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王国の海岸にて

ヒーラックへ向かう馬車で、ジブレーは少し酔ってしまった。


(緊張してるのかしら)


人前に出ることが苦手なジブレーにとって、公務前は仕方ないことではあった。


とはいえ、案内された屋敷は王都式の落ち着いた雰囲気で、ジブレーは少し休むとだいぶ元気になった。

今日はもう馬車に乗らないこともあり、ジブレーは次の予定までヒーラックを歩いてみようと思い立った。



まだ日は高く、春のやわらかな日差しに白い砂浜が映えた。

それでいて、随所にそびえ立つ大きな岩や崖に、ジブレーは穏やかさと荒々しさの不思議な調和を感じた。


(海が近くて良いわね。…なんだかシャロ達の島と似ているような…)

「昔はシャロット達の島と近かったらしいから、どっか通じてるのかもね」

「え?」


ジブレーは、馬車と船で三日かかった地獄の道のりを思い出した。


(島ってそんなに動くもの? ヒーラックは王都からなら当日中に着けるのに)

「そうみたいよ。あんま詳しくないけど…それより」


サイティは海岸を警備しているヒーラック兵の一人を指差した。


「あそこにいるの、知り合いじゃない?」

「え?」


顔が分かる位置まで近づいたところで、ジブレーは再び思わず声が出た。


「なっ…」


その兵は恭しく礼をした後、微笑んだ。

近くに控えていたドリュも彼の顔を見て、驚きと戸惑いの目でジブレーの指示を仰いだ。


「お嬢様、私は…」

「…そうね…あの、彼と少し話すから…いつものように見守っててくれる?」

「承知いたしました」


ドリュは会話の内容が分からない程度の距離を取り、護衛を続けた。

(ご学友とはいえ王太子殿下が…いや、私は仕事を全うするだけ)



公女と王太子っぽい警備兵は、海岸で再会の言葉を交わした。


「あなた、自分の国でもこんな事をしているの?何か、もっと…繊細な行動が求められるものじゃない?」

「平和ですよね」

「そういう話じゃ…確かに、兜があるからって、誰も気付いていないのかしら…」

「警備兵まで王太子の顔を覚えているってことは無いみたいですね、大騒ぎになってないでしょ?」

「うーん…」


ジブレーが言いくるめられた頃、サイティが口を開いた。


「お説教しても喜ぶだけよ。なんか用があるんじゃない?」

「あ…何か用があったの? 登城前にわざわざ来るなんて」


警備兵は兜を外し、口元だけ笑って見せた。


「そうですね。せっかくなので、重い話題は先に済ませてしまおうと思いまして」

「重い話題…?」



海岸の空は早くも陽が傾き、紅色が差してきた。

座ることもせず、二人は並んで海の方を向きながら話を続けた。


「まず、私にとってあなたが特別な存在ということは、お気付きですよね?」


「っえ?」

「あなただけが、ロウではない私を区別できる」

「あぁ…そうみたいね」

「私もミスをしましたが、不思議だったんです。何故、最初に会った時から違うと分かったんです?」


(最初に会った時って…)


ジブレーはボヤボヤ廊下を歩いて足をグネッたことを思い出し、恥ずかしさがぶり返した。


「えぇと…」

「知っていた、と考えるのが一番自然なんです」


心臓が大きく打った気がした。


「知っていた…って」


ジブレーは思わず隣にいる警備兵の方を向いた。

サイティは二人の近くにある岩場に腰掛け、沈み始めた太陽に色付いた空を眺めた。


「あなたが、もし、私のことを知っているなら、伺いたかったんです」

「何、を…」


岩にぶつかる波を見ていた彼もジブレーの方を向き、二人の視線が重なった。


「私はいつ死ぬんですか?」


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