大使様は挨拶してくれない
お読み頂き有難う御座います。
透明顔令嬢御一行様、何とかしてくれそうな人の元へ向かいます。
「先触れを出しましたので、拝謁可能だそうです」
「拝謁?」
何で大使に拝謁だなんて使うの……?
もしかして、高位貴族?もしくは、末端王族だったりして。
……子沢山の王族なら、継嗣以外は自力で食い扶持を稼がねばならないものね。でも、顔を晒して外に出れるなら良いじゃない!
……そんな事ですら危ういこのホラー顔では、もうどうしたらいいの。今後の生活にピンチが過ぎるわ……。
そして、不安が残る中。
私達はビクビクしながら王宮を全く話題にならず抜け……。
何でかしらね。使用人も連れてるのに滅茶苦茶スルーよ。ザワザワ……と遠巻きにされてしまうか!?と思ったのに!
あっ、……文官の制服が同じような変な帽子着用なのね!?紛れてるようだわ。やったわね!
……令嬢らしくドレスを着てるのに、本当何でなのかしら。違和感仕事してるわよね?私の気配って此処では亡き者なの?オーラが消し飛んでるの?影が薄いの?
うう、虫除け薬草の臭いが鼻につく……。
「臭い……暑い……」
「お嬢様、もう少しですから!」
万が一風に煽られぬよう、襟にヴェールを厳重に止めてるから、頭から筒を被って蒸されてる気分だわ。実に暑いし重いし臭い。
顔面に風を浴びたい!脱ぎ棄てたい!!
「あっ、あれは」
「急ぎましょうお嬢様!!」
あの方は!!
途中、あの素敵な方を人集りの中見かけたの。
あの方がお出でなら、誰にも注目されなくて当然よ!納得だわ!田舎者は気にも止められないわよね。
なあんだ!
「はあ……」
……ああ、あの集団の中に必死で混ざっていたあの日が遠すぎる。あの頃はショボいながらも、顔が鏡に映っていたわ。
滅茶苦茶気持ちはベコベコに凹んで、大使様の滞在なさる棟に着いたの。
ああ、視界が悪いせいか世界が暗いわ。世界の全てが恨めしい。暗黒に囚われて包まれそう。
「お待たせしました」
「お嬢様」
はっ、しまった。悲しみでまた涙が溢れそうだったわ。しっかりしないと。
「貴女がクリアラ嬢?……デュラハン属?」
「は?」
何が、何だって?カーテシーが滅茶苦茶乱れたじゃないの!!
「……でらはん?いえ、家名はデュバルです」
「顔が透けてるから見せに来てくれたんでは?デュラハンだね」
「は?」
綺麗な薄いふんわりした水色の髪に……濃い茶色の眠そうな眼差しの殿方。服装は……階級が分かりそうな物ではない、文官の異国風のローブ、かしら。
少し背は……其処に控えてる騎士より低めね。もしかして、歳下?
と言うか、名を名乗って頂いて無いのだけど。お急ぎ過ぎて、許可もスピーディー過ぎて、予習してくる暇も無かったのよ。
「アンデッド族の透明人間枠になるのかな。
首を携帯出来るタイプと、セパレート出来ないタイプと……ああ、透明にならないタイプも有るか。その辺の派生は何処で起こったのだろう。君の家に資料とか無いかな。ああ、気になる!」
「知らん!!いえ、知りませんわよ!!」
何なのよこの人!!ベラベラと!!
……でも、何か知ってるっぽい!?助かるの!?でも怖い程ベラベラと!!意味不明な事をベラベラ喋られるとビビるのよ!!
で、でも他国の王族ならどうしよう。腹立つけれど不敬!?
「す、すいません不敬を」
「君のように突然透明になるパターンは珍しいよ。普通は、生まれもって首無し気味になるからね」
「生まれもって首無し気味ィ!?」
どういう言葉よそれは!!て言うかこっちの引き気味なのを見てよ!!と言うか、謝罪くらい言わせろよ!!後で後ろの騎士がイチャモン付けてきたらどうしてくれるの!?問答無用で捕まりたくないわ!怖すぎるわ!!
