瞳は交わされずとも
お読み頂き有難う御座います。
漸く終盤ですね。
「だって、あの使者様が言ったんです」
モダモダと、聞き辛かったけど。
どうやらあの日の帰り間際、ゴミ捨てに行ったモリーを捕まえて、要らん事を吹き込んだらしいの。
ジョエル様が不正をデュバル嬢に持ち掛けて居る。
会っている所を騎士団に教えろ。
そうしたら、被害者は見逃してやる。
無茶苦茶でしょ。何で引っ掛かってるの、もう……。
「いやいやいや……無理でしょ」
「なっ、何でですか!」
「そもそも、君のお嬢様は僕に会う前から透明顔だよね?今、誰に会っても魔物認定されるよね?魔物を騎士団が見逃す訳が無いだろ」
「そ、そんな……!?じゃあ、お嬢様は……」
「最初から分かってた筈だろう?この顔でクリアラ嬢が外へ出たら討伐されるって」
「あ……そんな、そんな……」
……いや、そりゃそうよモリー。流石に私でも分かるわ……。
しまったな……。モリーは、よっぽどショックだったのね。そうよね……。私の異変に加えて、都会流の脅しとか、ショックよね。
しかしあの使者は性格悪いな!腹の立つ!
「さて、どうする?クリアラ嬢」
「……どうするもこうするも……。流石に騎士と渡り合える腕っぷしは御座いませんし……」
所詮、領地の籠城戦の訓練しかしたことがないものね……。それも、設備の整った領地でのことだし。
タウンハウスでの抵抗は予想外だったなぁ。
「彼らの本命は此方。お疑いのようだし、僕が出てみようか?」
「いえ、普通にお帰りになられた方が良いですわよ。裏口なら山程有りますし」
逃げる場所は有るのよね。攻撃は出来ないけど。使用人が居るのに領主代理である私が使う訳にはいかないから、丁度良いわ。
未だ庭で騎士が執事とモメているようだし、ジョエル様の脱出時間は稼げるわね。
「追い詰められてるのに、君は本当に他国の者に優しいよね」
「友好関係を築いた方にご不便はお掛けできませんわ」
パチクリ、と濃い茶色の瞳が、私を射貫く。
……初めての出会いのように。
見つめ合った気が……気のせいよね。
「そうだね、友好関係ね。今は未だ、そうだね」
「ええ」
「じゃあ、更なる関係向上の為に」
ヒラリ、と身を翻されたかと思うと……。
え!?身を翻された!?
「ちょ」
「きゃあ!」
窓から落ちた!?ジョ、ジョエル様が!!何で!?何で……あれ?
「失礼!失礼な押し掛けアポ無し騎士殿」
「貴方様は……」
あっ、フワッと降り立った。
……アレは、魔女っ子とやらの力……!?
……本当に、魔法使いなんだわ。凄い。普通なら足折れるわよね。
「其処らで囲まれる憧れの騎士。しかし自国のご令嬢しか居ない邸宅に押し掛ける無頼者だったとはね」
「誤解です。私は命を受けて」
「闇纏いが他国へ夜逃げでもしやしないか、見張りに来たんだろう?キレット・スパークル」
……えっ、あの騎士……。
憧れの騎士キレット様だったの!?全然見えなかった!!
……あれ?
……目も耳も悪くない筈なのに。太陽の光とは、また違う。乱反射した、目くらましの光が人の形に、覆って……?
何故、キレット様が見えないの?どうなってるの?
「それとも、精霊の名を上げに?出世利用する為に闇纏いを討伐しに来たのかな?」
「誤解です!!」
……そんな。
「隠さなくてもいいよ。君の一族のスパークルは……。
いや、王家と共に闇属性の魔物を保護と言う名で増やして、狩って、名を挙げて来たのだから」
「ち、違います!!何処情報ですか!?貴方は誤解されてます!」
「何が違うのかな?現に、君のお母君は……魔物の血で染めた衣装で精霊に気に入られて加護を得たんだよね」
嘘。
そんな……私も、そうなるの?
あの方の一族の為に……私が、次の犠牲に。
「お、お嬢様!く、黒いモヤが……」
「!?あれが、デュバル嬢?……顔が……くそっ、闇で分からない」
闇?……闇って……何だか目の前が暗いわ。空が曇ってきたのかしら。
「君、クリアラ嬢を見たことがないの?」
「お会いしたことは有りません!!」
お会いしたことが、無い。
無い。
……そんな。
「可哀想なクリアラ嬢。この男は……君を覚えていない」
「ジョエル殿下!?何だか分かりませんが、デュバル嬢を煽らないでください!!」
「僕は君が憎いなぁ。僕は、彼女の顔を見たことが無いのに、彼覚えてすら居ないんだって」
ドロリ、と。視界が濁る中。
ジョエル様の声が悲しそうに響く。
「君と視線を交わしたことすらないのに。君の瞳の色すら知らない」
……私の瞳の色は……。
何だったかしら。視界が真っ黒だわ。
「おじょ……」
横で誰かが叫んでいるけれど、べっとりしたもので塞がれてしまったようで、聞こえない。
喉がヒリヒリするわ。
お腹から……ネトリとした物が迫り上がってくるのは何なのかしら。
あれ。
体が、浮かぶ?
誰かに抱きしめられているのかしら?
誰か……誰?
「さあ、最初に僕を喰らってくれ……。そして、この国を狩り尽くそう」
……喰らう?
何を?
この、チラチラと光る茶色を、喰らうの?
……喰らいたくなど、無いわ。
「嫌だわ」
ゴボリ、と喉から漏れ出た。
「僕は各国に散らばる魔物の……いや、君の為の生贄なんだ。僕は、その為に生かされてきたんだ」
「嫌だわ」
「……魔物、デュラハン。君であって、君を見付けられて良かった」
「嫌だわ」
「頼むよ。でなければ、惨たらしく殺される。早く」
「嫌だ……わ」
声が近いわ。
どうして必死な声なの。
頭も痛いし何だか口の中が苦いし、目の前の顔も姿も見えない。
私は……もしかして、飢えてるのかしら?
漂う匂いは、魅力的だけれど。
とても、美味しそうだけれど。
「私は……魔物じゃないし、貴方は生贄じゃ、無いわ」
お腹が空いたのかしら?食べなきゃいけない?分からないわ。
でも、正直、貴方を喰らう食欲なんて一生湧かないの。
「よく言った、デュバル嬢!!」
「止めろ!!」
誰かと誰かの声が、重なって。
首に、鋭い圧力が掛かって……落ちたかと思ったわ。
ごとりと。
あ、金属製の花瓶が落ちた。
「この、馬鹿姪!!だから、早く相談しろって!!」
「め、面目無いですわ……」
「あんたらも!!年頃の娘しか居ない邸宅に押しかけるなと!!」
「も、申し訳有りません……」
「と、言われても……」
その3時間後……家が軋むレベルで怒られてるのは、まあ、予想外だったわ……。
叔母様は滅茶苦茶お怒りです。




