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おおかみとにんげん

作者: 虹彩霊音


そのひはあめだった

もうれつにからだにおそいかかるみずのつぶは

あめというよりあらしだった

なげきさけぶようなそのひのよる

ちいさなにんげんのからだを

ただひたすらこうげきした

ちいさなにんげんはちいさなそのあしで

いそいでいえにかえるとちゅう

こやをみつけそこであまやどりをした


くらくなにもみえないそのばしょで、にんげんは

あめがやむのをまっていた


ドタ…ドタ…


そこでだれかがこやのなかにはいってくる

あらいいきづかいをきいたにんげんは

だれなんだろうとおもい

かすかにみえるりんかくをみつめた


トタ…トタ…


やわらかいあしおとがきこえる

どうやらじぶんとおなじにんげんが

こやにはいってきたらしい


「すごいあらしだね」


にんげんはそういった


「…せんちゃくがいましたか、これはしつれい

なにもみえなくて、きがつきませんでしたよ」


あらいいきづかいであいてはこたえる


「ぼくもいまここにきたところなんだ

こんなにざーざーふるとはね」


「おかげでからだはぬれてさむいしさんざんですよ」


あいてはおおきくしんこきゅうをしたあと

ドシンとすわった

それはにんげんにしてはおもおもしいおとだった

ということは…



あいてはにんげんではなく、おおかみだった

するどいきばをもちにんげんをくらうおおかみだ


「きてくれてなんだかあんしんしたよ」


にんげんはあいてがおおかみだとはみじんも

おもっていないようだ


「まぁ、わたしもこのくらいこやのなか

ひとりぼっちじゃくるしくなるでしょうよ」


どうやらおおかみのほうもあいてがにんげんだとは

きづいていない


「…いててて」


「どうしたの?」


「いや、ちょっとあしをやっちゃってね」


「それはたいへんだ、こっちにあしをのばすと

いいよ」


「それじゃあ、ちょっとしつれいして…」


おおかみがのばしたあしがにんげんのおしりに

あたる


「あれ?くつにしてはやわらかいな」


とおもったが、あたったのはひざだとかんがえる


「ハッ…ハッ…ハッグジュンッ!!」


おおかみはとつぜんおおきなくしゃみをした


「だいじょうぶ?」


「…どうやらかるいかぜをひいてしまったようです

それに…ぜんぜんあたりがみえませんね」


「ぼくもみえないよ」


「それなら、おたがいこえだけしかわからないと」


「ほんとうだ」


たがいにわらいあった

おおかみのわらいごえをきいたにんげんは


「にんげんにしてはひくいこえじゃない」


といおうとしたが、とっさにくちをとじる


「まるでにんげんみたいなわらいかたですね」


といおうとしたおおかみだが、きずつけるとおもい

やめることにした


かぜがほえ、あめがなる


「どこにすんでるの?」


「えー…ひとざとちかくのすこししげみがはえてる

やまみちですよ」


「え!?あそこはきけんじゃない?」


「ん〜、まぁどうぶつがでたりするけどそれなりに

くらしてはいけますよ」


やまみちとはさいきんひとぐいおおかみがでるばしょ

である


「へー、ゆうかんなんだねぇ。ぼくはそのやま

みちのふもとですんでるよ」


「それはうらやましい、そこはおいしいたべものが

たくさんあるじゃないですか」


おいしいたべものとはにんげんのことである


「まぁ、ふつうだよ」



ぐぅ〜〜



とつじょふたりのおなかがなった


「そういえば、おなかへりましたね」


「ほんと、ぼくおなかぺこぺこだよ。はやくかえってごはんたべたい」


「こんなときおいしいごはんがちかくにあったら

いいんですがねぇ」


「わかるわかる、ぼくもおなじことかんごえてた」


「あー、いまごろやまみちをくだってごはんを

たべてたんだろうなぁ、あそこにあるごはんはかくべつなんですよねぇ」


「うん、においもいいし」


「やわらかいのもあればかたいのもあって

はごたえもよくて…」


「ほんと、たべたらなかなかくちがふさがらない」


「おもいだしただけでもよだれが…」


「おもいきりたべたいなぁ」


そこでふたりはどうじにしゃべる


「「あのおいしい…」」


「いえのごはん」


「にんげんのにく」


ゴロゴロとうなるかみなりに、ふたりのこえは

かきけされてしまった



「そういえば、むかしはわたしはあまりごはんをたべなくてね、いまではたくさんたべるんです

どうしていままでたくさんたべなかったんだろうと

じぶんにききたくなるくらいに」


「あ、ぼくもだよ。すききらいしないでちゃんと

たべなさいって」


「わたしたちほんとににてるところがおおいですねぇ」


「ほんと、おたがいのかおがみえないけど

じつはかおもそっくりだったりして」




そのしゅんかん、こやのちかくにかみなりがおちた

こやのなかはまるでひるのようだった


「…あ、いましたむいちゃったんだけどぼくのかお

みえた?」


「それがまぶしくてめをつむっちゃったらしいです

もうすぐよるがあけますからそのときわかりますよ」



ガラガラドガシャーン



とてつもないかみなりのおとがふたりをこやごと

ふるわせる

おもわずふたりはからだをよせあった


「あっ、ごめん、ぼくこのおとがきらいでさ」


「わたしもですよ、あーびっくりした」


「なんかぼくたちほんとににてるよね。

こんどてんきがいいひにごはんたべにいかない?」


「それはいいですねぇ、きょうはあらしでさいあくなひだとはおもっていましたが、あなたにあえて

さいこうのひになったかもしれません」


「あ、あらしやんだみたい」


くものきれまからわずかなひかりがぽつぽつでてくる


「それじゃあ、さっそくあしたはどう?」


「いいですね、じかんはたいようがちょうどまうえに

きたときにしましょう。ばしょはこのこやでどうですかね?」


「きまり、でもおたがいのかおみえてないから

わからないよね」


「じゃあわたしが"あのあらしのよるにあったものです"とでもいいましょうか」


「"あらしのよる"だけでわかるよ」


「じゃあ、あいことばは"あらしのよる"ってことですね」


「きをつけて、あらしのよるで」


「さようなら、あらしのよるで」


さっきまでそらをおおっていたはいいろのくもが

きれいさっぱりきえていた

ゆっくりとだいだいいろにそまるそらのした

せいはんたいのほうこうへとあるいていく

ふたつのかげ


そのひ、なにがおこるのか

それはふたりをながめたつきも

