解散
イトーは机の上に置かれた黒い石盤に、白い石筆で聴取内容を書き込んだ。
「えー、まとめますね」
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【経過】
生徒Aが手紙を寮の個室に差し入れ、シャロットを呼び出す
→電気棒?によって気絶、拉致
→早朝かつ生徒B~Fが見張りや口裏合わせ、目撃者なし
→テラシアとジブレーの捜索により大講堂の地下で発見
→生徒Aに指示していたのがユーリア
→シャロットの殺害予定を自白
→魔法の使用?
※シャロットの意識は戻り、首に火傷・しびれ(軽度)
※天網システム要確認
【ユーリア・シュガールの動機】
→テラシアとタリスを結びつけるため
→?
※物語の登場人物だと思っている???
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「えー、そこにカスクさんが現れて、シュガールさんの虚を突いて制圧したと」
イトーはそこで石盤からロウに視線を移し、ロウは黙って頷いた。
「なるほど。彼女の方はジュラが話を聞いているので、これから擦り合わせることにします。今日は部屋に戻りなさい」
石筆を置き、イトーが立ち上がった。予想外に早い解放に、シャロットが驚いて尋ねた。
「え…戻っていいんですか?」
「問題ありません。ただし、明日以降も召致の必要が生じる可能性はあるので、またお知らせします」
ジブレー達は顔を見合わせた。仮にも殺人未遂があったのに、本当に良いのか?と。
「これから、寮内をくまなく警備します。あなた達は卒業式に遅刻しないよういつも通り過ごし、就寝してください」
イトーの口調は淡々としたものだったが、彼との付き合いが長い生徒達には、生徒を気遣う気持ちが伝わってきた。
「ありがとうございます。イトー先生。最後まで、お世話になります」
シャロットは入学当初、読み書きが随分と遅れていたため、イトーに補習や質問の時間を多く割いてもらっていた。
「イトー先生が来てくれたとき、すごく安心しました。ありがとうございます! 早く寝ますね」
テラシアもまた、王国独特の言い回しや固有語が不得手で、高学年になってからも何かと面倒を見てもらっていた。
(後のことは先生たちに任せよう)
テラシアもジブレーも、ようやく地に足が付いたように感じた。
イトーに挨拶をして、4人はそれぞれの部屋に向かう形となった。
女生徒の個室がある区画まで3人を送り、自室に戻ろうとするロウを、ジブレーが引き留めた。
「ロウ… あの」
「ん? どうしたの?」
(なんて聞いたらいいのかしら…)
「怪我は無かったのかしら」
迷った末、ジブレーは無難な聞き方をすることになった。
「怪我? あぁ、うん、大丈夫だったよ?」
「良かった」
改めて彼が飛び出した瞬間を思い出すと、ジブレーは心臓が止まったような思いがした。
(死ぬところだったかも知れないのだから、当然よね)
「お礼が言いたいのだけど…」
「えぇ? いいよ、改まって。それにあのときは夢中で、よく覚えてないし」
ジブレーは歯痒かった。どこまで彼らの問題に首を突っ込んで良いのか計りかねた。
(それに、彼は本当は出てきたくなかったのよね)
いつか会えたらお礼を言えばいい、いつものように。頭の中ではジブレーもそれが一番だと結論付けていた。
(あれ? でも、次っていつ?)
ロウは明日を最後に帰国予定だった。卒業したら、彼に出会う前のように、他の生徒と同じように、ロウと同じ顔を持つ者の存在など消えてなくなる。
「ロウ」
(偉そうにユーリアに説教めいたことを言ったのだから、王家の秘密だの何だのに気後れする訳にはいかないわね)
「お礼を言いたいの。次に会える日が無いか、確認してもらえないかしら」
そう伝えるジブレーの眉間にはシワが寄り、お礼と言うよりお礼参りのような迫力ある表情になっていた。ロウはたじろぎながらも同意して帰っていった。
ジブレーも自室へ歩きながら、ため息をついた。
「はぁ…」
(聞くだけ聞いたからそれで良いわよね、あぁ可能な場合のみ返事をもらうようにすれば良かったかしら、難しいって言われるより受け止めやすかったかも …そもそも、すべて私の勘違いであれがただ似てるだけの親戚とかだったらどうしよう、いやでもそんな人いないはず…)
「サイティ、今ここにいるのかしら」
見ていてほしいような、見られたくないような。
複雑な気持ちで部屋に戻り、繰り返し寝返りを打ちながら何とか眠りについた。




