恋煩いの透明感
お読み頂き有難う御座います。
基本、悲壮感の足りないギャグテイストでお送り致します。
私の名前は、クリアラ・デュバル。デュバル伯爵家の三女ですわ。今年二十歳になりました。
北国との国境を守るハナレバ辺境伯家が寄親です。我が家は辺境伯マーティン・ハナレバ様の配下がメイン業務として、お仕えしております。
訳有って婚約者はおりません。でも、昔と違い其処まで早婚が尊ばれる時代でもありません。婚約者が居らず自由恋愛もメジャーになってきましたものね。高貴な身の上でもご結婚を選ばない職業婦人も多々居られますし。
そして、三女とは言っても実質長女のような身の上です。残念ながら姉ふたりは早世してしまいましたの。棺は固く閉じられて、お別れすら言えなかったのが心残りです。
そして2年前。お姉様達と同じ病を得られたお父様の代わりに、次期領主のお兄様は領地で奮闘されておられます。
そして私は王都のタウンハウスで療養中のお父様の名代として暮らし、王宮にも出仕しておりましたのよ。
出来ることは僅かでしたが、2年前より懸命に王宮とタウンハウスを行き来し、お父様とお兄様のお手伝いをしておりましたの。
慣れない王宮でのお勤めに心萎れてションボリと肩を落としていたその時。段差で足を取られました。足元をよく見ておらず、転び蹴躓くところだったのです。
そんな私を……優しい微笑みを浮かべた素敵な殿方が、助けてくださいました。
逞しい胸に抱き止めてくださった素敵な殿方に心を奪われてしまいましたの。
ですが、私と来たら碌なお返事もせず慌てふためくばかり。そんな私に微笑み掛けてくださり……爽やかな風と共に去ってしまわれた方。
高鳴る胸は収まらず、その方の事を調べましたの。
もう一度……あの方にお目にかかりたくて。
いえ、素直に申し上げるなら、あわよくば私をお嫁に貰って頂けないかしら。その為に研鑽し、自分磨きを頑張ろうと強欲ながらも思いましたの。
狙いの殿方は直ぐに見つかりましたわ。
それはそうですわよね。
その方、人気者で人気者で……滅茶苦茶……獲得したいと爪を研ぐご令嬢が目白押し。虎視眈々から即仕留める気のご令嬢まで……婿に望む方々が山となし、非常に倍率が高かったんですのよ。
愕然としました。そして、自分の浅はかさに絶望致しましたの。
付け焼き刃で全てが万事適当に切り抜けてきた私は、令嬢として戦える武器を何も持っていない事に気が付きました。
……国境沿いの辺境で国防を担う我が領地を誇りこそすれ、恥とは全く思いません。ですが、流行も半年遅れで届くような辺鄙な土地の生まれなのは否めないことなのです。
ええ、着いた当初から田舎者であることはヒシヒシと感じておりました。
愛する我が領地の言葉とは言えど、都会では粗野な辺境訛りよと失笑される言葉遣いも必死で直し……。体に添わない流行りの装いを誤魔化して流行りの恋愛小説も読み耽り……ああ、あれは面白かったですわね。あんな恋物語、とても地元では味わえないですし。
剣檄止まぬ田舎では危ないからイケメンの視察も来ないし、ロマンスが生まれように無いもの。悲劇ですのよ。
とまあ、私のようなもっさいガタイ良い田舎令嬢が頑張ったんだってのよ!何で真面目にやらなかった淑女教育!!もう頭がゴチゴチに固くて、教育なんぞ吸わないわ!!
でもね。頑張ったの。淑女教育も、お化粧もよ。褒められこそすれ……何故なのよ!?
「……どう言うことよ!!何で首から上が透明よ!?そうはならないだろーですのよ!?」
「ああ、やはりお嬢様が喋られた!!」
「お嬢様が喋られたわ!!付け焼き刃が剥がれて!地が出て混乱されているけど!!」
少々引きながらも無事を喜んでくれて有り難う使用人達!
でもね!そりゃ混乱もするわ!!何処の誰が首だけ透明人間になりたいなどと願ったのよ!?
「本当だわ……触れますね。あ、何時もの後頭部に寝癖が……!直ぐにセットしなおし……見えなーい……!!」
「でしょうね!!私も見えないわ!」
「これは……魔女的な者に呪われたのでは?流石に非常事態で非常識が過ぎます」
「魔 女 的 な 者!?」
居るのそんなの!?夢とファンタジーなのは童話だけだと思っていたわ!
でも、我が国は基本鉄の技術で暮らす平和な国だから……余所の国には隣国くらいしか知らないわ。
「隣の隣国は魔導師なるものがウジャウジャおり、魔女的な妖しい者も居るそうですよ!!
処刑もジャンジャン行われているとか!」
「えー、マジかよ。無法国家過ぎない?
眉唾物っぽいわね……」
本当なのかよ。そんなオカルト事象はどうしたらいいの!?魔女的な犯人を吊し上げ!?物理的に!?
折角肩の筋肉が落ちてきて、怒り肩が心持ちマシになったのに!?また素振り訓練しなきゃならないの!?淑女訓練と同時進行とか、無理すぎでしょウガア!!