ふたりをのぞいたほしたちも

かおをだしたあさひにも

わかるはずがない




そらはあおいろ、どこまでもあおいろ

ちょうははねをぱたぱたとうごかし

はなははなうたをうたっておどっている

あのひのあらしがまぼろしだったのかと

おもえるほどのおだやかなせかいに

わらいごえをたてるふたつのかげ


「わー、びっくりしたよ。きみがおおかみだった

なんてね」


「ええ、わたしもですよ。まさかあいてがにんげん

とはしらぬままずっとはなしてたんですから」


ふたりはゆうべのあらしのよるに

しりあったらしい

それも、なにもみえないこやのなかで


「おおかみってひとのことばはなせたんだね」


「いや、わたしがとくべつなだけですよ」


おおかみはかるくわらった


「ぼくずっとおおかみはこわいどうぶつだって

おもってたんだけど、まさかそのおおかみと

ごはんをたべるやくそくをしたなんてね」


「わたしもそうですよ、ごはんといっしょにごはんをたべるみたいなものでしょう」


「まぁ、きみがぼくをたべるつもりならあのひぼくは

とっくにきみのおなかのなかにいただろうね」


「そうですね、あなたはにんげんですがたべないことにしましょう、これもなにかのえんですから

たいせつにしないと」


ふたりはやまみちをのぼった、やまのいただきで

おべんとうをたべようという


「…ぷくくく」


とつぜんにんげんがわらいだす


「なにがおかしいのです?」


「いやさっきこやのまえでまっていたときのこと」


「ああ、やくそくのばしょですからね」


「きみにうしろから"あらしのよる"っていわれて」


「そうそう、あのときはくらくてかおもわかりませんでしたからあいことばをきめたんですよね」


「そこでぼくもおなじように"あらしのよる"って

こたえてふりむいた」


「おたがいかおをみあわせて」


「そのときのきみのかおはわらえたよ」


「おたがいめがまんまるでしたよねぇ」


ふたりはまたたのしそうにわらう


「…あれ」


「どうしたの」


「…あぁ、どうやらおべんとうをわすれてしまった

ようです。まぁいちにいくらいなにもくわなくても

へいきですよ」


そうおおかみはいったが、ほんとうはもう

おなかがぺこぺこなのである


おおかみのめのまえににんげんがいる


「あ…、うまそう…」


そうおもったおおかみはおもわずつばをのんだ

けれどすぐさまあたまをプルプルとふった


「じぶんはなんてやつだ、いっしゅんでもこのにんげんをうまそうだとおもうなんて」


そうつぶやくとじぶんのあたまをポカポカたたいた

それからおおかみはしたをむいてあるいた


「ほら、ついたよ」


にこにこわらうにんげんを、おおかみはあさひをみあげるようにかおをあげる


「あっ、ほらあそこぼくがすんでるところだよ」


「ほんとうだ、わたしよくあそこに…」


ごはんをたべにいくといいかけて、おおかみは

はっとしてくちをふさぐ

ごはんとはにんげんのことだからである


「じゃあさっそくおべんとうを…あっ、そういえば

おいてきちゃったんだっけ」


「そうですね」


おおかみはにんげんをみないようにする


「ならぼくのおべんとうを…あぁ、きょうにかぎって

おにくはいってないや、やっぱりおにくじゃないと

だめだったりする?おべんとうのなかみは…にんげんのおにく……?」


「と、とんでもない。わたしはにんげんのにくなんて

たべませんよ、すっぱくてたべられたもんじゃありません」


そういったおおかみだが、いちばんのこうぶつは

にんげんのにくなのである


「わたしのことはきにせずたべてくださいな

わたしはひるねでもしていますから」


おなかがすいて、ねむれるわけがない


「きれいなけしきをみながらたべるおべんとうは

さいこうだなぁ、あ、もうねちゃったんだ」


にんげんのことばがおおかみのはいごからきこえる


「おべんとうならわたしのうしろにあるんですがねぇ」


そうおもいながらおおかみは、めをつむった


「ふー、たべたらねむくなっちゃった。ぼくも

おひるねしよーっと」


にんげんはおおかみのとなりでよこになる

おおかみはおきあがるとねむっているにんげんを

みつめた


「わるくないやつだとはおもうんですがねぇ…

たべてもわるくないけど。いっしょにいると

たのしいんですよねぇ…おいしいけど。

あぁ、もうおなかがすいて…」


おおかみはおおきくくちをあける


「でも…いままでのにんげんもそうだし

やっぱりいたいんだろうなぁ…」


おおかみはふかいためいきをつく


「…ぷぷぷ、やめてよくすぐったいじゃんか」


にんげんがめをさました


「ぼく、くすぐりにはよわくてね。あー、めがさめちゃったし、そろそろいこうか」


「え?えぇ…」


そうこたえるおおかみのめをみたにんげんは


「めがひかってる…やっぱりぼくのこと…」


そうおもったにんげんはくびをふる


「ぼくはなんてやつだ、いっしゅんでもおおかみを

うたがうなんて」


にんげんはじぶんのあたまをぽかぽかたたいた


ふたりがやまみちをおりていると

そらがきゅうにくらくなる


「あめでもふりそうだね」


「まぁ、ふってもかるいあめでしょう」


「あれ、いまなんかひからなかった?」


「え?」



そらからおおきなおとがなる



ふたりはどうじにはしりだす

おおつぶのあめがふりだしふたりのからだを

ぬらしはじめる

ふたりはちかくにあったほらあなにみをとうじる


「こわいよー、こわいよー、かみなりはきらいだよー」


「まぁ、すきにはなれませんよね」


きづけばふたりはだきあっていた

おおかみのあたまのなかがにんげんのことで

いっぱいになる

ぐうぐうぐうぐう、おなかがなる


おおきなおとがなる

にんげんがおどろく

だきしめる

おなかがなる


なんかいくりかえしたことだろう



やがてくろいくもがさり、かがやくゆうひが

みえはじめたそのとき


にんげんのさけびごえがひびいた


にんげんのうめきごえ

おおかみのあしおと


おおかみがほらあなからすがたをあらわす


「やれやれ、まさかあしをひねるなんて」


にんげんがおおかみにせおわれている


「わたしがいなかったらどうするんですか」


「ぼくまえからはしゃいではどこかきずつけて

いえにかえってたんだ、あぁ、もうすぐわかれみち

だからここでおろしていいよ、もうだいじょうぶ」


おおかみはなにもいわず、にんげんをおろす

ふたりがやまのふもとちかくについたころには

ゆうひがはんぶんしずんでいた


「それじゃあ、ばいばい」


てをふるにんげんをおおかみはずっとみていた

