ハッピーエンドに向けた合流
孤児院の職員達はどよめいた。
担当者の手には、魔法学校の入学案内が握られていた。
「こいつの家族はどこにいるんだ?」
「収容所内で死にました。もう親類はいないはずです…」
「じゃあ何でこんなものが届くんだ!」
やがて、職員内で話し合っても意味が無いと責任者が悟った。
(魔法… これが魔法の力なのか…? 気持ち悪い)
この案内を無視することは可能なのか。ひとまず、ユーリアという奴を尋問すべきか…
責任者の考えはまとまらなかった。
「まぁでも、ユーリアで一番よかったんじゃないですかね」
「どういう意味だ?」
「あ、はい! 申し上げます! ユーリアは帝国化の進捗が良好で、性格も大人しくコントロールしやすいためです!」
軽い気持ちで呟いただけのつもりが、思わぬ人物に拾われ、動揺しながらも職員が答えた。
「ふん… 一度面談する。呼び出せ」
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「初めまして、先生。ユーリアと申します」
「はい。今日は何を勉強しましたか?」
(大人しいと聞いていたが、意外に活発だな)
責任者は机の上で両手を組み、にこやかに正面の少女に問いかけた。
「はい、朝はいつものお歌の後、国王陛下の健康と繁栄をお祈りしました。それからは帝国史と古典の授業があり、午後は技能講習を受けさせていただきました」
「そうですか。あなたは手芸が上手だそうですね。飲み込みが早いと講師も褒めていましたよ」
「きょ、恐縮です、もっと勉強と練習を重ねて、帝国に役立つ大人になりたいと思います」
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短い面談が終わった。
「しかし魔法ですよ、列車や監視機能など、モノによっては国の発展に大きく貢献します」
「しかし、若すぎる。11歳だぞ。6年も別環境にいれば良からぬ思想に染まる可能性が高い。そんな者が魔法を使えるようになる方がリスクだ」
結論、ユーリアの入学は見送りとなった。
魔法学校が自国の情報をどれだけ掴んでいるのか警戒した責任者は、この件を契機に学校と交渉して校内見学に訪れ、先進的な教育内容には魅力を感じた。
(稀有な魔法の特性にエリート教育とも言える教育水準か。うまくすれば確かに国力の増強が望める)
それ以降、ユーリアは監視の目が増えたが、待遇はより手厚いものとなった。
一人部屋に職員と同様の食事を与えられ、注意深く経過観察された末、4学年からの編入に問題なしという結論が下された。
編入前、責任者がユーリアを連れて、学校を訪れた。
一人他国に寄越すのが心配だから、見学しておきたいという責任者の言葉にユーリアは涙を流した。
見学を終えたユーリアは責任者の予想に反して静かだった。つまらない…と呟いていたが、帰国後の反応を見て最終的に編入可否を決めることにした。
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「いえ、わが国で学んだ本当の学問とは違うようで、退屈ではないのかな…と。魔法の授業については全く新しいものになるので、そちらは楽しみです」
孤児院に戻り、ユーリアの感想を聞いた責任者は頷いた。
(我々同様、立派な帝国民として成長しているようだ。蛮族であっても命を奪わず教育を施し、帝国に貢献できる稀有な人材を輩出したとなれば、ここで得られる実績としては最高だろう)
責任者はにっこりとユーリアに笑いかけた。
「そうですね。あなたの努力を陛下も期待されていますよ」
14歳の春、ユーリアは張り切って魔法学校の門をくぐった。




