悪役令嬢の同行者
「ほほー、そんなに仲がいいなら一緒に学校に通うか?」
「え?」
「え?」
「あら!」
顔を合わせてから数日、ほぼ一日中ジブレーはテラシアと過ごした。
最初はテラシアが手紙の下書きを読んで意味のズレや印象を返していたのだが、二人は良い意味で反対の性格をしており、互いに話が尽きなかった。
ジブレーはテラシアの日常を、テラシアはジブレーの学校生活を新鮮な思いで聞いているうちに休暇は過ぎ、学校へ戻る日が明日に迫っていた。
「あのお嬢様が…自室に誰も入れなかったお嬢様が、テラシアと二人でキャッキャしていらっしゃる」
「鳥のさえずりかと思ったらお嬢様の笑い声だった…この人生で聞くことができるとは思わなんだ」
使用人達は奇跡を目にしたと言わんばかりに、彼女たちの様子を見守った。
当然、執事のヴィンを通してカルヴァドス大公にもその様子は伝わっていた。その割に、大公は騒ぐこともなくいつも通りだったが、目前の奇跡に比べれば些細なもので、それが異様なことだと気付く者はいなかった。
それが、昼食の席で急に「明日はこの本も持っていく?」くらいの軽さでテラシアの転入を持ち掛けてきたため、さすがにジブレーも、部屋の隅に控えていたテラシアも声を上げた。
サイティの声は誰も聞こえないため問題ないが、テラシアはしまったという顔で、手で口を塞いだ。大公は特に気分を害した様子も無く、テラシアを近くに呼んだ。
「さすがに休み明けからって訳にはいかなかったけど、食堂で手伝いを募集してるみたいだから、手が空く時間帯で学習して、2年生から編入すれば良いよ」
「お父様。さすがに急では…テラシアの希望も分かりませんし」
直立不動で固まっているテラシアの代わりにジブレーが答えたが、大公が使用人の希望など聞く気もないであろうし、彼がやけに大人しかったのはこの根回しをしていたからだろうと心中では確信していた。
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「ゆ…夢のようです!」
「ええ?」
改めて、自室でテラシアに話を向けてみると、予想とは異なる反応にジブレーは戸惑った。
「魔法学校なんて…通いたいと思ってもどうしたら入学できるかも分からないのに…私のようなものが、そんな所に通わせていただくなんて…」
「まぁ教育の機会は平等じゃないからねー。仕事扱いだから授業料の心配も無いし、卒業後の進路は約束されたようなもんだし、この反応は嘘じゃないと思うわよ?」
「そうなのね…でも、家族にも伝えないといけないのではないの?」
「大丈夫です! 両親とも亡くなっているので、ヴィンさんが後見人として面倒を見てくださっているんですよ」
テラシアはそう言って笑うと、両手を胸の前で組み、ジブレーに向かって祈るような仕草を見せた。
「お嬢様。これもお嬢様が私をお引き立てくださったおかげです、本当にありがとうございます」
「テラシア…えと、あなたにとって良いことになったなら私は、その、嬉しいわ」
「ありがとうございます! たくさん勉強して、早くお嬢様と一緒に授業に出たいと思います!」
サイティは両頬を手で包み、顔を綻ばながら二人を見ていた。
「いやー楽しみねー! じゃあ張り切って荷造りしないとね!」
テラシアは大いに恐縮して断ったものの、荷物鞄など持っていない彼女の荷物をジブレーのカバンに余りある余白に詰め、それをテラシアが持つという形で荷造りが完了した。