「こほん、失礼を致しまして」
「生まれ持って首無し気味の方はー、首有りなんだけど、ポコッと外れてるんだよね」
いや、話の流れを読んでよ!!それ、普通に死んでる人かオバケじゃないの!?デカい本を読み出すな!!
「おかしいでしょう!?
お、オバケじゃないですか!!」
もしくはバラバラ死体!?ああ恐ろしい!!普通に、国境沿いの小競り合いでも、今のところ其処までの残酷さは無いのに!恐ろしい!私の身はどうなってしまうの!?
「モリー!?何なのこの方は!?何処の何方!?こうなった訳を話してるの!?」
「あ、あのえっと……特にご事情をお話ししていない筈です!!」
「説明をしときなさいよ!!」
もう意味不明が迸り過ぎて大混乱よ!全力でヒソヒソやるわよ!!
「だって、そんな古代の変な帽子被って顔隠しながら他国の者を頼ってやってくる人って、突然顔を失ったぐらいの事情じゃない?」
……いや、そうだけど。当たってるけど何か違わない?
察し方がおかしいわよ。
「多分君のご家族は動じないと思うよ。そもそも何故君は動じてるの?」
「知らされてないですが!?」
元々首と頭が透ける一族!?そんな訳が有るか!!そうよ、そんな訳が……無いのよ!聞いたことないもの!
「と言うことは、君はやはりレアケースなんだなぁ。どういう構造なんだろう。断面が見れたら見たいのに……。首、ちょっと外れない?」
「断面ん!?やめてくださいます!?」
うわ、帽子の布捲られた!!
ジロジロと顔の輪郭やら顎を見るんじゃない!!エラとか顎なんて、乙女にとってジロジロと見られたくない部位だっての!!
いや、向こうからは見えずともよ!
「私は、呪いだと思ってます!!だから、魔女を」
「呪い?何で?滅茶苦茶デュラハン顔なのに」
「デュラハン顔!?」
何なんだそりゃ!?私の顔、見えてるの!?いや、輪郭は塗られてるから見えてるのか!我ながら怖そう!
「呪いなら大体僕だって資格有るんだけど」
「……はぁ?」
……見るからに殿方よね、この人。魔女を探してるって言ったわよね?ご婦人なの!?
「失礼な。魔女・魔法使い検定には受かってる!ただ、その、ランクが魔女っ子なだけで」
「ランクが魔女っ子!?そもそも検定って何ですのよ!!」
「僕だって魔女・魔法使い検定に合格出来てれば!
今頃エリート魔導師として、マント靡かせて肩で風切る魔術使えたのに!」
いや知らないわよ。マントぐらいファッションとして勝手に着てよ。
……本当に、この方はどういう階級の方なの。何故、お付きは不敬だって止めないの……。
私も大概だけれど、かなり他もどうかしてる空間だわ。
「どうでもいいわ……。それなら、私の呪いは解いて貰えるんですの?」
「……僕のような落ちこぼれにはなー。仮に呪いなら……。そんなマニアみたいな細かい術式……無理だろうね」
だったら言うな!!って言えないけど!!
「そもそも呪いじゃないし、まあいいか」
「よく有りません!!困ってます!これからも困ります!」
「まあ、首だけじゃ隠密活動も無理か……」
「隠密活動したくありません。ただでさえ目立たないのに」
「今は目立つよね。
目は見えないけど、君、素敵な骨格してるよ」
パチリ、と……目が合わない筈なのに。
茶色の瞳が私の目とかちあった、わ。
「僕、ジョエル。生贄王子って呼ばれてるよ」
心臓が跳ねた気がしたのは、気のせいよね?いや、そもそも……生贄って何!?そして、そして!?
「王子……」
「あれ?知ってて来たんじゃないの?」
リサーチ不足なのは……脳筋的に来たのは此方が悪いけど……!!
受け入れたそっちも大概よ!!
クリアラは切羽詰まっております。