何がやばいって大体全部やばい
扉を叩く音が聞こえた瞬間、少女の顔から表情が消えた。
「行かないと」
(私ったら。どうかしていた)
俯いて立ち上がる少女を見て、妖精(?)は慌てた。
「待って!やっぱ許せないんだって!ちょっと、まだ聞こえてるよね?待ってー!」
少女の耳は聞こえていたが、心は既に閉ざしており、祭壇へ案内する男性の後に続いた。
「ねー!こんなやばいことが起きてるのによくスルーできるね!?待ってー!」
(二人で並んで礼拝堂に入って、祭壇の前で立ち止まって…)
頭の中でこれからの手順をなぞる間も、妖精(?)のわめく声は止まらなかった。
「いやこの結婚もやばいけど!私が見えてるのもやばいって!そっちのやばいね?」
(そっちのやばいだったのね)
少女もどれに対するやばいだったのか気になっていたらしく、思わず意識が傾いた。
「やばいのはあなたのお母さんもよ。自殺なんかじゃ無いんだから」
「え?」
礼拝堂まであと少し、入口の扉まで数歩のところで、少女の足が止まった。
案内役の信徒は足音がついてこないことに気づき、振り向いて尋ねた。
「どうしました?」
少女は誰もいない空間を見ていた。
何を見ているのか、何を考えているのか分からず、信徒は不気味さを感じた。
「ご入場いただきませんと」
少女に促したものの、明後日の方向を見つめたまま動かない姿に、信徒はやきもきした。
だが一方で、少女もそれどころではなかった。
(自殺じゃない? だって、自殺だって、そのせいで私は追放されて…)
「殺人未遂だってしてないわ」
続けて放たれた言葉に、今度は声を出すこともできなかった。
見開いた目に映る小さな存在は、まっすぐに少女を見つめていた。
その表情は静かで、激しい怒りを堪えるように力がこもっていた。
「話をしましょうよ」
少女にだけ聞こえる声に頷いた瞬間、少女は意識を失った。
ぐらりと傾いた身体を信徒が何とか受け止めたものの、少女の意識が戻ることは無かった。