集合
「どうして、あなたが…」
彼は一気にユーリアとの距離を詰め、両手で彼女の襟首を掴んだ。あまりに一瞬のことで反応できないまま、ユーリアは気を失った。
彼は続けて彼女の腕を後ろで手際よく拘束し、彼女をうつ伏せにした状態で制圧した。
「殺して良いですか? …はい、そうですよね」
彼はユーリアに馬乗りになった状態でジブレーに尋ね、許可が出なかったため大人しくユーリアに目隠しをした。
「彼女の一族は目で人を石にする力があるとか。言い伝えでしょうが、一応やっておきましょう」
「あの、ここにいて大丈夫なの?」
この騒ぎに魔法の使用があったのだ。じきに誰かが来るだろうと思うと、ジブレーはロウと出くわす可能性に冷や冷やした。
「うーーん困りました、でも、じきにこの人も目を覚ますでしょうし、もうちょっと押さえておきましょう」
最初に現れたのはイトーだった。隣にはシャロットが立っていた。
「全員、動くな! 魔法を使った場合は拘束する」
(これはまずいんじゃ?)
ロウが目隠しをしたユーリアを押さえつけている図は誤解を呼ぶのでは?と感じたテラシアは、慌てて叫んだ。
「先生! 違います、今はもう安全です、たぶん!」
「助けて! 先生、助けてください、殺される!」
同時に、ユーリアが叫んだ。
イトーは彼女に馬乗り状態の男としばし目が合い、首を傾げ、それから指示した。
「よくわからんが、ユーリアから離れて」
彼は両手を上げて立ち上がり、ユーリアから離れた。
「これから全員に話を聞く。明日が卒業式だというのに、何をやってるんだ。他の者も呼ぶから、待機するように」
「先生!」
シャロットが呼ぶ声をよそに、イトーの姿は消えた。
「ユーリア、どうして」
「やっぱ強制力よ! ここで私が! シャロットをやらないと!」
勢いよく立ち上がると、ユーリアはシャロットに駆け寄りながら目隠しに手をかけた。
シャロットは思わず目を瞑り、テラシアはシャロットを隠すように前に出た。
「いい子ねテラシア! でも無駄ぁ!」
二人の意思とは関係無く、テラシアの足は止まり、シャロットはユーリアから目を離すことができなくなった。
ジブレーも駆け寄ろうとしたが、彼に止められた。
(…どうして!)
「そこまで!」
その声とともに、ユーリアはべたりと床に這いつくばった。
シャロットとテラシアは力が抜け、その場に座り込んだ。
「現行犯だね」
何かに変身していたのか、ジュラが突然現れた。
「怖がらせてすまないね。もう大丈夫」
「先生…」
扉をノックする金属音が響き、イトーが入ってきた。
「臨時魔法使用があったため現場の確認に来ました。全員に話を聞かせてもらいます」
ジュラは床を這ったままのユーリアに淡々と拘束具を取り付けた。先程までの抵抗が嘘のように、ユーリアは身じろぎもせず黙り込んだ。
「ではクライヌさん、レースさん、カルヴァドスさん。一人ずつ話を聞きますのでこちらに来てくれますか」
(えっ)
ジブレーは、すぐそこにあった姿が消えていたことに気付いた。だが言い出すことはできず、左右に視線を巡らせながら部屋を出た。
遅れてジュラがユーリアと気絶したままの女生徒を連れて部屋を出た。
「ロウにも話を聞きますので、イトー先生の部屋に向かってください。無事に卒業できるよう、ファイトです」
ジュラは休日返上になった分、彼に仕事を手伝ってもらうことを決めて変身魔法を解いた。