おなかがおおきくなる

すこしかえりかけたおおかみはたちどまって

ふりかえる

おなかがまたなった


「がまん…できない」


そういうとおおかみはいきなりにんげんにむかって

はしりだした

にんげんにおいついたおおかみはおおきくくちを

あけて…


しんこきゅうしていった


「だいじなことをわすれてましたよ」


「え?なんだっけ?」


「じれったいですねぇ…だから…」


おおかみはうつむいていった


「こんど、いつあえますか?」



ゆうひがふたつのかげをつくりだす

どこまでものびて、さいごにはひとつになった




くものきれまからたいようがかおをだす

たいようのひかりをみどりたちがはんしゃする


「ロン、どこにいくの?」


おおきなにんげんがちいさなにんげんにきいた


「え?えっと…やまのちかくに」


「え!?あそこはひとぐいおおかみがでるところ

じゃないか!」


「うん、でもともだちとやくそくしてて。

やぶるわけにもいかないじゃん」


「そっか、ゆだんしちゃだめだよ、あそこでおおかみのひるめしにされたやつがいるんだからね」


「わかってるよ、ポプじい」


おおきなにんげんのなまえはポプといった


「おまえのそういうところがしんぱいなんだ」


「はいはいきをつけるよ」


ロンはポプにてをふるとやまのほうへあるきだす

としうえのポプはむかしからロンをきにかけていた

ポプのしせんをかんじながらロンはあしをすすめる


そこにいたのはおおかみだった


「ごめん、まった?」


「わたしもいまきたところですよ」


「とちゅうでしりあいにあってさ、しんぱいされちゃった。あ、ぼくのなまえいってなかったね、ロンっていうんだ」


「へぇ、ロンというのですか。なんともすばらしい

なまえで。わたしは…………じゃくめつといいます」


「わぁ、いいなまえだね」


ふたりはたのしそうにわらう


「それでさ、そのひとがおおかみにきをつけろって

いうんだよ。いまそのおおかみにあってるのにね」


「ふふ、わたしもにんげんとともだちだなんて

いえるわけがありませんよ」


「ぼくたちだけのひみつだね」


「ええ、ひみつですね」


じゃくめつのからだがぷるぷるふるえた


「…おっと、すこしトイレにいきたくなってしまいました、しつれいしますよ」


じゃくめつがそこにあったしげみのなかにはいる


そのときだ、ポプがこちらにやってくるじゃないか


「ど、どうしたのポプ」


「いや、だいじなことをつたえわすれてたんだ。

じつは、おおかみのひるめしになったやつは

ちょうどおまえがたってるところにいたんだ。

ともだちをまつならしげみのなかにいなさい」


「わかったよ、そのとおりにするよ」


ポプがかえるのとじゃくめつがしげみからあらわれるのがどうじだった

どうやらなにもきがついていない

ロンはひといきつく


「いまね、すごくいいものをみつけましたよ」


「いいもの?」


「そこをすこしあるいたところにきれいなかわが

ながれてたんですよ。ちょっとのんでみたらからだに

ちからがわいてきて、しょくよくがわいて…」


にんげんのひとりふたりは…といいかけたじゃくめつはあわててくちをふさぐ


そのときロンはめをまるくした

じゃくめつのうしろからまたポプがやってくるすがたがみえたのだ


「ね、ねぇそのかわのみずいっしょにのみにいかない?」


あわててじゃくめつをさそう


「それじゃあ"よーい、どん"でいきますか」


「そう、だね。よーい、どん!!」


ロンのこえとともに、じゃくめつはいっきにしげみのなかにかけだした

ロンもおいかけようとした、そのとき


「ロン、そこにいちゃだめじゃないか」


ポプにみつかってしまった


「しげみにかくれてろっていったじゃないか

もしちかくにあのおおかみがいたらどうするんだ」


「い、いないよおおかみなんて」


「おまえのそういうところがしんぱいなんだ。

もしほんとうにおおかみがでてきたら

おまえはくいころされてしまうんだよ」


「う、うん。そのとおりだね…」


いまにもじゃくめつが「おそいじゃないですか」と

しげみからでてきやしないかはらはらする


「そうそう、しげみにかくれてろっていったけど

あそこのしょくぶつのにおいはとてもつよいから

にんげんのにおいもけしてくれるってことを

つたえにきたんだ」


「わかったわかった、そうするからポプも

きをつけてかえってね」


ロンがしげみにはいるのをみたポプはまんぞくして

きたみちをもどっていった


「おそいじゃないですか」


じゃくめつがもどってきた


「いやー、つめたくてとてもおいしかったですよ。

それでどうかしたんですか?ずっとまってましたよ」


「ごめん、しりあいにあっちゃって」


「しりあい?そういえばうまそ…いや、がたいのいいにんげんがいましたねぇ」


「そ、そのにんげんがぼくの…しりあい…」


といいかけたロンはいきをのむ

またポプがもどってきたのだ


「こっちきて!」


ロンはじゃくめつをしげみのなかにおしこんだ


「ロン、ちゃんとしげみにはいってるね。

おや、おともだちもいらっしゃったか」


ポプがそういったしゅんかん、たいようがくもでみえなくなり、あたりはうすぐらく、しげみのなかの

じゃくめつのすがたもぼんやりとしかみえない


「おれはロンのしりあいのポプっていいます」


「わ、わたしもロンのしりあいで…サムといいます」


いっしょうけんめいみをちぢめてのどをおさえる


「あ、だいじなことをおしえにきたんだ

むこうにあるかわのところであのおおかみがみずを

のんでいるのをみたんだ、おまえたちもきをつけるんだよ」


「わかった、ありがとうポプ」


「・・・いや、もしかしたらもうちかくにきてるのかもしれない、なんとなくだがおおかみのにおいが

するんだ。ロン、すこしようすをみてくれないか」


そういわれたロンはしかたなくしげみのはしにいく


「ふーっ、さっきからこのあたりをいったりきたり

しててね、おれもつかれちまいましたよ」


どっしりとみをおくポプのあしがじゃくめつの

めのまえにおかれる


じゃくめつのおなかがなる


そのおとをきいたロンはおもいだした


「…そういえば、あのかわのみずをさっきのんでたんだっけ」




「それにしても、ひどいやつらですよねぇ」


「え?」


せをむけるじゃくめつにポプはいう


「おおかみですよ、あいついつもおれらにんげんばかりくうじゃないですか」


「え、まぁ、おいしいからしかたないです」


「え?」


「いや、お、おおかみがひどくてしどいです」