顔が……いや、もう偽りの淑女仮面を被る必要すら無いかしら。
そもそも、常に淑女を!美しい言葉を家の中でも保てないならいけません!とか王都で雇った教育係が言うから……。せめて家の中ではダラッとさせろっつーのよ。非常事態だししょーがないわよね。流石に顔が誰にも見えないもんだから、声に出さなきゃモニーも嗜めてこないわ。
「やっぱりあの、『輝く透明感溢れ過ぎ化粧水』がいけなかったんでしょうか……。
名前も胡散臭いですし、お言いつけ通り顔に塗りたくりましたし……。お体は消えてませんし」
「うっ、確かに首から下には塗ってないけど……。
でも!あの化粧水使ってるヤツが王都にどんだけいるのよ。聞いたこと無いわよ!?透明感通り越してガチな透明になるなんて」
それとも知らないだけであの化粧水による犠牲者が!?いや、流石に大騒ぎになるわよね。今此処我が家でも大騒ぎなのに。
「あの原材料不明の変な砂糖が呪いのアイテムなのかもしれませんね……」
「え」
そんな、流行りの砂糖が実は呪いの劇物!?そんな!!でも、社交界で大流行なのに!?
「でも、あのお砂糖は……大通りのお菓子屋さんで買いましたよ?」
「そーよね」
……普通に話題のお菓子屋さんに買いに行かせたものね。そんな危ないものを大通りで売ってたら、今頃阿鼻叫喚で大騒ぎよ……。と言うか、あの砂糖はお下がりで幾つかモニーにあげたわ。
でも、目の前のモニーは勿論透き通ってないし、どう見ても無傷よね。何なの。摂取量なの?
「あああああ!全く分からない……!埒が開かないわ……。どうしたらいいの」
私が何をしたって言うの!!酷すぎる!!恋に悩み美しくなりたかっただけなのに!!
あ、涙を流して悔しがって……いたら自動的に寝間着の襟が濡れているわ。怖。
「そう言えば、魔法使いで有名らしい隣の隣の国の大使殿が、王宮に来ていると聞きましたよ」
「隣の隣の国?え、何処の?」
オカルト好き執事から朗報が齎されたけど……。小国が固まってる立地に、隣の隣とか言われても困るわね。
「ヨカゲツ国だったでしょうか?」
へえ!王都ゴーストツアー巡りが趣味!?変!とか思っててゴメン!て言うか魔法使いってジャンルはオカルトなの?どうでも良いけど!
「隣の隣のヨカゲツ国ね!そうと決まれば、早く行きましょう!」
「お待ちくださいお嬢様!!せめてメイクをしましょう!!通りへ出たら間違いなく魔物扱いされます!!」
し、しまった。そうだったわ。
うぬぬぬぬ!触ると何時もの私の顔なのに……。黒い癖の有る固い髪も何時も通りなのに……。
「髪まで透けているなんて……今、カツラを探させてますから、御用意しますね!」
「髪だけ浮いてても怖いわよ。
そもそも何でこのタウンハウスに女性用カツラなんて有るの」
「お嬢様のお祖母様の物だそうです……!」
「お祖母様ぁ?そんな古い……お……うっふ!」
……持ってきたのを見たら、控え目に言っても凄い変化球な髪型のカツラだったわ。何故処分しないレベルの代物よ。
「こ、これはまた……目に痛い……!いえ、豪華でクラシカルなお髪で……」
前髪から後ろ髪迄全方向縦ロールって言うのかしら。しかも金髪に七色のメッシュ。これ、どういう理屈で逆立ってるの?何故型崩れしてないの!?どうやって箱に仕舞ってたのよ!?浮かせてたの!?
兎に角……このトゲの丸いウニみたいなカツラを被るのは嫌過ぎるわ。こんな七色のウニは世間に居ないと信じているけれど。いや、今の私より変な生き物もそうそう居ないだろうけど!!こんなもん装備して、更に不審になりたくないわよ!!
「いやー懐かしい。ウチの祖母が手入れしておりましたよ」
年配の執事長が言うには、跡取り娘であるお祖母様の娘時代、奇妙喜天烈奇抜……つまりイカれたヘアスタイルが大流行。自前の髪で出来ないヘアスタイルをカツラで表現するのがトレンドだったとか。
……碌でもない流行りよね。今に生きてて良かったわ。いえ、顔が透明なのは今現在良くないけど!
「絶対嫌に決まってる!!」
「ええー?ですが今からカツラは……」
「帽子でも被りゃ良いでしょ!!」
「分かりましたあ。ええと、この辺が眉……」
「ねえ、モニー」
「ハイなんでしょうお嬢様!」
「眉墨とマスカラを塗ってくれようとするのは良いけど、睫毛の前に目玉はどうするの」
「あ」
流石に目玉はどうしようもないわ。黒眼鏡?無いわよ、そんな気の効いたものは!!
て言うか何で目玉まで消えてるの!?やっぱり呪いなんだわ!!酷い!
「ああ!どうしましょう……!
最早、その廊下に有る鉄仮面でも被る……!?」
「お嬢様!!大奥様の派手なヴェール付き帽子を見付けました!これで何とかなりませんか!?」
……またダサ派手で時代遅れ……いえ、それなりにクラシックな代物だわ。
うわっ、即座に鼻に纏わり付くなぁ。滅茶苦茶虫除け薬草の臭いがキツくて酷いわ……。ああ、この顔が元に戻った暁には大掃除を決行し、お祖母様の冗談みたいなガラクタを処分しまくってやるわ!
「お似合いですよ!何となく!」
「モニー!」
こんな派手帽子に似合うとか有る?でも、被ると輪郭と顔がボヤッと鏡に映って……目立たなく見えるわね。帽子が派手すぎて顔に注目が行かないからかしら。
目は空洞と言うか、見えてるのに姿形も無いけど……紺色だからそれもカバー出来そう、かしら?
しっかし、お祖母様は何に使ってたんだ、この派手な帽子。仮装趣味?
「兎に角……此れで王宮へ乗り込む用意が出来たわね!!」
「前向きなお嬢様が戻ってこられ何よりですが、ドレスもお着替えしましょう……」
……はっ、そうだったわ。未だ寝間着のままだった!
基本、豪胆な使用人のお仕えする家です。




