軌跡を信じて
お読み頂き有難う御座います。
ネタバレになるのでタグに悩みますね。
ああ、可愛らしい顔が欲しい。
幼少から憧れるあの方が振り向いて、目映い笑顔を向けてくださるような。
透き通るような美貌が、欲しいの。
ふわふわの優しい色の髪や、深く煌めく美しい瞳。白薔薇のような肌が欲しい。
キュッと締まった流行りのドレスが似合う細い腰に、柔らかくしなやかな手足が欲しい。
祖父譲りの……毎朝仕度に梃子擦る櫛梳っても櫛梳っても固い黒い髪ではなく、酷薄な冷たさと評される水色の目ではなく。
幼少の黒歴史が現れてしまった地黒い肌ではなく。
骨太の肩の張った寸胴ではなく、結構張った骨盤に二の腕に脹脛ではなく……!!華奢な体が!!
いえ、贅沢は申しませんわ。
王宮で見た他のご令嬢のような、嫋やかで、透き通るような美貌だけでも、欲しいの!!
そう願いました!強く強く!色々捻り潰して強く強く願いましたわ!肉食メインのお食事も止めて、苦手なお魚やお野菜を多めに摂り気を遣いましたしね!
肌に透明感が出ると言う流行りの化粧水も、せっせと塗りました。夜更かし気味な生活も見直し……たら、余計目が冴えて昼間に寝る羽目になりましたけれど。あれからどうも夜型生活気味に……なりつつありますけれど。
ですが!それ以外は順調に、そして今流行りの恋愛小説通り……黒い列なり星の砂糖を7つ溶かした薬草茶を毎晩飲んで、祈りました。
夜が白むまで、心を込めて。きっと、きっと……美しくなる日が来ると信じて。
そしてあの方が私に目を止めてくださる日々が来ると……。
来ると……。中々来なかったのですわ。でも頑張りましたの。
だけど……だけれどね。
「おおおおおお嬢様のお顔が!!お顔があああああ!!」
メイドのモニーが取り乱して叫ぶような、こんな事態は望んでいないのですわ。
「お嬢様の、お嬢様のおおおお!!」
「失礼致します!!
モニー、何だ何があった!!何だってーーー!?」
駆け付けてきた執事達の……仕付けられた彼らも叫ぶような大騒ぎは望んでいなかったのです。
「お嬢様のお顔と言うか、頭が無いーーー!!」
「有るわよ!!」
何と言うことでしょう。
メイドによく磨かれた鏡に映る私の顔は……と言うか、首から上は。
壁に作り付けの鏡に映る私の顔は綺麗に透き通り……肩から上の部屋のがクリアに見えて……しまいましたの。
クリアな透明素肌(物理)な令嬢の話です。
顔はあります。