狂った悪女の穏やかな日常
「強いのね、あなた」
(えっ)
完成した絵本の表紙を満足気に眺めていると、誰かの声がした。気がした。
「あいつ何で王様なのかしら?人間性と国政のうまさは別なのねほんと」
(この部屋、私しかいない…わよね?)
室内を見回して、気のせいかと思い視線を戻したところに、絵本を眺めながらぼやく小さな存在が見えた。
「どなた?」
「え?聞こえてるの?」
思わず話しかけてしまったが、手のひらに乗りそうな大きさの少女が現実のものだとは、私は目が合ったその時でも、まだ信じられなかった。
「な…」
「あ、目も合ってるわねこれ。さすがだわあなた」
「実在しているのかしら…?」
「してるしてる!でも、そういうの無いもんねこの世界、分かるわよそうなる気持ち!」
小さな少女はご機嫌だ。
「人間と話ができるなんてレアだわー!!」
それから、彼女と色々な話をした。
娘のこと、祖国のこと、今書いている物語のこと。
嫌なことはわざわざ口にしたくなかった。小人さん(と勝手に名付けた)も、
「人間はどうかしてるわ。自分以外も人間だってことをすぐに忘れちゃう奴ばっか」
というようなことを言ったきり、誰か特定の人を話題に挙げることは無かった。
きっと私はいよいよおかしくなってしまったんだ。侍女達が「王妃様は幻と会話されている」と陰で怯えているのも知っている。
私はもう会いに来る人もいなくなったので、
小人さんと話したり、家庭教師の授業が無い隙を狙って娘とお茶を飲んだり、のんびりと過ごした。
仕事もしない、ごくつぶしの王妃と国民から言われていることはわかっていても、もう私にできる努力はし尽くした後なので、この生き方を変えるつもりはなかった。
この国は側室制度があるのだし、他に通う相手がいることも私はとうに知っていた。
その女性には夫が求める「血筋」とやらが足りなくて、側室にできないということも。
まぁ、向こうで子どもを授かったって聞いたし、王子だったら養子にするんじゃないかしら。
後になって、私はやっぱり何も分かっていなかったんだと思い知った。