表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雇われた花嫁  作者: 刀洞 やや
13/15

ウィンターフェスティバル


 翌日、アナベルはいつも通り、家を出た。ウィリアムは居ないが、彼の何番目かの秘書が車をまわしてくれた。大企業の社長には、信じられないくらい有能な秘書が信じられないくらい沢山居る。

 アナベルは沈んだ気分で出社し、仕事をこなした。ニコラが嫌味をいってきたが、無視していた。ミラが心配そうなのが申し訳なかった。

 その晩、パーティがあり、ウィリアムがアナベルを迎えに来た。


 パーティ会場はエスチュアリー社所有のホールだった。クリスマスパーティ、正確には(ウィンター)祭り(フェスティバル)は。

 会社のパーティで、出席者は幹部から、本社の平社員までだ。一度では全員がはいれないので、二度に分けて行う。

 アナベルはウィリアムと一緒に居るのが気まずくて、社員達の間を、飲みものを持ってまわっていた。誰も、アナベルがそういうことをするのに、疑問を持たない。社長夫人だと気付いていない者もあった。

 会場には大きなクリスマスツリーが飾られ、その下にウィリアムが居るのが見えた。やどりぎがある。

 そこへ、メラニーが近付いていった。いったいどうやってはいりこんだのか、彼女はドレスアップして、ますます女神じみている。

 アナベルはそれをぼんやり見ていたが、声をかけられて我に返った。「アナベル?」

「ミラ……」

 ミラと、倉庫整理の同僚達がやってきた。みんな着飾って、楽しそうだったが、アナベルの顔を見ると表情が曇った。

「アナベル、どうしたの?」

「どうもしないわ。元気よ」

「元気な顔じゃないわ」

 ミラは心配そうにアナベルの腕を軽く叩き、先程までアナベルが見ていたほうへ目を向けた。

 そこではメラニーがウィリアムの腕を掴み、なにかを訴えかけている。アナベルは自分がどうしたいのか、よくわからない。メラニーがウィリアムと復縁したいというのならそうするべきなのだろう。けれど、ウィリアムみたいに、傲慢なところはあっても傷付きやすいひとを、放っておけないという気持ちもある。メラニーが彼を傷付けないのなら……いえ、彼はメラニーを傷付けたんだわ……。

 ミラの表情がこわばった。


 そのまま、アナベルの腕をひっぱって、クリスマスツリーのほうへとひきずっていく。「ミラ?」

「あの女が来たからなのね? あなたの様子がおかしいのは?」

 あの女?

 ミラが突然、立ち停まった。ニコラが立ち塞がったのだ。「ひっこんでなさいよ、ばあさん」

「ミス・ホプキンス、そんな言葉遣いをしていると、親御さんが哀しむわよ」

 真っ正面から言葉遣いを指摘され、ニコラは一瞬反応できなかった。その間に、ミラはアナベルをひっぱって、ツリーへと歩く。ニコラが追い縋ってきた。「ちょっと!」

 アナベルはひきずられるだけだ。ミラがニコラを無視しているのを奇妙に感じる。

「だから、ウィリアム、わたし達……」

「無理だ、メラニー」

 アナベルは叫びだした気持ちにかられた。どうして? どうして彼女を突き放すの、ウィリアム? あなたはそんなに冷たいひとじゃないでしょう? あなたは傲慢なふうをしているけれど、本当は傷付きやすい、優しいひとだわ。

 それとも単に、流産はウィリアムにとっても重すぎて、直視できないのだろうか。だから、メラニーを拒絶するのだろうか。

 ニコラがミラの腕を掴み、ミラがアナベルを、ウィリアムのほうへ突き飛ばした。メラニーが口をぽかんと開けている。

 アナベルはウィリアムに抱きとめられ、はなれようとしたが、彼は片腕でアナベルをしっかりと抱いた。その目はメラニーを見詰めている。「僕にはもう、アナベルという最愛のひとが居る」

「ウィリアム、それは便宜上のことでしょう?」

「便宜上?」

「聴いてるのよ」

 メラニーは、わたしはわかっているわ、とでもいうように、数回頷く。「遺言書のこと。あなたは早急に、結婚する必要があったのよね?」

 ウィリアムが不快げに顔をしかめ、周囲からざわめきが聴こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