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助けてサイティ先生

ジブレーが列車に乗るやいなや、サイティが話しかけてきた。


「う、ふ♪ 可愛いわねぇ、そのブレスレット♪」

(気付いたわねサイティ!)

「え?」


ジブレーの思わぬ迎撃により、サイティは勢いを失った。


(これはただの装飾品じゃなくて、酔い止めの効果があるそうなの!)

「お、おう」

(魔法とは違うんですって。医療の知識は奥が深いのね)

「そうなのねー。すごいわー。技術革新だわー」


ジブレーをからかうことを諦め、サイティは素直に彼女の卒業を祝った。


「ともかく、卒業おめでとう。良かったわね」

(ええ)


ジブレーは笑顔を見せた。

普段、自室以外ではサイティの方を見ずに会話をしていたが、今回はサイティに身体を向け、目を見て感謝を伝えた。


(今日は朝から色々な人に祝ってもらえて… 本当にいい日なの。サイティのおかげよ。ありがとうって、ずっと言いたかったの)


「あなた… ちょっと、やだ、これが卒業を見守る親の気持ちなのかしらー! もーー、立派に育ったわねーーーー!」


一気に騒がしくなったサイティの照れ隠しに、ジブレーは自然とまた笑顔になった。


「明後日には16歳だものね。以前はもう結婚していたなんて考えられないわ」

「結婚!? ジブレー? 結婚? 誰が?」


つい声に出ていたジブレーのワードをキャッチしたカルヴァドス大公が、車両の扉を開けてジブレーに突進して来た。


「パパさんの聴力やば」

「お父様。列車の乗り心地はいかがですか?」


「あ、うん、揺れないし速いね! 何で動いてるのかよくわかんないケド^^; 新エネルギーってヤツ?」


「そうなんです、新たな資源と、それを安全活用する技術の結晶で、ゆくゆくは我が国にも走らせたいと思っています。そうしたら友人が王都で結婚式をしても行きやすいという話ですお父様」


ジブレーは父を適当にあしらいながら、久々の列車移動を楽しむための計画を実行することにした。


(そろそろ緑も多くなってきたし、景色を見ながら食べようと思っていたものがあるの)

「あ、おいしそう」


サイティは、ジブレーが鞄から取り出したマドレーヌに興味を持った。


(ええ、ちょっと、もらったの)

「へぇ? 料理長さん?」

(いいえ。 …その件に関連して後で相談があるの)

「?」


-----


王都から実家へ向かう馬車を前に、ジブレーは緊張の面持ちでブレスレットを撫でた。


「なんだか、これを着けたら大丈夫そうな気がするわ」

「おー!」


(必ず生きて家に帰るわ。相談したいことがあるの)

(フラグ立ててる…)


そう、ジブレーには一刻も早く相談したいことがあった。


-----


カルヴァドス大公は馬車から駆け降りるや否や、執事のヴィンを呼んだ。


「パレードを開くぞ!ジブレーが自分の足で馬車から降りた記念だ!」


大公の後ろでは、卒業式にも参列した画家がジブレーと馬車を熱烈にスケッチしていた。


「ジブレー、あなたが止めないと」

「そうね…」


お父様が馬車を操ってくれたおかげで過ごしやすかった、と愛娘に言ってもらう機会を逃したことに、大公は気付いていなかった。

強めにたしなめられて静かになった大公をヴィンに任せ、ジブレーはサイティと自室へ向かった。


-----


「…なんで?」

「わっ…からないわ…」


ロウとタリスの卒業を機に、互いの母国であるヒーラックと帝国を結ぶ交通手段の開発プロジェクトが発足される運びとなった。


両国の王家、専門家を招いた晩餐会が開催されるため、そこに隣国であるカルヴァドス公国も招待したい。


「って。明日にでも招待状が届くと思うわ」

「あー… そう聞くと別に変じゃないか。え?でも、それって隠れ蓑でしょ?」

「えっ、どういうこと?」


怪訝そうな表情のジブレーを見て、サイティはニヤリとした。


「だから、あのあんちゃんとお出かけするために、そんなガチっぽい会に招待したんでしょ?公女様も大変ねぇ」

「………!」


サイティはようやくジブレーから望み通りの反応を引き出すことに成功した。

せっかくなので、反論の準備ができたジブレーの回答を聞いてみることにした。


「お出かけっていうのは正確ではないわ。この、これ! この酔い止め腕輪を彼はつけてみたことがないって言うから、効果を! 検証して伝えてみるまでよ。そう、お礼も兼ねて」

「えぇ~? それなら手紙とかでよくな~い?」


サイティは許してくれなかった。


「それは、ほら、どこ宛てに送ったら良いかも分からないし… そう、それなんだけど」


ジブレーは声のトーンが変わった。

サイティは(おもちゃになってくれるのも一旦ここまでか)と悟った。


「彼は、ロウではない…わよね?」

「どうして?二人が並んで歩いてるとこでも見たの?」


彼らがそんなヘマをすることは無かった。ジブレーは黙って首を横に振った。


「でも… 彼はロウじゃない。本人も言っていたもの。身内だって」

(それは彼のヘマよね)


サイティは、中途半端な行動でジブレーを惑わせる男を思い浮かべ、やや眉をひそめた。


「彼はあなたには嘘つかないわよ。相談っていうのは彼の正体が謎すぎるってこと?」

「あ、そうじゃないわ」


重い話をする心づもりができていたサイティだが、ジブレーの相談事はまだだった。


「ごめんなさい、脱線したわね。他に話せる人が居なかったものだから、つい不安で確認したくなったの」


彼についての話は、本人に聞くと決めていた。サイティから未来を聞かないというジブレーの方針に変更は無かった。


「これは正解というか、誰に聞くのが正解かも分からないのだけど…」


ジブレーの表情から苦悩の深さが窺えた。


(彼じゃないなら、ユーリアに関すること? だとしたら私にはまだ何も言えないし…)



ユーリアに関する処置はまだ決まっておらず、そもそも、なぜ彼女が校内で魔法を使用できたのか検証もできていない状況だった。


加えて、彼女の祖国は、ユーリアの身柄を拘束する学校側の対応が重大な権利侵害だと非難しており、内外ともに課題が山積していた。


さらに、実行犯となった女生徒は精神的ダメージが大きくて当時の状況に触れることが難しいため、ユーリアの証言が出るまではサイティにも何がどうしてああなったのか分かりかねる部分があった。


(完全に原作には無い動きだから)


だが、ジブレーが恐れているのは彼女に関することではなかった。


「…制服で行くのは違うわよね?」

「は?」


「いえ、市街地でも歩けるような服が要るのだけど、今まではお父様の選ぶ服ばかり着ていたから」

「服?」

「…ええ、服。 …それと、シャロットやテラシアを呼ぶのもダメよね?」


サイティは、自分が要らぬ心配をして損したことに気付いた。


「ダメです」

「そうよね… あと、お父様をどう捲こうか、とかも…」


ジブレーが言い終えるのを待たずにサイティが宣言した。

「明日は城下町に行くわよ!」


「ええ? 待って、今日やっと馬車で帰って来たのよ?」

「それ付けてれば酔わないんでしょ!」

「あっ、確かに」


誕生日前日は王都の城下町へ行くことが決まった。


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