偶々思い出されたみたい
お読み頂き有難う御座います。
透明顔令嬢クリアラは夜更し傾向になってきたようです。
「はあ……。王宮へ行かなくても、仕事って出来るのね……」
確かに……前から、文官に書類渡してハイ終わり!だったけどなー。執事に持たせても対して変わらないと。
……うう、ウチの領地がそんなにテキトーに扱われていたのがよく解るわ。悲しくなってくるわね。
しかし、他の領地から来てた他の令嬢は……フォーマルなお茶会以外何してたのかな。
只今夜の11時。
……夜の方が最近仕事が捗るから、昼夜逆転になりつつあるわねー。
使用人達も何だか夜型が増えたらしくて、昼シフト組と夜シフト組に分かれつつあるわ。
どうなってんの。
……サイドテーブルには、最近ご無沙汰の明るい空色の可愛らしい帽子がある。
ヴェールが付いていて、可愛らしいのにミステリアスな雰囲気。
フフッと微笑みが漏れてしまうわね。
「お嬢様、鼻に何か入りました?」
「違うわよ!!
ええい!雰囲気の無い!!」
「ですけどこの間、鼻に虫が入って、テンパって水差しを壊されて」
「悪かったから、忘れて!!帽子のことよ!」
モリーに不審な目を向けられてしまったわ。
……そんなに鼻息荒かったかしら。
……まあ、確かに古い金属製の水差しを割ってしまったのはやりすぎだったけど。
ちょっとハタいただけなのになー。……うう、お淑やかさが更に減っていってる気がするわ。気をつけよう。
「確かに美しいお帽子ですわねえ」
実はこれ、ジョエル様から頂いたの。嬉しくて嬉しくて!
若干こう、頭が締め付けられる程度の締め付けが有るんだけど、既製品だそうだから仕方ないの!
既製品でも、お気持ちが嬉しいのよ。そもそもオーダーメイドは無理だしね。
領地や辺境伯領なら豪胆な職人も居るけど……そもそもこんな繊細で可愛らしくて愛に溢れた帽子が作れる気がしないわね!
「素敵なプレゼントで、良かったですわねえ」
「そうなのー」
「最初はエキセントリックで本当にどうかと思いましたが、あの方がお嬢様の旦那様になってくだされば宜しいですのにね……」
「やだ!モリーったら!」
……まあ、現実には無理よねー。
あちらは隣の隣の国の王子様。
一応ウチは伯爵家だけど、辺境伯様の子飼いの部下の家。
「ごっはぁ……」
「お嬢様……溜め息が少し令嬢らしくないです」
「うぐ……。朝食のヨーグルトが喉に張り付いたかしら」
風邪だと困るのよ。こんな顔ではウカウカお医者も呼べやしない。
敷地内から出ない生活と言えど、キチンとウガイ手洗いをしないといけないわね。
そう決意していたらあら、ノックが。
「お、お嬢様……」
「なーに?」
「あの、ご面会のお申し込みが……」
「ジョエル様?それなら明日は早く起きなきゃいけないわね」
最近よくお見えになるわねー。うふふふふふっ!
「いえ、最近お見えにならないのでと……王宮からのご使者が……」
「え」
「ど、どうしましょう」
「ちょっと待って。1ヶ月経って、今!?」
普通、もっと早いものでは無いの!?いや、来られても困るけれど!!
ち、血の気が引いて……誰にも見えてないけど、ザザザアって!!血の気が引いてるのよ!!どうしよう!
「期限は……当家の立場的には、そ、そんな物ではないでしょうか……」
「ななな何てこった……」
「お嬢様!お言葉遣いが乱れてます!!」
このままでは、私が魔物として討伐されてしまう。
そして、当家の秘密……?デュラハンが生まれるかも伝説?が広まり……デュバル家と、辺境伯家に討伐隊が組まれてしまうの!?
そ、それから隣国に攻め入られて、この国は……。
でも、それを心配しても、私は……。
皆で支え、守ってきたこの国に見棄てられ……?
「聞いてらっしゃいますかお嬢様?」
「は?」
え、最悪のシナリオで涙溢れそうな悲しみに浸っているのに何なの。そんな呆れた顔で聞いてねーなコイツみたいなリアクションは。分かりやすくていいけどさー。
「ですので、ジョエル様からのご助言通り、衝立を立てて侍女を介してお話されれば如何でしょうかと」
「は?」
衝立?
侍女を介して……って、何。そんなの許されるの?
「顔を突き合わせて会わなきゃいけないのが、ガチなんじゃないの?」
「お嬢様、お言葉遣い!」
「大目に見てよモリー!緊急事態でしょ!」
側仕えとして、教育係から怒られてるのは申し訳無いけど、最近頭が固いのよ!
「具合の悪い設定なら、ヴェール付きの令嬢は何とも思われないそうです」
「……ジョエル様、賢いわね」
更なる助言を頂きたく、手紙を書かなきゃ。
ああ、ブレーンとして賢い人を置きたい辺境伯様のお心が今、解ったわ!
オーダーメイドの帽子って素敵ですよね。