「でしょう、いきるためとはいえにんげんをおそうときのあのかおといったら」


「それは、わたしもたべたいきもちでいっぱい

ですから…」


「は?」


「いや、くやしいきもちでいっぱいですよ」


「でしょう、よくみんなとはなすんですよ

あんなやつはくせいになっちまえって。

…ところでさっきからへんなおとがきこえるな」


へんなおととはじゃくめつのおなかのおとである


「そもそも、おれはおおかみがきらいなんだ。

くさいし、くちはきもいし、めはぶきみなほどおおきいし、おなじどうぶつとはおもえないよ」


それをきいたじゃくめつはたえきれず

ついにたちあがる


くちをおおきくひらき、するどいきばをきらめかせ

つめをむきだしにした


ロンはおもわずポプのまえにみをのりだす

それをみたじゃくめつは、ほえた

なきながらとおくへはしっていった


「うわーっ」


すぐちかくできこえたおおかみのこえに、ポプは

わきめもふらずにげだした


ポプがいなくなったのをかくにんしたロンは

じゃくめつをおいかけた


「・・・やはり、あなたたちからみたらわたしは

ひどいやつなんですね」


「そ、そんなことは…」


「いくらこうしてあっていても、どうしようもない」


「だからひみつなんじゃない」


「ひみつ?」


「うん」


「なんか…わるくないですね。ならわたしたちまた

あえるんですか?」


「もちろん」


「わたしがおおかみでも?」


「そっちこそ、ぼくがにんげんでも?」


「もちろんですよ、ひみつのともだちなんですから」


「…あ、もうすぐひがくれる」


「ほんとうだ、もうおわかれですね」


「さよなら、ひみつのともだち」


「さよならー」


あわいひかりをだすゆうひがふたりをてらす

そのしたでなんどもふりかえりながらやまへとかえる

じゃくめつをロンはいつまでもてをふって

みおくった



じゃくめつのすがたは、やまのなかにきえた





ゆうやけがだいだいいろのはをやさしくてらしている

そのなかロンはひとりであるいていた

やがてみちにはひとすじのせんがえがかれたように

なる


「あしたでしたっけね」


とおくからみていたじゃくめつがそういった

どうやらふたりのひみつのあいずのようだ


じゃくめつがきびすをかえすと、そこにはほかの

おおかみのむれがいた


「あしたはなにをくおうか」


「そういえば、ここらによくにんげんがくるらしいぞ」


「そうか、にんげんのにくはいちばんうまいから

みつけたらつかまえてくうか」


そんなこえにじゃくめつはけをさかだてた


「…お、おまえはじゃくめつじゃないか」


「おまえもにんげんくいにいくのか?」


「へっ、おまえにんげんのにくしかくってないもんな」


じゃくめつはなにもいえなかった

もうにんげんのにくはくっていなかった

にんげんがすきになったのだから


あくるひ、そらはくもひとつないてんきだった

おおかみたちはきばをむき、きばをひからせ

てんでんばらばらにちっていった


はやくロンにしらせなくては

じゃくめつのあたまにはそれしかなかった

はやあしでじめんをかける


「ロン!たいへんですよ」


「あぁ、じゃくめつ。どうしたのそんなに…」


じゃくめつはてばやくわけをはなし、あたりを

みまわす

だれもいないことをかくにんしたあと、あいずをする

そしてふたりはすこしずつやまをおりていった


「もうだいじょうぶです」


「ありがとう、またこんどね」


あしはやにやまをおりていくロンをみおくるじゃくめつは、おおきくしんこきゅうをした


しかし、なにごともなくおわったわけではなかった


やまのふもとのひとざとに、ぼろぼろのにんげんが

もどってきた


「どこでやられた?」


「あそこのやまだよ、たくさんのおおかみが

いっせいにおそいかかってきて。

しぬかとおもったよ、ほかにもなんにんかいたみたいだけど、いきてるかどうか…

あ、そうだ」


そのにんけんはきゅうにこえをひそめる


「にげてるとちゅうでやばいものをみちゃったんだ」


「なんだ?」


「にんげんとおおかみがならんでいっしょにあるいていたんだ」


「なんだと!?」


「それもそいつはロンときた、まるでなかのいい

ともだちみたいだったよ」


「このごろよくひとりで出かけるとはおもっていたんだが、とにかくほっておくわけにはいかない」



このはなしはすぐにひとざとじゅうにひろがった



「どういうことだ、ロン。よりによってあのひとぐいおおかみとなかよくあるいていたなんて。

せつめいしてもらおうか」


みんなにせまられたロンはついにそのくちをひらいた



「いや…だまってたのはわるかったよ。でも、すごくいいやつで…」


「おおかみがいいやつだと!?おまえばかか!?」


「みつけたらたちまちおれらをくうやつだぞ」


「そ、そうだけど…」


そこで、としよりのにんげんがいう


「ロン。やつらからみたらおまえはただのえさなんだ

いつでもよびだせるえさはべんりなひじょうしょくだ

いや、それだけじゃないぞ。

もし、やつらがにんげんにたいするけいかいしんが

きえてしまったらどうするんだ。

わしらはおてごろなえさになっちまうんだぞ。

ひとりひとりおびきだすことだってできる」


「おまえはぶたやうしとともだちになれるか?

えさはどうみたってえさなんだ」


「ロン、おまえはうまれたときからいるわたしたちと

しりあったばかりのともだちと、どっちがだいじなんだ?」


どれだけみんなにせめられたのだろう

ロンはひとざとからでられなくなってしまった

いつもみんながみはっているせいだ


「・・・たしかに、みんなのいってることは

まちがっていない。そういえばまえにポプを

たべようとしたんだっけ。もしかして、やまに

はいったにんげんをなんにんも…?

やっぱぼくをだましているの?」


そうロンがかんがえていると、としよりのにんげんが

きた


「ロン、もういちどそのおおかみとあってみないか」


「えぇ!?」


「もし、やつらがおまえをりようするのであれば

ぎゃくにこっちがりようするんだ。

やつらのいるばしょ、かず、にがてなもの、いろいろききだすんだ」


「…わかった、やってみる」



じゃくめつのほうはやはり、おおかみたちに

かこまれていた


「おまえにんげんとともだちだって!?」


「おまえしょうきなのか!!」


ひとざとちかくにいたおおかみのみみにあのうわさが

はいり、そのはなしでみんなもちきりになったのだ


「だけど、あのにんげんけっこうおもしろくて」


「あのなぁ、にんげんはおれらのえさのひとつなんだぜ。そのえさとともだちになれるか?

