二次元特有の奇跡
珍しく昼近くまで寝過ごしたジブレーは、低血圧な頭でぼんやりと父に相槌を打っている間に、王都へお出かけすることになっていた。
「いい天気だけどそんなに暑くなくてよかったね! ジブレーが生きてるうちには着くから頑張ってね!」
「…」
「ダメ元で聞いたのに来てくれるとは思わなかったんでしょうねー。あなたったら、昨日も通った王都にまた行ってあげるなんて親孝行じゃない。馬車で」
「…」
ジブレーには返事をする余裕も考え事をする元気もなく、無になって遠くの景色を見た。
こんな機会があった時のためにカルヴァドス大公が馬車の操縦を練習した甲斐あって、二人乗りの馬車でブイブイ言わせた結果、昨日より早く王都に到着した。
(馬車道を改修して、いやいっそ有料で交易用の道路を敷くか、列車のようなものを魔法で何とかするか…)
久々に大地へ足を下ろしたジブレーは、カルヴァドス大公が王城で用事を済ませる間、城内の広間に飾られた絵画や彫刻を眺めていた。
かつて王女として生きた頃に絶えず誰かの目に晒され、生活の全てを管理されていた反動か、気の向くままに一人で過ごす時間がジブレーは好きだった。
過保護な大公は城内でも護衛を置いてはいたが、ジブレーの希望により一定の距離を保っていた。
「そんなに上ばかり向いていると、首を痛めるぞ」
ちょうど天井の壁画を見ていたジブレーは、思わず声の方を振り向いた。
その先には王太子タリスの笑顔があった。そういえばここは彼の家だったと思いながら、ジブレーは、その笑顔が向く先を見た。
「ふふ、本当にすてきで、目が離せなかったの」
「!」
シャロットが金の髪を揺らし、微笑んだ。
(サイ…お父様について行ったんだったわ)
偉大なサイティ様からのお告げを聞いた後だったため、ジブレーはいつにも増して緊張していた。しかし、彼女は一方でこうした機会を願ってもいた。
(この偶然は、僥倖ではないかしら?)
いつもと違う場所で偶然にも再会した級友に、今こそ先日の失言を詫びて関係の再構築を図れるのではないか。
11歳らしからぬ回路だが、要はこの偶然に背中を押してもらい、シャロットに話しかけてみたかったジブレーは勇気を出して歩き出した。




