大体これからって所で邪魔が入る
(なにか聞こえた?)
花嫁姿の少女は、確かに聞こえたはずの声に戸惑った。
この部屋にはもう誰もいない。窓もないのに、どこから?
「もーーーーーーーー! むなくそーーーーーーーーーー!!!」
結構な音量だったため、気のせいにするには無理があった。
無表情だった少女も眉をひそめ、部屋を見回した。
「ん?どうしたのキョロキョロして。え?もしかして、聞こえてる?」
(こちらに話している?)
少女はドキッとしたが、少し間をおいて答えた。
「…はい」
「えーーーーーーーーーーーーーー!」
「うっ」
急な大音量に、少女はのけぞりそうになった。
気を取り直して声のする方に目を向けると、先程までは見えなかった声の主がそこにいた。
(妖精…?)
小さくて、少女のようで、羽がついていた。
絵本で見る妖精のような姿だった。
宙に浮き、明らかに実在のものとは思えない存在が、
表情豊かに声を張り上げ、今は驚きに満ちた顔で少女を見つめていた。
「あっ、ごめんなさい、うるさかったわね。びっくりしちゃって」
「いえ。えぇと… どなた?」
あらぬ存在が見えていることや会話ができていることに思考が追いつかないが、
少女はひとまず会話を続けることにした。
何の気無しにした質問に、妖精(?)は一瞬ハッとした顔をして、微笑んだ。
「…お母さんと同じね。なんか懐かしくなっちゃったわ」
「え?」
(私の母を知っているの?)
前国王と王妃の娘であり、誰よりも高貴な血が流れるその身を他国との架け橋として捧げ、
最後には男子を産めず、心を病み、夫の子を宿す妾の殺害を目論み、最後には教義も忘れ自死した女。
「もーー!ほんと最低よあなたの父親!」
「父親?」
(確かに母を愛さなかった父が原因といえば原因かもしれないけど…)
そう思っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「お時間です。宣誓のため、祭壇へご移動願います」
時間だ。