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横やり王子タリス

(夏のわりに過ごしやすい気候なのは、きっと神様も祝福しているからに違いない)


この国自慢の王太子タリスは、いつもより早起きして念入りに身支度をした。

さらりと光る柔らかな髪は王妃譲りの美しさ、力強い瞳は王の幼少期を思わせる気高さ、加えて自身の見目も身分も鼻にかけない器の大きさは早くも王の資質が溢れて仕方ないと、とにかく誰もが彼を評価した。


もちろん、そんな彼も学校では皆と同じくいち生徒であり、いち生徒として試験を頑張ったため、いち生徒として試験が終わったら気になる子と遊ぶ約束をして浮かれていた。


(もちろん平民として多くの貴族に混ざり大変ではないかという点が気になっている子という意味であり、王都に来たことが無いというから、城内も当然はじめてということであって、ちょうど私の自宅で紹介しやすいから気晴らしにと…)

タリスはシャロットだけを王城に誘うことについて、事前に厳重な理論武装をしたが、誰も何の異を唱えることなく当日を迎えた。



学校から王都へと、列車に揺られて辿り着いたシャロットは、ホームに立つや否や王家の使いを名乗る者に案内され、王族専用の通路を歩いて城内に通された。


「シャロット! 久しぶり」

「タリス様! お久しぶりです、ふふ、昨日も学校で会ったじゃないですか」


城内とっておきの応接室にて再会した二人は、いつもと違う場所のためか新鮮な気持ちで言葉を交わした。そこでふと、タリスはシャロットが制服であることに気づいた。

(もしかして…城へ着て行けるような服が無かったのか?しまった…)


若くして自責型のタリスは、自分の気配りが不完全だったと悔やんだ。だが、それを口に出すほど無神経ではなかったため、ひと息ついたところで城内の案内をすることにした。



王城の広間には、外国の要人を招く場所であり、また国内の芸術振興という目的もあり、多種多様な美術品が集められていた。


シャロットは見たこともない作品ばかりだから、きっと驚くだろう。そう考えたタリスは張り切って彼女を大広間へ連れて来た。

タリスの期待通り、シャロットは目を輝かせて広間を歩いていた。特に天井画が気に入ったのか、熱心に見上げる彼女を見ながらタリスは微笑んだ。



「シャロットさん?」


そこへ、予想外の声がした。



「なぜここにいるの?」


そこにいたのはジブレーだった。無表情ないつもの様子と違い、早口で語気が強いようにタリスは感じた。

(一部の貴族しか入ることができない大広間に、平民のシャロットがいるので気に食わないのだろうか)

シャロットがびくりと肩を震わせたため、タリスは助け舟を出すか迷ったが、その前にシャロットが答えた。


「あ、ジブレーさん! 今日はタリスに王都を案内してもらってるんだ」


それを聞き、ジブレーがタリスに目を向けた。彼は完全武装済の理論を展開しかけたが、彼女の視線はすぐにシャロットへと戻った。


「あなたに、言いたいことがあるの」

「また何か言うつもりか?」


あまりに険しい顔で話すジブレーに、タリスは思わずシャロットをかばうように二人の間に割り込み、ジブレーを睨んだ。


(この流れは前回失敗したやつだわ)

食い下がりたいジブレーは、彼に話を遮られないように努めて穏やかに言った。

「えぇと、あなたに言いたいことは無いわ」


だが、タリスに対しては悪手だったらしく、彼の温度が上がってしまった。

「何故だ、平民のシャロットには言えて、私には言えないのか?」


(なぜ急に身分の話をしたのかしら…もしかしてまた伝え方が、いえ今回は話があるとしか言っていないし…どういうことかしら)

ジブレーは虚を突かれ、二人から目を逸らして思案したが、答えが出なかったため質問で返す形になった。


「…どっどういうことかしら?」

迷いがあったため、ジブレーにしては珍しく少々口ごもってしまった。


「はっ、変わらないなお前は! 悪いがシャロットは私と用事があるのでお前と話している暇はない」

タリスの中で有罪判決が出たため、彼は吐き捨てるように言うと、シャロットの手を引いてジブレーに背を向けた。



一人残されたジブレーに分かったのは、自分がまた失敗をしてしまったらしいということだった。

横やりこそがタリスのアイデンティティ

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