大使様の接近
お読み頂き有難う御座います。
テンション上がらないクリアラの元へ来客です。
「実家からの手紙が来たって?」
まだ朝露の乾ききらない朝。
領地からやってきた手紙とか、王宮への陳情とか……。頭が爆発して憤死しそう。
取り敢えず、仕事も手に付かなくて。
中庭でお茶と言うか、料理長お得意の特大クッキー(手鏡サイズ)のヤケ食いをしてたら……水色の頭が突撃してきたわ。
「はあ……い、いらっしゃいませ」
……他国の大使様ってお暇なのかしら。
友達を呼んでも此処までスピーディーに来ないわよね……。
まあ、お見えになったらお通ししろとは言っておいたけど……門番は吃驚したでしょうね。
普通、他国の王族はこんな木っ端貴族の屋敷に来ないもの。
……わあ、馬車にさりげ無く王冠が付いた紋章だわ。権力さり気無く誇示してるって感じ!
「中庭でお茶?気分転換は大事だしね」
「は、はあ。どうぞ宜しければ」
言い切る前に目の前の席に座ってしまわれた。……殆ど飾りと化していた椅子に。
まあ、……良いんだけどさあ。このナチュラル傲慢な辺り、お偉いさんなのね。
「家では帽子無しなんだね」
……ええと、そりゃそうよ。
家の中……中庭だけど、帽子なんて……暑いわ。蒸れるじゃないのよ。
え、帽子……。
「……………………は!?」
忘れてたわ。滅茶苦茶忘れてたわ。
朝露の中庭でクッキーを食べ、紅茶を頂いている。とても、普通の令嬢らしい光景。
但し、首から上の失われた体が……クッキーを消して……。
と、今の私は滅茶苦茶ホラーだということを、すっかり忘れていたわ!!
「おっ、お見苦しいものを!!」
「いや、良いよ。よく観察出来るし」
視線が痛いわ。
あっちは私越しに植木でも見てるんでしょうけれど。
「郷里の手紙の内容は読んだよ。やっぱり秘められた一族なんだね」
何か……こう、言い方がお軽いわね。秘められた一族って。
もっとこう、ダークでおどろおどろしい雰囲気やイベントと共に明かされそうな単語なのに。
「せめて血を継いだ身内には、オープンな秘密で有って欲しかったですわね。心構えが出来て、ガタガタ出来ますし」
「それも不健全だから、不意打ちで良かったんじゃない?後、道で突然透明にならなくて良かったね」
「ま、全くですわね……」
即座に討伐される未来しか待ち受けていないわ。
この国はホラー現象とかオカルト系は、娯楽小説か夢物語だもの。
私だって信じていなかったわよ!我が身に起こるまで!
「一体どうしたら、この顔は元に戻るのでしょう。やはり呪いを解いてパッとハッピーエンドの世界が喜ばしいのですが」
「呪い呪いと気楽に言うけど、こんな解りやすい呪いは伝わってないからねー」
え、何よ。もっと陰険だって言うの?止めて頂きたいわ。急に寒気がしてきたじゃないの。
此方がビビってるのに、栗鼠みたいに口いっぱいにクッキーを頬張らないで頂きたいわね。マイペースか。
でも、可愛らしいわね。
こちとら先日まで、筋肉馬鹿と脳筋馬鹿に揉まれて生きてきたのよ。
美青年には心ときめくじゃないの。クスン。
「血でも調べてみる?多分デュラハンの血のデータしか出ないと思うけど」
「そもそも何故デュラハンとやらのデータをお持ちで……?」
「ふふん、魔物辞典さ!」
……前から分厚くてデカい本だなぁとスルーしてたけれど、今日もお持ちだとは。重くないのか。どんな本なのよ怖いな。
でも、と言うか、それよりもよ。
「魔物……」
魔物、魔物かあ……。
私、そのカテゴリに入っちゃうのかー。
「余所の地方では魔獣人とか言われたりするけど」
「魔はどちらにせよ、付いておりますのね」
……フォローになってないな。と言うか、獣人と付くならもっと可愛らしい見た目希望だったわ。
物語ならイヌ科とかネコ科とか有るじゃないの!それならあの方の元へさり気なく近付いてキューン!とかブワワーンとか……。
んん?
「……んん?うわっ!君、む、虫が」
「え?ああ、養蜂の蜂が飛んできましたのね」
大人の拳大くらいで、雲のようにモワンとした蜂がブンブンブワッと。
甘い香りに誘われてきたのね……。そういや朝は活発なんだったな。
「少しだけ領地から持ってきた蜂で王都の当家でも養蜂をしてたのだけど、……滅茶苦茶育ったのですわよね。
おかしいんですのよ?
元々普通の蜜蜂で、小指の先程のサイズ感だったのに丸々と太ってしまって」
「養蜂!?蜜蜂じゃないだろ、このサイズは!!魔物だろ!!」
「あまり近寄られては、噛まれますわよ」
「噛む!?」
「噛むというか、正しくは足に生えた棘で獲物を抱き込んでガリガリ削るのですが」
「何てものを飼ってるんだ……。君の家は滅茶苦茶楽しいな!!」
……楽しいか?この方も大概だわ。
マトモな位置のネジが緩んでる方なのね。
虫嫌いなのかと誤解したわ。
砂糖を載せた受け皿を差し出したら、蜂が留まったから見せてあげると、子供のようにキラキラした目だった。
「また来るね、クリアラ嬢!」
「はあ……」
何の解決もしていないのだけど、良いのかしら。
と言うか、大使業務は?いいの?
「……お嬢様、不思議な方ですわね」
「そうね……」
ちょっと気が晴れた気がしなくもないわ。
お仕事頑張ろう!
蜂の巣箱は8代目です。