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公女殿下の聞き込み(取り調べ)

大講堂の空いている控室は全て確認した。

廊下にも、舞台裏にもシャロットはいなかった。ジブレーはさすがに不穏さを感じていた。


(使用中の控室もあるのね… ここまで来たら)


と、ジブレーは使用中の控室をノックして回ることにした。



「はい?」

「準備中にごめんなさい。シャロットを探しているのだけど、誰か見なかったかしら」

「シャロット? ちょっと待ってくださいね。おい皆、シャロット見た?」


どの控室も、ジブレーの呼びかけにドアを開いて応じ、中にいる者たちに声をかけて協力してくれた。1か所の例外を除いて。


-----


「…そう。あの、中にいる人にも聞いて良いかしら」

「でーすーかーらー、中の者もみな知らないと言っているでしょう」


(見ていない場所はここだけ… お礼参り…)


こちらの都合でこれ以上邪魔するのは気が引けたが、ここだけ見ないという訳にはいかなかった。


それに、正面に立つ生徒の名前は知っていた。テラシアから、シャロットにつっかかる生徒がいると聞いた際に挙げられた生徒の一人だった。

現場を見た訳ではなかったが、何を聞いても知らぬ存ぜぬで取り付く島もない様子の彼女から、どうもシャロットに悪感情があるような印象を受けた。

ジブレーは、向こうの予想がつかない質問でもう少し本音が聞けないか試してみることにした。


「はぁ。あなたは私の敵なのかしら?」


ジブレーは落ち着くために息を吐き、早口にならないよう意識して問いかけた後、軽く首を傾げながら生徒の目を見つめた。身振り手振りもコミュニケーションには大事だと教わったからだ。


その一言で生徒は急に勢いを失った。ジブレー・カルヴァドスとは本来、冷酷な美しさと強大な権力に裏打ちされた、この国で王族を除くすべての者に有無を言わせぬ力を持つ存在だった。


「敵って… そんな、急に大げさな… ただ知らないって言ってるだけじゃないですか」


「論点が違うって分かってる? あなたの部屋でもない場所に、人探しのためにちょっと協力を依頼した私に対する態度について言っているの。私にそういう態度をとるのは何故かしら。敵対しているか見下しているかじゃないかって思うけど、違うの?」


シャロット達と一緒にいるジブレーの姿に慣れていた生徒も、ここまで言われて逃げの姿勢に転じた。


「い、いえ… そんな、とんでもない…」


「じゃあ、どうして? 私が理由じゃないなら、なぜ、あなたは他の人と違って、私を中に入れてもくれないの?」


「いえ…」


無茶を承知で食い下がってみたところ、案外たじろいだ相手を前に、ジブレーはこのまま押し切ることにした。


「ねえ、責めてるんじゃなくて、理由を聞いているの。納得できる理由を言うか、中に入れるか、選んでくださる?」


「あ… あの…」


-----


ようやく入った控室の中では、数人の女子生徒がテーブルを囲んでいた。


どこから持ち込んだのかお茶とお菓子を広げ、今の今まで談笑していた様子が伺えた。もちろん、今はジブレーを見て全員が固まっていた。


(お別れ会? こんな場所でしないわよね… と、思わせて、誰かを呼び出してサプライズパーティー?)


彼女達を静まり返らせてしまったことはともかく、何か手掛かりになることを知っている人がいるかもしれないと考え、ジブレーはもうちょっと頑張って聞き込みを続けることにした。


「…卒業式前日に、ホールの控室を使って何をされているか、とても興味があるわね」


軽く聞いたつもりが、彼女達はヒッと震え上がった。


(やっぱり私と話すのは皆ストレスなのね…)


久々の反応にやや傷付いたものの、ジブレーはせめて耐性の強そうな人をと、一番身分が近くて強気そうな人から狙いを定め、努めてフランクに接することにした。


「ねえ。楽しそうね? シャロット、どうしたのか、知ってる?」


にっこり笑ったつもりが、相手の反応を見るに気さくな問いかけではなかったことはジブレーにも分かった。ただ、思わぬ手掛かりが得られた。


「いえ、し、知りません! 私が呼び出した訳じゃありません!」


(呼び出した?)