みんなとともだちになったらおれらなにもくえなくなるぜ?」


「だから、あのにんげんだけでいいんだ」


「だが、たったひとりでもともだちになんてなっちまえばなんでもはなすだろ?おれらがどこにすんでるのか、どこにかりにいくのかすべてわかっちまうんだぞ」


じゃくめつがひとこというたびに、まわりがこえを

はりあげる


「もういいかげんめをさませよ、おまえも、おれらも

にんげんをくってるんだ。ほんきでともだちになれるとおもってるのか?」


「そりゃあ…」


そこに、かためをうしなったおおかみがまえにでて

いう


「…もういちど、そのにんげんとあってこい」


「な、なんで?」


「はんたいにむこうのうごきをききだすんだ。

おれたちもまいにちえさにこまらずにすむ。

ただし、ばかなことをかんがえてみろ。

むれもいないいっぴきおおかみのおまえを

ぼこぼこにするのなんてあさめしまえなんだからな」


「・・・わかった」


そのひのゆうがた、やまみちにいっぽんのせんがえがかれた。

もう、ひみつのあいずではなくなってしまったけれど



やくそくのとき、ひるどきのそのひはどこかじめりとしたくうきだった


「ごめん、おそくなった」


「いや、わたしもいまきましたよ」


ロンのかおのさきにはおおかみのかおがあった


「きょうは、どこにいこうか」


「むこうにかわがあるのですよ、そこにいってみますか」


「うん」


そろそろとあるくふたりをたくさんのどうぶつたちが

みつめていた、うわさをきいたどうぶつたちが

ふたりをとりかこむようにかくれている

ふたりがあるくたび、ザザッとおとがする


「おおかみがすみかをおしえているぞ」


「いや、おおかみがにんげんのすみかをきいて

にんげんがうなずいたんだ」


などとこえがきこえる


ふたりはできるだけあんぜんなみちをとおった


やっとかわらについたとき、そらからおおつぶのあめがふってきた、かわいたいわはくろくそまり、すぐにどしゃぶりのあめになった


「…あそこであまやどりしましょう」


じゃくめつはいわのしたにむかっててをのばす


「きをつけてくださいよ、すべりやすくなってます

から」


「うん、かわになんてはいったらながされちゃう」


そのとき、くろいくものなか、いなずまがとどろいた

そのひょうしにロンがあしをすべらせる


「あぶない!」


とっさにじゃくめつはロンのふくをくわえる


「ぐぐ…」


りっぱなあしでロンをささえ、やっとのおもいで

はんたいがわへほおりなげる

ロンはぼすっとしりもちをついた


かわはごうごうといきおいをましている

そのかわのむこうにきしがみえた

ふたりはめをあわせる


「それじゃ、わたりましょうか」


「ぜったいにいきてあおうね」


ふたりはうなづき、どうじにいわをける



まわりにいたどうぶつたちがさいごにみたのは

あめのなかちいさくあがる、みずしぶきだけだった









ほしがよぞらをうめるしたに、いきおいよくながれるかわがある

かわのなかからはいでてきたのは、じゃくめつ


「…いき…てる」


ぬれたからだにかぜがはしるたびに、じゃくめつは

ぶるぶるとからだをふるわせる

じゃくめつはあたりをみまわした


「まさか…このかわにのまれたまま…?

