テラシアの早く起きた朝
旅先だからか、目が覚めたけどまだ早いみたい。
「…?」
怖い夢でも見たのかな。寝間着のソデで拭いちゃおう。
(夢っていったら、今が夢みたいな状況だよなぁ)
お嬢様をジブレーなんて呼んじゃって、学校に行くことになって、島に帰ってきて。
「朝まであと、どのくらいだろ」
窓の外はまだ暗い。
「あれ…?」
(お嬢様だ?)
扉の近くに掛けておいた上着に腕を入れながら、外に出た。
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「おはよう。テラシア、朝は少し冷えるわね」
「おはようございます! ちょっと寒いですね。というか早いですね!」
二人は、宿のそばにある海岸を少し歩いた。
「えぇ。シャロッ…トが、朝焼けが綺麗って言ってたじゃない? 見てみたくて出てきちゃったの」
ジブレーは素直にこの島を楽しんでいた。
大陸で最も高貴な王女だった頃も、元王女として出荷された頃も、見たことが無かった景色の広さに、彼女は飽きることが無かった。
(サイティ、視界一杯に景色があるのってすごく気持ちいいわ)
「そうね。ジブレーなら、いつだってどこだって自由に行けるのよ。あ、もうすぐ日の出よ!」
護衛のドリュがジブレーに上着を渡し、テラシアと二人で、砂浜の大きな流木に腰を下ろした。
海岸線から、太陽を中心に夜の色が明るく塗り替えられていった。
所々に浮かぶ雲は山のように影を作り、日の出そのものは見えなかったが、日の出とともに空の色が変わるのを感じた。
「きれい…」
「きれいですね…」
(ただ日が昇っただけで、こんなに世界は美しいのね)
「お得よね」
「ふふ」
「どうしました、お嬢様?」
「いえ。お得だなって」
「お得? 確かに? 私は早起きして得しました!」
空が完全に明るくなってから、二人は朝食をとるために宿へ戻った。
その道中、ジブレーはサイティに尋ねた。
(サイティ、未来は変わっているのよね、きっと)
「そうよ。テラシアと朝ごはん食べて、シャロットと羊数えて、これはあなたがジブレーになったから起きたことよ」
(あぁ。よかったわ。これが私のジブレーなのね)
彼女はこの島を訪れてから、この人生が自分のものだという感覚が強まったように感じた。
「これは…牛なの…?」
「ふさふさですよね!」
それから数日間、ジブレーはテラシア、シャロットと共に島内を巡ったり、釣りをしたり、秋休みを大いに満喫した。