どういう意味か考えている間、ジブレーは無言で彼女を見下ろす形になった。彼女はあまりに冷たい瞳に怯え、供述を続けた。


「本当です! 言い出したのも私じゃないし、あの、あの子が許せないって言うから、協力しただけです」


怯える生徒に指差された女生徒は立ち上がり、声を裏返らせた。


「ちょっと? 許せないなんて言ってません!」

「嘘よ、あなたが言ったからみんな協力したんじゃない、色んな男性からドレスを受け取ったって」

「は? 知らないけど? 私はどうせ色んな人からもらってるんでしょって言っただけで」

「わ、私は何もしてないし、誰にも何も言ってません! ただ、誰も来ないか見てただけです」

「何ですって? あなたが手紙を置いたんじゃない、いわば主犯でしょ!? 私達こそ無実だから!」



ジブレーは急な情報量と音量の増加に対応するために時間が必要だった。その間に、森を探し終えたテラシアが大声を辿って控室に到着した。


テラシアはジブレーの肩に手を置き、二人は頷きあった。ジブレーはテーブルを両手で叩き、全員を黙らせた。


「事実だけ話して。後で確認するけど、嘘をつくようなことはしないわよね?」


すぐ横でジブレーの横顔を見ていたテラシアは、(お嬢様ってやっぱりすごいな)とその迫力を心中で称えた。



・生徒達がまとめて報告した事実

-----

シャロットの振る舞いが癇に障る

同じ意見の者が集まる

色々な男性からドレスを贈らせたという情報を掴む

卒業式前に、反省を促したい

大講堂の控室に閉じ込めて夜まで放置して、反省させよう

他の者は、呼び出し場所の見張りをしたり口裏を合わせたりして、シャロットの居所を隠そう

仕事が終わって、皆でティータイム

-----



ジブレーは言葉を失っていた。彼女達の中で、シャロットが何故ここまで悪者になってしまったのか分からなかった。具体的な罪名が何も無かったのだ。


一方で、テラシアにはある程度の納得感があった。


(平民のくせに生意気だってことかなぁ。最初はみんな優しかったってシャロットも言ってたし)



実際、シャロットは1年生の段階ではここまで嫌われていなかった。


入学時の彼女は読み書きもできず、貴族ばかりか、学校に通っていた平民の中でさえ明らかに浮いていた。その挙句、生徒達が見るにカルヴァドス公女にもいじめられて泣くような哀れな場違いの子羊だった。


王太子も可哀想だから世話を焼いているのだ、我々も優しくしてあげようと、生徒達は彼女に優しく親身に接した。


それがひっくり返ったのは、彼女が可哀想な平民ではなくなった頃だった。


成績では王太子を抜くか抜かれるかの優秀さ、我々はおろか氷の公女にもいつの間にか気安く話しかける、いわゆる「調子に乗っている」状態だとやんわり伝えてあげてもまともに取り合わない。彼女は一部の生徒達にとって憎悪の対象に変わっていった。


(優しくしてあげたのに)

(読み書きもできない平民だったくせに)

(高貴な人に目をかけられてるからって調子に乗って)

(ろくな努力もしないで)

(顔がいいからってだけでみんな騙されて)

(私達にだけ馬鹿にしたみたいな態度で)


こうしてシャロットは自身が知らないところで裏切り者認定され、似た者同士の集団によって拉致されてしまった。



「…それで、シャロットはどこなの」

「それは…地下のリハーサル室…」

「鍵は?」

「もう1人が持ってて、多分リハーサル室にいると思います…」

「分かったわ」


今は先にシャロットを見つけたかった。ジブレーとテラシアは生徒達にこの場にいるよう伝え、地下に向かった。


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