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悪役令嬢の推理

お友だちに ごめんね が うまく言えない ジブレー

なれない ことばで お手がみを 書きました


でも ことばを まちがえていないか 心ぱいです

ジブレーは お父さまに お友だちの国のことばが わかる人がいないか ききました


-----


「ハッ! そんな言語、この王国で分かる奴なんていないんじゃないか?」


ジブレーは、思わず朝食を食べる手を止めて大公を凝視した。


「あっ、違うんだよジブレー、パパ言葉が汚くなっちゃってごめんね?」

慌ててジブレーの機嫌をとる大公の姿にやや安堵したものの、続けられた内容に彼女はまた驚くこととなった。


「でも、うちの屋敷であの地域出身の者なんていないよ?」



朝食を終え、大公は仕事のため執務室へ向かい、ジブレーは自室に戻り、机上に置いた手紙を立ったまま見つめていた。


「ジブレー…」

サイティは机上の辞書に座り、ジブレーを見上げた。


「お父様は…どうしてああ言ったのかしら。お店にも普通に辞書があったし、離れた地域に住む人が違う言葉を話すこともよくあるのに」

「パパの中では、言葉や生まれた場所にも身分があるのね。領民のことを同じ人間と思えるようになっただけでもすごいことよ」



大公の思想はともかく、ジブレーは書きかけの手紙を手に、どうしたものかと考えを巡らせた。

(このまま手紙を送るのは、シャロットさんに誤解を与える可能性もあるし、謝罪の手紙として適切ではない気がするわ)


ジブレーの屋敷内にいる、シャロットの言葉がわかる者を探すには…

「…」


「ジブレー? どこへ行くの?」

「執事に聞いてみるの」


(おそらくだけど、長くお父様やカルヴァドス家に仕えている人は対象じゃないと思うの。だから、私が思いつく人の中にはいない気がするし、執事ならうちにいる者の採用から対応しているし、次に聞くなら彼だと思う)


「なるほど」


-----



ヴィンはカルヴァドス大公家で働く者の中で、最も歴が長い。白く染まった髪と落ち着いた黒のスーツは、相対した誰もに信頼感を与えた。

大公が王城勤めをしていた頃は、彼に代わって領内の政治を担っていた。加えて大公妃が不在ということもあり、家政婦と協力して多忙な日々を過ごしていた。


そんな彼は今朝、大公を起こして仕事の進捗や来客予定を軽く確認した後、地下の酒類保管庫へ向かった。


「ふんふん♪」

ヴィンは今夜の夕食に出すワインを選り分け、最近購入したワインを奥に移動した。


「ふんふん♪」

ヴィンは王都へ紹介するカクテルの新商品に良さそうなブランデーを何本か取り出した。


「ふんふん♪」

ヴィンは地下室入り口にある机に向かい、カクテルに使用したい果物をリストアップした。



「ふんふ…ん?」

ヴィンは地下室内の時計が目に入り、手を止めた。


(そろそろ昼食の時間か…)

と言いつつ、ヴィンがすべきことはせいぜい主人を食事の場に呼ぶことくらいだった。これは彼があまりに忙しかった頃、暫定的に別の者に任せたままになっているためであり、何ならジブレーに会いたい大公は自分から食事の場へ現れるため、昼食と言っても特にすべきことは無かった。


もはや自分が執事なのか疑わしくなるような仕事まで課されていた当時と比べ、別の方向で執事なのか疑わしくなっている現在の暮らしが、彼は大変気に入っていた。



「ヴィン」

「おや?」


地下室を出ると、ジブレーが階段上から顔をのぞかせた。


「お昼の後、相談があるのだけど、忙しいかしら」

「ほっほ、とんでもないことで、お嬢様のご用事ほど優先すべきことはございませんよ」


脊髄で返事をしたヴィンは、二人で食堂へ向かう中、ジブレーが手にしている封筒を見つけた。


「おや、手紙をお送りになるのですか?」

「そうなの。学校の知人に送りたいのだけど、言葉が違うみたいで、合っているか見てほしいのだけど…」

「ほぉ、なるほど、そうでしたか。」


そこでジブレーは少し言いよどんだ。

「ただ、お父様は、そんな言葉がわかる人はいないって…」


朝食の席に控えていたヴィンは、そこで彼女が言いよどんだ理由を理解した。

「そうでしたな。お声かけいただけて光栄ですが…いやぁしかし、私も心当たりが無いのですよ」


「…そうなのね」

期待していた分、いささか落胆しているジブレーに、ヴィンは提案した。

「もしお嬢様が抵抗なければですが、屋敷の者に聞いて探してみてもいいですかな?」

「もちろん! 問題ないわ、私がすることは無いかしら」

「おぉ、では、午後のお茶をお出しする際にご報告しますので、手紙にしたためたい内容を今一度まとめておいていただけますか?」

「わかったわ。ありがとう、ヴィン!」


昼食の準備が整った食堂に案内され、ジブレーは朝あまり食べられなかったためか、いつもより食欲があることに気付き、昼食のメニューを楽しみに父を待った。


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