あぁ…こんなことになるのなら、わたしはあのにんげんとあわなければよかったのだろうか?」


そうつぶやいたとき、うしろからこえがした


「ぼくはであえてよかったよ」


「ロン!いきてましたか!」


じゃくめつはうしろをふりむいていう


「あぁ…もうあえないのかと…」


「うん、ほんとによかった」


ふたりはよりそい、なんども"よかった"をくりかえし

ふかいふかいねむりにおちた


"よかった"のはそのよるだけだった



ふたりがあるくところすべてが、かぜもないのにかさかさとおとがなる

どうぶつたちがかくれてこちらをのぞいている

じゃくめつはそのこえをそっときく、するとおそろしいことがわかった


それはおおかみのむれがじゃくめつをやつざきにするためにここらをさがしまわっている、にんげんはそのときのごちそうだ、と



「…わたしは、もうすぐおおかみたちにのどぶえをかまれてころされるでしょう、いくらわたしでも、ひとりじゃたちうちできませんし…あなただけでも

いきてくれればいいのですが」


それをきいたロンはしんけんなかおをしていった


「…にげよう」


「にげる?」


「うん、ほらあそこにおおきなやまがみえる」


ロンはとおくにあるあおいやまをゆびさした

てっぺんがまっしろになっているやまを


「きっと、あのやまをこえればまたふかふかなせかいがあるよ」


「・・・そうですね」



ふたりはどんなところかもわからない、みちなるばしょへとあるきはじめる、ほかのだれにもみつからないように、やみのなかをすすむ

どうやらおおかみたちにはきづかれていない


ふたりはいつもいっしょにいた

ふたりもそれがたのしかった

けれど、じゃくめつにはひとつだけくるしいことが

あった

はらがへったとき、つねににんげんがちかくにいる

のだ

うまそうなにおいがかってにはなからはいってくる

ロンもひとつだけいやなことがあった

ロンがねているとき、じゃくめつはそっとでかけていくことだ、そしてかえってくるころにはくちまわりがあかくそまっていた

おそらくちいさないきものをくっているんだろう

そうしなくてはいきていけないこと

きをつかってそっとでていくこと

わかってはいた、だけどすきにはなれなかった



きょうもそっともどってきた

やはり、くちまわりがあかくなっている

それをみたロンはとうとうきいてしまった


「きょうはなんびきころしたの?」


そのことばにじゃくめつはかおをしかめる


「わたしだってあなたを…」


たべずにがまんしている、そういおうとしたときだ



「おい、やつらをみたっていうのはここらへんか」


「とりをつかまえてききだしたんだからまちがいない

もっとよくさがせ」


ふたりはいきをころした、さいわいにもあたりのくさはぼうぼうで、かざしもだった

ふたりのすがたはよくみえないし、においもわからないだろう

おおかみのかずもふえて、ついにそのなかのにひきがこちらにくる

ふせるふたりのめさきには、おおかみのあし


「おい!ここに…」


いっぴきのおおかみがさけぶ

ふたりのしんぞうがとびでそうになる



「きれいなはながさいてるぜ」


「ほんとうだ、ふまないようにしないとな」


おおかみたちがとおざかっていく

ふたりはおおきいためいきをついた


「…はながすきなおおかみもいるんだね」


「あたりまえでしょう」


「えっと…さっきはごめん」


そのことばにじゃくめつはめをほそめてわらった







やっとのおもいでやまのふもとまでたどりつく

みあげればおもっていたよりたかくそびえたつやま

こいくもがかかっている、あのなかはふぶきであろうか


ふたりはすこしだけこわいとおもいながらもよるをむかえる

ところがじゃくめつのようすがおかしい

ロンをまっすぐみようとはせず、こういった


「へんなゆめをみてしまいましたよ」


「どんなゆめ?」


「…にんげんのにくをおもいきり、がつがつとたべてるゆめでした、おいしいおいしいと、ゆめのなかの

わたしはいっていました」


「え………」


「めざめたとき、おもったんです。これいじょうあなたといっしょにいたら、わたしはあなたになにをしでかすのでしょう、と」


じゃくめつのひとみがいっしゅんぎらりとひかったきがした、くちからはよだれがドバドバとでている


「…こんなことをいうのもあれですが、どこかに

いってくれないでしょうか。まだわたしがじがを

たもっているあいだに…」


「・・・・・わ、わかったよ。ぼくもごはんになるのはいやだから」


そういったロンはそのばからあるいていった



「…いってしまった、だがこれでよかったのです。

ぜんもんのふぶき、こうもんのおおかみ

こんなのわたしだけでじゅうぶんだ。

あのにんげんは…いえにかえるべきなんだ…」



「かえらないよ〜」



きづけばうしろにロンがいた


「こんなことだろうとおもったよ!だからでていくふりをしたんだ」


ロンはおこっている


「ぼくだってね、なまはんかなきもちできみのそばにいるわけじゃないからね!なんでもはなせるのが

ともだちなんじゃないの?」


「いや、その、あの…」


「うるさいな!ぼくのことしんじてないからあんなへたくそなしばいしたんでしょ?」


「す…すみません」


じゃくめつのこえがなさけなくきこえる


「だけど…きもちはうれしかったよ」


「いや、わたしがわるかったです。まさかごちそうにしかられるなんて…おっと」


「…ほんと、ぼくたちへんだよね」


ふたりはたのしそうにわらった





あさになった、ふたりはやまをのぼる


「ここからさきはきのみがあるきがぜんぜんはえてないな…いまのうちにたべておかないと」


じゃくめつはすでにすがたをけしていた

ロンはえさをつかまえにいったとかんがえたけれど

もうきにはならなかった



たしかにのぼればのぼるほど、みどりはすくなくなっていき、かわりにいわばかりふえていく

だがほかのどうぶつにであうしんぱいもないだろう

どれくらいのぼっただろうか、しばらくすると

むこうにうすいみどりいろのへいげんがみえた


ちかくにあったいわにこしをおろす

やがて、そらがあかいろにひろがった


「…おや、あそこにあるのはひとざとじゃないですか?」


「うん、ちかくにきみがいたやまもある」


「にんげんがやまにはいるたび、おおかみにたべられて…そんなにんげんもかちくをたべて…

みんなたいへんですねぇ」


「やっぱりきみはおかしいよ、おおかみのくせに

ひとのことばしゃべってにんげんのぼくとこんなはなししてさ」


「まぁ、あなたがきにいりましたからね」


「へぇ、ぼくのおいしそうなとこが?」


「こら、そんなこというのならかじりますよ」


「かじったらもうおはなしできなくなっちゃうよ〜」


「それはこまりますねぇ、まぁあなたをたべるよりも…はなすほうがたのしいですしね」


「ぼくはきみのそういうところがすきだよ」


「わたしたちほんとににてますねぇ」


やまのふもとにおおかみのむれがある

しかし、どちらもなにもいわなかった



やがてひはすっかりくれ、よるがおりてくる


「ロン、そらをみてくださいよ」


「わーっ、すごいまんまるおつきさまだ」


「これはきれいなつきですねぇ。いままででいちばん

きれいですわ」


しばらくすると、じゃくめつはすこしかなしそうな

かおをした


「…つきのひかりって、あったかいですよね」


「うん、みてるといやなことわすれられるよ」


「あなたとみられてさいこうのよるですよ。

ですが…つきをみてると、なんかせつないきもちにも

なりますわ」


「どうして?」


「つきをみるたび、なにかをわすれてるんじゃないかっておもうんです。とってもだいじなきおくが

おくそこにねむってるきがするんです。

つきだけでなく、ほしをみても、たいようをみても

どうように。わたしは…ほんとうにおおかみなのかとじぶんにといかけたくなる、もしかしたらほんとうはちがうものだったのではないか、と」


「そう…なんだ」


「・・・まぁ、おもいだせないならしかたない。

いまあなたとすごしているじかんをたのしみましょう

ここをこえたら、きっとありますよね、たくさんの

みどりが」


「うん、そこにいけたらたのしいだろうな、もちろんきみもいっしょにね」


ふたりはやまのむこうのふうけいをこころにえがいて、しずかにねむりにつく




ふたりがやまをのぼるにつれて、くもがひくくなる

