シャロットがいない日(2人)
テラシアは朝から大講堂にて卒業式の準備を進めていた。
「テラシア」
「テラシア!」
「テラシアーーーー!!」
午後になって作業もひと段落し、大講堂の式場から出て来たところで、自分を呼ぶ声に気付いた。
(サイティ?)
声を辿っていくと、大講堂の門を出たところでサイティが飛びついてきた。
(どうしたんですか? もしかしてずっと呼んでた?)
大講堂近くのベンチにひとまず腰を下ろし、テラシアはサイティの話を詳しく聞くことにした。
「シャロットがいないの、予定も無いはずなのに」
「!」
テラシアは学校案内図を広げた。
「サイティが入れない所ってどこ?」
「あちこち探してみたけど、この大講堂と、校舎と、あと森も入れなかった」
(どうしよう、けっこう広い…)
誰かに聞こうにも、今は試験後の休暇中で、誰がどこにいるかテラシアは掴めなかった。
(タリスは公務で明日戻るって言ってたし… 一回、ラウンジに行く?)
「ラウンジもここの前に行ったけど、誰もいなかったの」
「誰も…?」
落ち着け。焦るな。一つずつ確認しよう。
テラシアは不吉に早まる鼓動に気付き、意識して深呼吸をした。
「サイティ。何時に、どこで見たのが最後ですか?」
(今は手掛かりが無い。聞ける人に聞いてみよう)
サイティはテラシアに情報を共有し、二人はまず食堂へ向かった。
休みだというのに朝から食堂を開けていたため、料理長が何か見たかも知れなかった。
「そういえば… 今日は見てねえな」
「そうですか… あ、ジブレーは見ましたか?」
「ジブレーか? いや、分からねえな。ロウも知らねえぞ」
食堂にいた他の生徒にも聞いてみたが、皆「知らない」と答えた。
(進級試験明けで人が少ないからって、こんなに誰も知らないもの?)
自分が焦っているせいなのか、既に異常が発生しているのか、冷静さを失った頭では判断ができずにいた。
「いない…」
校舎内を駆け回ったが、シャロットも、彼女を見た者もいなかった。その間、サイティが念のため寮内をもう一度探したが、自室にもラウンジにも、どこにもいなかった。
「テラシアは朝からずっと大講堂にいたのよね?」
「はい、壇上や座席の準備とか、音楽のリハーサルとか… あちこち動いたけど、シャロットは見ませんでした」
テラシアは、必死に走って乱れた呼吸を整えながら答えた。
「そしたら、次は森かしら… 雷があったところに行ってみる?」
「そうですね…」
雷が落ちた場所、三角屋根の小屋や一緒にサンドイッチを食べたデッキ、よくマッチョの手伝いで通っていた道も回ってみた。
「なんでいないの…」
広い校内を探し続け、太陽が傾き始めていた。
(暗くなる前に森をつぶしておかないと)
「テラシア!」
森の奥へ駆け出したテラシアは、後ろから聞こえてきた声に足を止めた。
「ジブレぇぇ…」




