はじめてのお茶会
(本当に来た…)
レンガや石を積み重ねた無骨さに、円筒の積木に三角屋根をのせた、小人の小屋のような形状が相まって、不思議な印象を与える教会があった。
この教会を管理する司祭は、柔和な笑顔の裏でまさかの事態に驚愕しつつ、まさかに備えて一応お茶を用意しておいたことに安堵した。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました。司祭のレースと申します」
レースに促され、ジブレーとテラシアは教会の敷地内にある司祭の小屋を訪れた。
挨拶もそこそこに、レースは人数分のお茶を淹れ始めた。と、ふと思案顔になり、髭をさすりながら言った。
「あ、しまった、今日のために用意したお菓子を裏の貯蔵庫に置きっぱなしだったで。シャロ、すまんけど持ってきてくれるか? あぁあと、ひどい方向音痴で帰りが心配だで、テラシアも一緒に行ってくれるかの」
「もう! さすがにここでは迷いません!」
「はは、シャロットならわかんないなぁ。せっかくだから一緒について行ってもいい?」
二人は無邪気に小屋から出ていった。
「さっそく追い出したわね」
(え?)
「いやはや、張り切って準備したもので空回りしてしまいました。ジブレー嬢の嫌いなものでないといいのですが」
「好き嫌いは無いので問題ありません」
サイティの独り言に気を取られ、レースの言葉に素っ気ない返事をしてしまったかと思い、ジブレーが付け足した。
「私達のために準備していただいて、ありがとうございます」
レースは客人のカップを温めながら微笑んだ。
「いやいや、こちらこそ。シャロは11歳まで田舎暮らしだったで、遠く離れた学校でうまくやれてるか心配だったですが、仲良くしていただいてるようで」
ジブレーはその言葉に引け目を感じ、訂正せずにはいられなかった。
「正直なところ、シャロットさんとは自宅に招いてもらえる程、会話を交わしたことはありません」
レースはジブレーに背を向け、茶葉を取り出しながら聞いた。
「それは、シャロットが平民だからですかな?」
「平民? いえ、実家のことも知らないくらい、関係を築けていません。シャロットさんではなく私が…会話下手でして」
レースはお湯を注いだティーポットを手に、ジブレーの正面に腰掛けた。
「おやおや、そうですかな? いや、あの子は田舎暮らしで字も書けないのに、恐れ多くも魔法学校の入学が決まりましてな。教養の高い子女だらけの中で恐れ多いばかりですよ」
良くも悪くも平坦なのがジブレーの気質だったが、どうもこの司祭と話していると引っかかる部分があり、反論せずにはいられなかった。
「まだ成績などお聞きではないのかもしれませんが、シャロットさんはこの半年で驚くほど共通語を使いこなせるようになっていますので、ぜひ聞いてあげてください。共通語を使った授業の理解度も高く、テラシアに教えてくれるくらいですので」
言い終わってから、ジブレーは口調が強すぎたと感じ、レースの様子を窺った。やや目を見開いたようにも見えたが、大きな変化が無く、良く分からなかった。
「ほほう、それはそれは、頑張っているようで鼻が高いですなぁ」
髭をなでながら朗らかに答えた様子をみて、ジブレーはひそかに安堵した。
「はい。シャロットさんに手紙を書くために、この島出身のテラシアに添削をお願いしたことがきっかけで、彼女と仲良くなれました」
レースは目を細めながら、ジブレーに続きを促すようにうんうんと頷いた。
「シャロットさんのおかげで気付けたこともたくさんあって、私は、その、今回お誘いいただいてとても嬉しく、仲良くなれたらと思っているのですが、どうも空回りしてしまって」
待ち時間をつなぐ世間話だったつもりが、いつの間にかレースに「シャロットと仲良くしたいけどどうしたらいい?」と相談するような形になっていた。
「ほほお。はるばる会いに来てくれたんだから、もう友達だと思いますがね。何日かこちらで過ごされるで、自然と仲良くなると思いますよ」
そう言いながら、レースは席を立ち、食器が並んだ棚をごそごそと探りはじめた。
「おじいちゃん! 貯蔵庫にカギかかってて開かなかったよ?」
そこへ、シャロットとテラシアが戻ってきた。
「いや、すまん! 今朝こっちに持ってきてたの、今思い出したとこだったわぁ、悪かったのぅ」
レースは額に手を当てて、棚から出したフルーツケーキの皿をテーブルに置いた。
「なんだ、こっちにあったんですね。よかったー。フルーツケーキ大好きです!」
「そう! テラシアと初めて話したときに食べたケーキもおいしかったけど、ここのもおいしいの!」
二人は好物の登場に機嫌よく席に着いた。
すぐにレースが彼女たちのカップにお茶を注ぎ、ティータイムが始まった。




