震えと黒きモヤモヤ
お読み頂き有難う御座います。
クリアラは段々正気に戻ってきました。
「それであの……」
生贄発言はとても気になるけれど、多分私のような思慮の足りない貴族娘に対する軽い王族ジョークなんだわ。王族って意味不明な絡み方するもんなハハハ!会った事無いけど!
いけないわ、膝が震えてきた。後ろのモリーは壊れたメトロノームみたいな横揺れをしてるわ……。
そもそも、この軽いトークの裏側には殺意とか隠してない!?この部屋から出る時、私達ってば死んでない!?首は見えないけれど、落とされちゃうのかしら!?
ああ、何だか冷静になってきたかもおおおお!
「うん、やることが有るけどデュラハンに興味が有るからなー。隙間時間で研究させてよ」
「のっ、呪いを解く方法でなく!?」
震えは止まったけど、研究材料にする発言!?
「え、駄目?君のこと滅茶苦茶気になるんだけど」
「えっ!?」
おお、何て初めて聞くロマンチックな言葉なのかしら。……この心臓が跳ねが恐怖でなければ良いのに……。お顔は可愛らしい系なのに場が何てそぐわないのかしら……。
「取り敢えず、君の家に連絡してよ。それで資料が有るなら即刻送って貰って」
「いえ、ウチは……単なるしがない伯爵家なんですが……」
資料……?そもそも、我が家に本を読む習慣なんて無いわ……。私ですら娯楽小説を王都に来てから得たのよ?そもそも書庫がない。本棚は……倉庫に有ったような気がしたけれど。……
「あんまり此処にいられないしね、早くね」
「は、ハイ……」
さ、逆らえば一族諸共壊滅かしら。
ああ、どうしよう。この方の気を紛らわすような大した記録とか……あのガサツな我が家に有りそうにない。辛うじてインテリな叔母様に連絡を取れば、何とかこう、お知恵を貸して頂けるかしら!?
「あれ?急にトーンダウンしたね?どうして?」
「いえ、その……不敬を」
「ああ、気にしないで。僕、八番目だし生贄だから」
だから王族ジョークは良いんだってば……。
半笑いしか出ないわよ。いえ、見えてないんでしょうけど!!
「取り敢えず僕の騎士をつけるから、早く帰って連絡して。トビー?」
「……本気ですか?殿下。このような……」
うわっ!動いた!!置物みたいに動かない騎士が動いた!!
思わずビックウ!って肩が跳ねてしまったわ。
「ピョエエ……」
「も、モリー……」
ああ、滅茶苦茶良い剣を佩いてるわね……。流石にあんないい剣お持ちなのは辺境伯様位だけど!……王子様の部下は流石に良い剣をお持ちね……。
アレで斬られたら……うん、滅茶苦茶怖いわ。
「私の剣が何か」
「い、イイエえ?さ、早速帰りますワネェ?」
発音がおかしくなるレベルで怖い!!
流石に、手練の騎士とやり合える運動神経は無いわよ!!モリーも豪胆だけど、流石に限界を突破しそう!!
「その帽子さあ。古代魔法掛かってるし、今度は違う帽子で来てね」
「え、えええ?こ、これを!?」
……このお祖母様の帽子(薬草臭すぎる)にまで興味を!?
……やはり、呪いなんじゃないかなぁ。
「デュラハン研究が出来るなんて、此処に来てよかったなぁ」
……うう、もう分厚い本に向かわれてしまったわ。
「いえ、だからそのデュラハンとやらでは……」
「あれ?まだいたの?トビー」
「はい」
ぺいっ、と。
本当にそんな感じで……お部屋から放り出されてしまったわ。
す、スマートだな。
ウチの一族なら、もっと適当に荷物みたいに放り投げられるわね……。
「……結局、何の解決にも至らなかったわ」
「で、ですね……。い、いえ、ですが……『でらはん』とやらの情報が分かりましたし……」
「……デュラハンでしょ。あの王子様、オカルトな話しかして無かったじゃない……。」
「ですけど……デュバル家がそのデュラハンさんとやらの血族かもしれませんし」
デュラハンさん……。よく知らないけれど、そんな気軽に呼べそうなオカルト種族じゃない気がするわ。
そんな変な者じゃない筈のに……。
「お嬢様!何か分かりましたか?」
「全然……」
「ちょ、ちょっと……後でちょっと」
モニーと御者の会話すらも頭に入らないわね。
暗い気持ちで馬車にゴソゴソ乗ろうとしたら、黄色い悲鳴が響き渡っているわ。
「んん?庭園に人集りが……」
ああ、あの素敵な方の罪なウィンクでも誰か浴びたのかしら。羨ましさで爆発しそう……。私も目を回して倒れたい……。
「あれ?煤みたいなのが……誰だよ!伯爵家の馬車に!」
「嫌だわ、何かしら……」
モヤーッと……黒いものが馬車にくっついているわ。何かしら。煤?ホコリ?
「この辺で焚き火でもしたんですかね?」
「王宮の馬車停りで?嫌だわ非常識な……。誰かの嫌がらせかしら?」
「フフフ……!影の薄い私に嫌がらせだなんて暇人ね……」
「お嬢様、凹まないでください……。王宮の方々が陰険なのは此処1年程でよく分かったじゃないですか」
「そうねー……。余所のご令嬢目掛けて落ちてきた鉢植えとかは蹴飛ばしたけど……私本人に物理的な嫌がらせは初めてね……」
田舎臭いとかの陰口はしょうがないけれど、人を助けて恨まれるとか、理不尽が過ぎるわ。
何て王都って腹立たしいのかしら。
「まあ、この程度ならきっと水洗いで落ちますよ!前向きに行きましょう、お嬢様!」
「……そうよね。隣の隣とは言え、王子殿下のお達しだし……。手紙の件も執事長に相談するわ。
領地の叔母様なら何かご存知かも」
……世界が暗い気がするけど、凹んでても居られないわね。他国とは言え、王族に逆らうなんて論外だわ。お取り潰しになりかねないもの。
「そうですよ、お嬢様!あの王子様のお気に召すような何かが有るかもしれませんよ」
「ウチの屋敷の裏の壊れた遺跡とかかしら……」
「そうですよ!」
……私の顔が元に戻る相談がとんでもないことになってしまったわね……。
テンションの上げ下げが激しいですね。