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久々の、いつもの三人

(これは、避けられてる!)


テスト期間だからかと思っていたが、答案返却も終わった年末になってもシャロットが捕まらないことから、テラシアは確信した。


食堂でジブレーに相談したところ、テラシアにとって思いもよらない言葉が返ってきた。


「私はあなたにも避けられてるのかと思ってたわ」

「!?」


テラシアは驚きのあまり固まった。彼女の反応を見て、ジブレーは表情を崩した。


「違うみたいで良かったわ。それで、シャロットのことは私もちょうど相談したかったの」

「避ける訳ないじゃないですか! でもそう、シャロットと最近、ほとんど話せてなくて… ジブレーもですか?」

「そうね。シャロットの方は本当に避けてると思うわ。私もだし、他の人とも距離を置いてるみたい」


話しかければいつも通りに反応するものの、以前のように食事や買い物に誘っても断られてばかりだった。


「ちょうど体調崩して救護室から帰ってきたあたりからなのよね…」

「え? それって、いつぐらいのことですか?」


食堂奥の部屋で過ごすことが多かったテラシアにとって、それは初耳だった。


「そうね、ちょうどあの頃よ。雷が落ちて森が閉鎖された日」


その言葉を聞いた瞬間、テラシアは立ち上がった。


「テラシア?」

「救護室へ行きましょう」


駆けるように歩き出したテラシアに質問する隙もなく、ジブレーは彼女を追いかけて食堂を後にした。


-----


救護室に似つかわしくない筋肉男の存在にテラシアは面食らったが、よく見ると、彼は足を怪我しているようだった。


「…ジュラ先生が包帯巻いてるのは分かるんですが、なんで先生はダンベルを持ってるんですか?」

「足を怪我したからだよ!」

「…え?」

「足の筋トレ禁止だから、その分、上半身を育てたいんだって」


(つい聞いてしまう気持ちも分かるけど、愚問だったようね)


テラシアは分かったような意味不明なような気持ちを一旦おいて、ジュラに本来の質問を始めた。


「シャロットが未だに元気ないんですが、まだどこか悪いんですか?」

「ほう。本人は何て?」


「本人は大丈夫って答えましたが、一人で部屋にこもりがちになってしまって。何かできることが無いでしょうか」

ジブレーがテラシアの代わりに答えた。


「なるほどね。うーん、でも体調は問題ないはずだから、自分にも分からないな」


ジュラがいつもの調子で答えたところで、テラシアが質問を続けた。


「雷の、せいですよね?」

「ジュラは答えなかったが、マッチョが口を開いた。


「まぁショックだったのかもな。雷がいつ、どこに落ちるかは神のみぞ知るって言うけど、落ち着くまでは部屋でゆっくりするのもいいと思うぞ」


テラシアは落ち着いて聞こえるように努めながら聞いた。


「そんなに危なかったんですか…?」


ジュラがマッチョを軽く睨みながら答えた。


「まぁ、彼がとっさに用具小屋から遠ざけなければ直撃した可能性はあるね。運が良かったとしか言えないかな」


黙ってしまったジブレーとテラシアに、包帯を替え終えたマッチョが手招きした。


「…? 先生、これは?」

「シャロットに渡してくれ! 部屋に一人じゃ暇だろうし、いざという時のためにも持っておくと安心だって言っといて!」


二人は一つずつ筋トレ用の重りを手に、シャロットの部屋へ向かった。


-----


「二人とも…」


年末年始の休暇前で授業が無いこともあり、シャロットは寮の自室にいた。重そうな様子の二人を見て、慌てて中へ招き入れた。


「えーと、これはここを持って普通に持ち上げてもいいし、腕や足に通して鍛錬することもできるんだって」

「なるほど。あ、これが滑り止めになるんだね」


しばし筋肉先生から託された道具の使い方を伝えてから、テラシアは話を切り出した。


「シャロット、忘れちゃったの?」

「え?」


予想していた内容と違ったため、シャロットは聞き返した。


「ドレス! お互いのドレス作ろうって言ったでしょ」

「あぁ…」

「あと3か月だものね」


シャロットは目を伏せた。ジブレーが持ち込んだ茶葉で作ったミルクティーを二人の前に置いた。


「ごめん、途中で止めてて…」

「ちがーう! 忘れないでねってこと!」


テラシアはジブレーに礼を述べ、二つのカップを持ち、牛乳が多い方をシャロットに持たせた。


紅茶の濃さが違うことに気付いたシャロットは思わずジブレーを見た。当のジブレーは急な視線に首を傾げた。


「あ… そんなに熱くないと思うわよ?」


言われて、口をつけてみた。


「おいしい…」


と、思わずシャロットの口からこぼれた。ジブレーの表情に大きな変化は無かったが、シャロットには彼女がほっとしたのが分かった。


(なんか、久々… この感じ。ほっとする)


シャロットは落雷の日以来、強張っていた身体の力が抜けたように感じた。


「ありがとう、ふたりとも…」


ようやく彼女の笑顔が見られたことに、二人は安堵して顔を見合わせた。


それからは、この年末年始でドレスの準備を二人で詰めようということ、ジブレーも学校に残りたいが、大公が待っているから無理であろうこと、先日の卒業試験のことなど、他愛もない話をした。


時間はあっという間に過ぎ、夕食前にジブレーとテラシアは制服から私服に着替えることにした。部屋を出る前、そうだ、とテラシアはシャロットの方を向いて話しかけた。


「シャロット、私達を避けるのは、私達まで危ない目に遭わないようにって思ってくれてるのかなって勝手に思ってるから、無理にあちこち連れまわしたりしないけど…」


珍しく、言いにくいのか言葉を切ってからテラシアが続けた。


「忘れないでね、一緒に卒業するんだから」


テラシアのいつになく真剣な表情に、シャロットはしっかりと頷いて返した。


「うん。一緒に卒業しようね」


真面目なことを言った照れ臭さを誤魔化すために、テラシアはさっさと部屋を出て自室へ向かった。


「じゃあ、また食堂でね。今日は試験終わりだから、料理長がケーキを焼いたそうよ」

「え! やった! 楽しみ!」


いつも通りの笑顔を見せるシャロットに、ジブレーも笑顔で部屋を出た。


(そうだわ。私も、16歳になるのは初めてね)


シャロットと、テラシアと一緒に卒業することが彼女にとって一つのゴールだった。


(テラシアみたいに、落雷事件とシャロットに関係があるって気付けるような鋭さは無いけど)


それでも今、自分にできることを精一杯やっていこうと改めて決意し、自室へと歩き出した。


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