現行犯
ジブレーは混乱した頭でテラシアを見上げた。
テラシアの視線は、更衣室に掛けられたドレスに向いていた。
(やっぱり…)
それは紛れもなくテラシアが、シャロットのために用意したドレスだった。
ジブレーは、女生徒達が支度室から運び出したのかと思っていた。だが支度室のスタッフが、人のドレスを易々と他人に渡すとは考えにくかった。
内扉が開き、誰かの足音が、部屋の奥に近付いてきた。
「…」
縛られた生徒を見つけたのだろうか。足音が止まった。
「うううううううううううう!」
突然、悲鳴が聞こえた。
ジブレーは思わず肩が跳ねたが、何とか声は抑えることができた。テラシアは出ていくか迷ったが、次に聞こえた声に驚き、呆けた顔でカーテンを見つめた。
「騒ぐな。シャロットはどこか言え」
「違うんです! ごめんなさい! あいつらが、あぞっうぐぅーー!」
「どこかって聞いてるだろ」
校内では魔法も凶器も使用禁止であり、そもそも使用できないと生徒は聞かされていた。
(何で天網システムが作用しないんだろう?)
テラシアは、震える手でカーテンを開けようとするジブレーを目で制したが、断続的に上がる叫び声やうめき声を、このまま聞いていられなかった。
次の悲鳴が聞こえた瞬間、テラシアは侵入者に飛びかかった。
侵入者は振り返りながら棒状のものを振り下ろし、テラシアは右肩に強い痛みを感じた。だが身体は勢いのまま相手を巻き込み、床に倒れ込んだ。ジブレーは一瞬遅れて駆け出し、侵入者が倒れた拍子に落とした凶器を蹴った。
「うっ…」
「テラシア!」
ジブレーがテラシアと、その下に倒れた侵入者の方を見た。
「え…?」
驚きのあまり声を失ったジブレーをよそに、テラシアはそこまで驚いていない様子だった。侵入者は意外にも抵抗することなく、テラシアの下敷きになりながら天井を向いたまま、動かなかった。
テラシアは痛みを堪えるように肩を押さえながら、何とか起き上がった。
「う… 彼女を… 縛ったのは私です… こんなことした理由を、教えてくれますか?」
「どうして…?」
ユーリアは横になったまま、無言でジブレーを睨んだ。




