タリスはどこ行ったの?
「タリスさんはシャロットにくっついて回りすぎだと思います」
「何だと? どういう意味だ」
タリスはテーブルを拭く手を止めて、テラシアの方を睨んだ。
「いつも一緒すぎるってだけですけど。未来の王様としては、もっと色んな人と話した方がいいんじゃないですか?」
テラシアはタリスが拭き終わったテーブルのあたりから床にモップをかけていた。
「逆に、王族だからといって幅広く人付き合いする必要など無いだろう」
最後のテーブルを拭いたタリスは、ぶつぶつ言いながら布巾を手に厨房へ向かった。
(そういうもんかな…?)
「あ、布巾はまとめて洗うんでそこに重ねちゃってください。拭いてくれてありがとうございます!」
「あぁ、うん、いや料理長もいないし、これくらいはな」
床掃除を終えたテラシアが厨房に入ると、タリスが使用済の布巾を洗うための水を用意していた。
「え、そんなの私がやりますのに!」
つい使用人の気分に戻ったテラシアは、焦ってモップを抱えたままタリスに駆け寄った。
「いやいや、女性が運ぶには重いだろう」
「ここに来る前は毎日やってたので、気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ? なんか申し訳なくて」
テラシアとしては何の気なしに言った言葉が、タリスの引き金を引いてしまった。
「毎日? 毎日こんなことをしてたのか?」
「え? まぁ、元々、使用人ですから。たまにお客様のご案内に呼ばれることもありましたけど」
「やはり、そんな目に遭わされていたのか…! 大公家はやはり何も変わっていないな」
「え? え?」
やけに大げさな反応に怯えながら、テラシアは洗濯しながらタリスに話を聞いてみた。
どうやら彼は、洗濯や乾燥にはどこも自動運転の機械を使っていると思っていたため、島出身のテラシアに大公家があえて大変な仕事を課していると思ったようだった。テラシアはタリスにさん付けすることをやめた。
「タリスって…優しいなとは思うけど、そういうとこだと思います」
「う、その…うん…」
ひとまず、先に洗うべきものだけ洗ったテラシアは、ばつが悪そうなタリスに洗濯物を運んでもらう間に乾燥室で洗濯物を干し、タリスに合流した。
「いやー助かりました! ありがとうございますね!」
「いいんだ… 俺なんて…」
「え? あー、へこんでます?」
「いや、 …あぁ。変わらないのは俺の方だ… と、思ってな…」
改めて自分の暴走癖を実感し、タリスは自己嫌悪に陥っていた。
テラシアは(もっと反省しろ!)と思っていたが、寮に帰ってもしおれている様子の彼を、気付いたら励ましていた。
「そんなことないですよ。今回はちゃんと話を聞いてくれたじゃないですか。おじょ、ジブレーにはもっと優しくしてほしいですけども!」
「あぁ、そうだな… そうする…」
(だめだぁ。どうしよう、可哀そうなのはずるい…)
「あっ」
名案を思いついたテラシアは、エプロンのポケットから、木製の小さな丸い容器を取り出した。
「…? どうした?」
「手伝ってくれたお礼に、いいもの塗ってあげます! 手を出してください」
戸惑いながら出したタリスの手に、テラシアは小さな容器から取り出したクリームを彼の手に取り、ゆっくりとのばした。
「うっ」
「冷たかったです? 天然の肌つるつるクリームです! ジブレーが私の誕生日にくれたんですよ」
テラシアに促されるまま、もう片方の手にもクリームを塗られ、タリスはじっとその様子を見つめた。
「南の大陸で作られてて、赤ちゃんや妊婦さんにも使われる大切なものなんですって」
「あ、ほお、そうなのか? いや、知らなかった、それは」
「じゃあ良かったです、はい! 水仕事は手が荒れますからねー、いい香りもするから、これで元気だしてください」
両方の手にクリームを塗り終えたテラシアは、タリスに笑顔を見せて彼の手を離した。
「あぁ、ありがとう… 大事なものを」
「大事なものだから特別ですよ? こんなに使用人兼友達思いのジブレーと、もっと仲良くしてくださいね。では!」
テラシアが部屋に戻った後も、タリスは両手を見つめていた。
A.食堂