ふってきたのはつめたいわたあめだった

このさきにまちぶせるのがふぶきであろうと

いまさらひきかえすわけにはいかない

おおかみたちもいつここにくるのかわからないから

きづけば、あたりいちめんまっしろだった


「あしたははれますよね」


「うん、いいてんきになるよ」


いてついたくうきがロンのからだをこおらせる


「う…うぅ…」


とうとうロンがくずれおちた、にんげんはどうぶつにくらべてさむさによわいのだ


「ロン!!」


じゃくめつはまえあしでゆきをほり、あなをつくる

そのなかにロンをひきずりこむ


「ロン、おねがいだからしなないで、わたしをひとりにしないでくださいよ」


もうふのように、ロンにおおいかぶさりあたためる


しばらくしてやっとロンはめをあけた


「あ…あぁ…」


「ああ、よかった。めをあけてくれましたね…

うっ」


そのとき、じゃくめつのおなかがさけんだ

そういえば、さいごにごはんをたべたのはいつだろう


「どうしたの?」


「い、いえなにも。このふぶきさえやめばどうってことはないです」


だが、ふぶきはやまなかった。やむどころかひにひに

ちからをまして、うなっている

じゃくめつのおなかがさけび、わめく

どれくらいたべものをくちにしていないのだろう

このまま、やまないふぶきのなかうえじにしてしまうのだろうか、このすいじゃくしたからだでは

あすのあさもむかえられるかさえわからない

ロンをみつめていたじゃくめつはくびをふる

それをみたロンはいった


「いまぼくがごはんにみえたでしょ」


「そ、そんなことあるわけないでしょう」


ずぼしだった

だが、ロンはつづけた


「いいんだよ、こんなさむさじゃぼくはいきていけないし、きみはつよいから。だからじゃくめつ、ぼくのぶんまでいきてほしいんだ」


「なにいってるんですか、さむさでついにあたまパッパラパーになりましたか」


「ぼくは、きみにであえてよかった。いのちをかけてもかまわないとおもえたんだ」


それをきいたじゃくめつのひとみからひとつぶ、こおったなみだがながれおちた


「だから、じゃくめつはたくさんごはんをたべて

このやまをこえなきゃ」


「ごはんなんてどこにあるんですか」


「ここにあるじゃない」


「・・・」


じゃくめつのくちびるがきゅっ、としまる


「もしも…あのときぼくがにんげんだとわかってたら?」


「…たべてましたね」


「そう、それでいいんだ。そのときのつもりになれば…」


「べつに、もうわたしはうえじにしようがなんだろうがどうでもいいんです、なんだろうと、もうおはなしができなくなってしまうのですから」


「それはぼくだっておなじだよ…だけどかんがえたんだ、いのちはおわりがくるけど、ぼくらがともだちだったってことはきえるわけじゃないでしょ?」


「・・・わかりました、そこまでいうのならやってみましょう。あなたののどぶえにかみついて、くつうをながびかせないようにします」


「きまり、じゃあね…じゃくめつ」


「さようなら、ロン」



じゃくめつはゆっくり、ゆきのあなをでた

よいやみのなかにうっすらとやまのてっぺんがみえる


「…いまさらロンをたべる?できるわけあるか

どこかにくえるもんないかなぁ…」


そんなことをぼやきながら、あるはずのないごはんをさがす

きづけば、やまのはんたいがわにきていた


したをみたじゃくめつはないしんあせる

ふぶきのなかれつをそろえてちいさなひかりがならんでのぼってくる

まぎれもなく、おおかみのめだった


「もう、こんなところまで…。いのちをかけてもいいともだち…か。そういえば、ロンいがいにもだれか

いたようなきがする。それがだれかはおもいだせないけれど…」


じゃくめつはめをとじ、おおきくいきをすいこむ




アオーーーーーーーーン




ふぶきのなか、おおかみのとおぼえがとどろいた

せんとうのおおかみがそれにきづき、おそいかかる

しかし、おおかみのうしろにはたいりょうにながれでるゆき、まるでおおかみにみちびかれるがごとく


…ゆきはおおかみたちをのみこんだ

ごうごうとゆきけむりがまう



おおかみのこえをきいたロンはあなからかおをだす

ふぶきがうそのようにやんでいた

そらにはきらきらとたいようがかがやいている

むこうにはきれいなみどりがみえる


「やっぱりふかふかなせかいはあったんだ!

はやくおいでよじゃくめつ〜!もうぼくらはやまを

こえてたんだよ〜!!」



ちいさなにんげんのさけびごえは、しばらくやまなかった





はるのひざしがゆきやまをてらす

まっしろなゆきのなかからひとりのおおかみが

はいでてきた


「…っ!」


ロンはそこでめをさました


「また、このゆめ…」


なんどおなじゆめをみただろう

ロンはよろよろとたちあがる


ロンはみどりがたくさんあるもりのなかひとりでくらしていた、ともだちだったおおかみとここにむかってきたはずなのに、たどりついたのはロンだけだった

おおかみをみたのはゆきのあなのなかですごしたあのじかんがさいごだった

はげしいふぶきのなか、いきるきりょくをうしなったロンはおおかみにむかって"じぶんをたべてほしい"と

たのんだのだ


「…あぁ、そうか。あんなことさえいわなければ

じゃくめつはあのあなからでなかったんだ。

わけあってもどれなくなって…」


なんどもじぶんをせめた、くやんだ


まわりにはきれいであざやかなみどりがひろがっている、だがロンにはそれがはいいろにみえた

そこに、おおかみがいないのだ


ロンはもりのなかをあるいていた

それをみたどうぶつたちがささやく


「あいつまだいきてるよ」


「ごはんちゃんとたべてるのかな」


「みないかおだけどどこからきたの?」


「このもりのことならなんでもきいておくれ」


「みずばにあんないしようか?」


しかし、ロンにはそのことばがりかいができなかった

あたまのなかにあるのはおおかみだけだった


ここでまっていればおおかみがくる

そうおもいつつも、はんぶんあきらめていた


「…おとうさんとおかあさん、しんぱいしてるのかな」


なかまとすごしたひびをなつかしくおもう

もちろんそのおもいでのほとんどはおおかみとの

おもいでだった

たのしいとおもえばおもうほど、いまがかなしくおもえてくる、すでになみだもかれはてていた


じかんがたつにつれて、ロンのからだはよわっていく



「たいへんだ、ここにおおかみがあらわれたらしいぞ」


「え?あのおそろしいおおかみが?」


りかいできないはずのどうぶつのこえをロンはふしぎとりかいした


(おおかみ…?まさか…じゃくめつが…?だけど

じゃくめつってかぎったわけじゃない、もしかしたらほかのおおかみかもしれない…だけどいきてるのかもしれない…)


ロンはすぐにおきあがり、はしる

あるはずのなかったちからをふりしぼる


(じゃくめつにあえるかもしれない)


それだけでからだじゅうにちからがわいてくる

ほんのすこしだけのきぼうでもいきていたいとおもえる、とても、とてもすばらしい





そこにはおおかみがいた、そのおおかみはゆきにのまれはじきとばされたが、いきていた


「なぜ…こんなところに」


あたりをみまわし、おおかみはあしをひきずりながら

やまをおりる


おおかみのからだはズタズタだった

からだのいたるところからけがぬけた

おおかみはとにかくえさをくった

たべられるものならなんでもくった

そうやって、いきることにしがみついた


おおかみはかりをしながらてんてんとわたりあるいた

めはよりするどくなり、からだからほねがうきでている

しかしなだれがあたえたくるしみはからだだけではなくこころもくるしめていた

じぶんがだれなのか、だれとどうしてあのやまにきたのか、まったくきおくにのこっていない

ただひとつおぼえているのは、にんげんのことだった


(…にんげんがくいたい)


そうおもったあかつきには、おおかみはにんげんを、いやにんげんのにくをさがすようになった


あるひ、おおかみのみみに、にんげんがもりのなかにすんでいるといううわさがはいる


「…こんやはまんげつか、そのよるにごちそうとして

くうか」





ロンはちいさなかげをみつけた


「おおかみだ」


ロンはめをこらす


「あのからだ、あるきかた、あぁ…いきていたんだ

じゃくめつがいきていたんだ…」


ロンはそのばではらのそこからこえをだす



じゃくめつーーーーーー!!!!



