レース司祭の考え事
このズレは何なのか、ずっと考えていた。
事の発端は、テラシアの家族が引っ越したことだ。
この島を出ても働き口など、そうありはしない。
それが島外の、しかもカルヴァドス公国に移住だなんて、正直あそこの親父は騙されてると思った。
カルヴァドス大公ほど選民意識が強く、我々のような異教徒の残党を浄化したいと本気で思ってる者はいない。
あれから島にも帰ってこなかったし、てっきり家族ごと売られたか殺されたか…と諦めていたら、こんな形でテラシアに会うとは。
しかも、カルヴァドスの公女と仲良さげに連れ立ってくるなんて、もう現実が想像を超えちゃってる。
てかテラシア、魔法学校に行くの? なんで公女と仲良しなの? 公女がシャロットに手紙ってどういうこと?
「おじいちゃん、ただいまー」
「おぉ、シャロットか」
シャロットもだ。
あれほどカルヴァドスの公女には近づかないよう言っておいたのに、島に招待するとはどういう?死ぬの?俺たち死ぬの?
無視してくれたら…と思ったら返事が来るし、まさかと思ってたらほんとに来るし、お供もぞろぞろ来るし、本気で殺しにきたのかと思った…
「シャロ、あの、今日はどうだった? お客さんに失礼などなかったか?」
(もしかして、一通り泳がせて何か粗相があったら罰するつもりなんじゃ…)
「今日はね、羊の間違い探ししたよ! ジブレーが全部おなじに見えるって言ってて、唯一わかるって言って指さしたのが、ふはっアルパカだったの!」
(楽しそうで何より…か? 不敬にならないだろうか…)
いや、やきもきしても仕方ないか。
俺なりに勇気を振り絞って最初に探ってみたけど、もはや思ってたのと別人だったし。
猫をかぶっているにしては不器用すぎる、年相応よりちょっと大人びただけの子どもにしか見えなかった。
「ほほ、アルパカ分かんなかったんかの。名前で呼び合うようにはなれたか?」
「…へへ、テラシアも私も、まだちょいちょい戻っちゃうけどね」
「おいおい呼べれば良いで、良かったな。じぃじ余計なこと言っちゃったでも、今までの分も仲良くな」
「うん!」
お告げとのズレがどうであれ、俺には何もできない。
テラシアが学校に入学したのだって、王太子殿下に会うための調整が入っただけで、未来は決まってるのかもしれない。
それでも…
「シャロ」
「うん?」
「じぃじ、シャロの卒業式に行きたいのぅ」
「えぇー? 遠いし、いいよー。式が終わったら帰ってくるし」
「なになに。シャロの卒業をこの目で祝えるなら、もう思い残すことなんて無いでな」




