌いじゃない?何かメリットとかあるかしら)


「ふふふ…」

サイティには秘策があった。


「脅迫材料がありまーーす!」

(…私、信じる相手を間違えてないわよね?)

「まだ分からないけど一旦聞いてちょうだい」


-----


お産の現場とは思えない凄惨な光景だった。

それは自分でも分かっていた。


血まみれの手術台に、死にかけの王妃と、必死に双子の世話をする善良な助手。

そして血まみれの私が、王妃の前に凶器を持って立っていた。


「お前! 生きている王妃の腹を裂いたのか!?」


(チッ)


役に立たないお父さんに詰め寄られ、心の中で舌打ちをした。まだまだやるべきことはたくさんあるのだ。

一応、説明を試みたが、当然ながら生きる世界が違う彼とはお話にならなかった。


(あいつら…誰も入れんなって言ったのに…)


とはいえ、王様相手に無理なこととは分かっていた。

手術の邪魔をされなかっただけマシかもしれない、そう思いながら王妃を見た。


(目を覚ますかも分からない。でも、覚ますかもしれない)


これ以上、自分にできることは無さそうだった。牢屋にブチ込まれる道すがら、助手に声をかけた。


「お母さんは足のマッサージを忘れるな。痛み止めが必要なら自分の判断で与えてくれ」

「カシマさん…」


青い顔でこっちを見ている助手の顔は、もはや手術される側だった。


「ごめんな。赤ちゃんの方は、大丈夫だな。頑張って産まれてきたんだ。頼むよ」


阿鼻叫喚の手術室で、あの助手は最後まで聞き取れただろうか。

そんなことを考えながら、私は地下へ引きずられていった。


-----


(まぁよく死なないもんだ)


いつも通りの獄中生活が始まったある日、看守に呼ばれた。


「王妃殿下が…目を覚まされた。お前を呼んでいるとのこと」

「!」


思わず鬼の看守に笑顔を見せてしまった。使い古された言葉ながら、母は強し。のようだった。


鬼看守は「下手なことをすれば命は無いぞ」と言いながら、温かく大きな手で私の肩を叩いた。

投獄当初ほど自分を殺人鬼扱いしなくなっていたが、仕事柄あまり良くないのではないか。


それからは久々に人間らしい恰好を許され、王妃に拝謁という運びとなった。



「気分はどうですか」

「死ぬ。死ぬほど痛いわ。あと内臓が出てきたの。怖い」

(うんうん)


王妃の状態は良さそうだった。柄になくこみあげる涙をこらえた。


「内臓じゃないですが、しばらく続くんでファイトです。熱は?傷口も診たいのですが…」

「あぁ。看守さん、後ろを向いてくれる?見たいなら止めないけど…」


察しの良い王妃のお陰で鬼看守は引っ込み、問題なく診察することができた。


「本当に…よく頑張りましたね」

「頑張ったなんて。何にも覚えてないのよ、私」

「覚えてなくても頑張れたんだから流石です。…ただ」


必ず自分の口で伝えると決めていたが、どう説明するかがまだ固まっていなかった。

診察を終え、膝に置いていた手を握りしめた。


「…すみません。子宮を残すことができなかった…」


王妃の視線を感じた。全く説明できていなかったことに気付いて顔を上げた。

王妃の笑顔があった。


「もう。何て顔してるんです、らしくない。受胎する場所が、無くなってしまったということね?」

「…はい。王子殿下のご誕生後も出血が止まらず、失った血を補う術も無いため、私の判断で…摘出しました」


行為に対して悔いは無かったが、この世界で、王妃が子を成せないという事実がどれ程のことか、さすがに分かっていた。


(ひと目くらいは双子に会わせてもらえないだろうか。…いや、無理だろうな)


私は加害者として被害者の目を見つめた。

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