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王太子ロウ・カスクの誕生

双子の王子誕生と共に発生した問題は、どちらに王位継承権があるか?だった。


先に生まれた方を王太子とするのがしきたりであったが、生まれた順番が分からないという不測の事態に陥った。


出産の知らせを聞き一番に飛んできた国王は、現場を見て「あぁ、王妃は助からなかったのか」と首を振った。


続いて双子に目を向けたところ、片方は随分と小さく見えた。

(なるほど、やはり双子か…しかし片方は長くあるまい)


そして王妃に近づいた国王は目を疑った。

「お前! 生きている王妃の腹を裂いたのか!?」


国王は出産の医療責任者に詰め寄り、激高した様子で叫んだ。

彼らはまともな会話にならず、国王は独断で王妃の身体を傷付けた責任者に対し、国家反逆の意志ありとして投獄を言い渡した。


元責任者はどちらを先に取り上げたかを語らず、他の者は分からないとしか言わず、王妃に至っては意識も戻らず話どころではなかった。

しかし、いつまでも出産の知らせがなければ国民への広報も洗礼もできない。


ある日、王室はついにお触れを出した。


「難産の末、王子誕生。双子の弟の分も強く生きることを願う」

「王子のお披露目 ロウ・リック・カスク」


「まあ、どうせ即位するのは一人なんだ。王妃があれでは次の子も難しいだろうし、手を下すまでもなく片方は育たないだろう」


本来は王太子かも知れない王子に手をかけることが躊躇われた王室は、自然が命を淘汰するのを待つことにした。

国民の歓声に片手を上げて答える国王の腕で、ブランケットに包まれた王子にはまだ名前が無かった。


やがて回復を遂げた王妃に誰もが奇跡だと驚いた。彼女は、ようやく抱き上げることができた我が子を見つめて微笑んだ。

王子を取り上げた元責任者は王妃が歩けるようになった頃に再び投獄されたが、恩赦により奇跡的に釈放された。


2人の王子が健やかに育ち、11歳を迎える年に大きな問題が起きた。

ロウ・カスクに魔法学校の入学案内が届いた。


「魔法が使える者なんて、わが国にはいませんよ」

「しかも王子が魔法を使えたら、わが国の立場も変わるんじゃないか?」

「しかし…どっちを学校にやるんだ?」

「…」


結局、結論を出すには時間が足りず、入学は見送るほか無かった。

しかし、上層部はいよいよどちらを王太子とするか、決断する時が来たと感じた。



「同じ授業を受けてるので、理解度も大きな違いはなさそうです。性格は…うーん、そもそも区別がつく者がおりませんで」

「しかし、ここまで隠しといて王太子じゃない方はどうやって発表すればいいんだ?」

「我が国は王妃様の支持が強いですからなぁ… 隠し子だ何だ考えるよりは、実は生きていたとする方がいいのでは?」

「大病のため隠していたと。でもなぁ、結局どちらを選べばいいか分からないんだろ? 出産の場にいた者はまだ何も話さないのか?」

「ですから、誰も知らないと言うし、担当者も断罪されてもう居ないと言ったでしょう」


頭を悩ませるごく一部の者を除き、王子の健やかな成長を国中が喜んだ。



「嫁に聞いたけどもうすぐロウ殿下のお誕生日だってよ。たった一人のお世継ぎ様だからなぁ、ここまで大きくなられて安心だ」

「実質王太子だから陛下もわざわざ後継者として指名しないんだろうけど、下々のもんにとっちゃ見る機会もねぇし、どんな方なのか見たこともねぇな」

「おれ新年の挨拶で顔をみたけど、王妃殿下に似ててきれいなお顔だったぞ」

「へー! やっぱ血が違うのかねぇ、美形ぞろいで鼻が高いわ。いやー、成人されんのが楽しみだな」

「お前、お祭りがあるからだろ、楽しみなの」

「へへへ、おかみの話なんて下々の者にとっちゃ雲の上のことだかんな」



(ふふ)


城下町の飲み屋が今日も平和な会話で盛り上がっていることに、彼は自然と笑みがこぼれた。

ひとときの自由を楽しみ、いつもの抜け道から城へ戻ると、部屋で待っていた弟は、読んでいた本を閉じて彼を睨んだ。


「あ! お前、また出てたろ? なんでそんなふらっと出ていけんの?」

「ふふふ、平和な国ですよね。城下の見回りですよ」

「楽しそうで何よりだよ。でも、そのぶん俺は出ていけないんだからな」


彼が比較的自由に外出できるのは、確かに弟が彼のアリバイを作ってくれているからでもあるが、彼は弟が内気で外出を好まないことも知っていた。


「ごめんね、寂しかった? なんてね、その代わり魔法学校にはロウが行ってきてよ」

「(いや寂しかったわけじゃ) …え?」


弟が小さい頃から王都を走る列車に憧れて、自分も魔法が使えたら何ができるのか、楽しそうに考えていたことも、彼は知っていた。


「学校は遠いし、私はこの国が好きだから。ロウが行ってきて、すごい魔法使いになって帰ってきてよ」


本当に自分が行っていいのか、遠慮しているんじゃないのか、お前はどうするんだ、様々な話し合いを経て弟の魔法学校行きが決まった。


ロウは魔法学校に編入する日を楽しみに勉強に励んだ。加えて、元々好きだった剣術にも力を入れ、文武両道を体現したような王子に成長した。



14歳の春、ついにロウは魔法学校行きの列車に乗り込んだ。

王太子にふさわしいのがどちらなのか、国内でも結論が出つつあった。


しかし、残った方をどうするか、上層部では必死に前例を探す仕事が発生した。


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