そうして、おおかみにむかってまっしぐら


おおかみはロンをみつけて、したなめずりをする


「…こっちにむかってくる、にがすものか」




ガツン






おおかみがにんげんのからだをひきずって

ちいさなどうくつのなかにはこんでいる


「…うぅ」


ロンがようやくきがついた

どうやらおおかみのいちげきできをうしなったらしい

どうくつのいりぐちにはおおかみがすわっている


「なにしてるの?」


「えさがにげないようにいりぐちをふさいでる」


「えさ?それって…ぼくのこと?」


「ほかになにがあるんだ」


ふりむくおおかみのかおをみて、ロンはおもわず

めをみひらいた、まえよりもっとかおがけわしくなっていたのだ、まるでべつのおおかみだった

しかし、まちがえるはずがない


「ぼくだよ!ロンだよ!!」


「ロン?だれだかしらないが、おおかみのわたしに

ともだちなんているわけがない。どうかしてるんじゃないのか」


「ぼくをちゃんとみてよ!ほらひみつのともだちの…」


「しらない」


「え…」


「たしかに、わたしはじぶんがだれなのかすらおぼえていない。しかし、これだけはわかる。

おまえはうまそうだ」


ロンはあたまがまっしろになる


(せっかく、あえたのに)


「こんやはまんげつだ、それまでおまえはここで

きのみでもくってろ」


おおかみはそうはきすてた


ロンはどんなはなしをすればおおかみがじぶんを

おもいだしてくれるかをかんがえた


ひっしにロンはおおかみにはなしかける、しかし

はなせばはなすほどおおかみはしかめっつらをした


「うるさいな、つくりばなしはもうききあきた」


「ほんとうなんだよ!」


「だまれ、おまえはただのえさなんだ」


なにをいってもむだだった、いつしかおおかみは

へんじさえもしなくなった


とうとうロンははなしかけることをやめた


(あんなにあいたかったひとがこんなちかくにいる

かおもこえもあのときとかわらない…だけどもう

あのやさしいめでぼくをみてはくれない)


そうおもうと、しぜんとなみだがこぼれた


「…そんなにわたしにくわれるのがこわいか」


めずらしくおおかみからこえをかける


「ちがう、そんなりゆうじゃない」


そんなことをいっても、いみはないことはわかっていた



たいようがしずみ、こくいっこくとじかんがせまる

おおかみはロンをみてうきうきしている


「ここにくるまでたくさんつらいことがあった

だけど、たえられた、こわくなかった。

いつもじゃくめつがいてくれたから」


おおかみはゆっくりこちらにくる


「たとえたべられてもかまわなかった、おもいでのなかでもじゃくめつといっしょだったから」


おおかみのキバがギラリとひかる


「だけど、もうきみはいない」


ロンはめをつむり、いままでのことすべてをくやんだ


「こんなことになるのなら、"あらしのよる"きみと

であわなければよかった」



「・・・・・」


とつぜん、おおかみのうごきがとまる


「あらしの…よる」


おおかみのあたまのなかにそびえたつ、おもいとびらのカギをみつけたかのように、ぐるぐるとまわりはじめ、ついにそのとびらをあける



いままでのきおくがよみがえる



「・・・・・ロン」


おおかみはロンをまっすぐみつめた

そのひとみは、きらきらとすんでいた


「じゃくめつ!!」


もう、それだけでじゅうぶんだった



ふたりはちかくにあったおかにのぼった


「ほら、まんげつだよ。また、みられたね」


そのことばにおおかみはうなずいた


のぼるまんげつにふたりのかげがかさなった

つきのなかうつるそのかげはただのふたつのいきもののかげだった



おおかみはおかのしたにあったへいげんをみた

ちいさなむらがある



「…そろそろいきましょう」


「…うん」





「ねぇ、どこまでいくの?」


ロンはおおかみにきいた


「このさきにむらがあるのがみえました。

そこでねとまりさせてもらいましょう」


「させてもらえるかな?」


「ええ、きっと」



しばらくすると、おおかみはあるくのをやめた


「どうしたの?」


ロンがそうきいたとき、おおかみはとつぜんおおきくほえはじめた



アオーン!アオアオーーーン!!



「うわっ!」


ロンはおもわずおどろいた


「・・・・・ここで、さようならです」


「え?」


「ここで、おわかれです」


「ど、どうして?」


「わたしはもう…あなたのともだちではなく

いっぴきのおおかみとして、よわねばならなくなってしまった、かつてのわたしのいしきはもうろうと

しはじめている。そして、いまあなたをくおうと

わたしのいしにあらがっているのです」


「い、いやだよ!そんなのいやだよ!!」


「…あなたはまだおさないこども、おとなになったらわたしのことはおぼえてはいないでしょう。

だから、わたしはあのひのなだれでしんだことに

しておいてください、もうけっしておもいださないでください、もうわたしにあおうとはおもわないで

ください、こんどあったとき、わたしはあなたのしっているわたしではないだろうから。いま、わたしの

こえにはんのうしてあのむらにすむにんげんが

こちらにきている、あのむらにすむことになったなら

さきほどのおかのてっぺんをみてください。

もういちど、わたしのすがたをみせましょう。

べつに、ほころうとだなんてはおもっていない、むしろわたしのおぞましいすがたをあなたにみせつけ

にどとわたしにあおうというきもちをおこさせない

ためだ」


おおかみがそういうと、ちかくのくさむらにもぐり

すがたをけした




「おい!あそこにこどもがいるぞ!」


ロンのまわりにすうにんのおとなのにんげんがくる


「ぼく、どうしてここにいるんだ?まいごか?」


「このぼろぼろのふくみろよ、おやにすてられたのかもしれないぜ」


「ぼうず、よかったらむらにこないか?まずふろに

はいらなきゃな」


ロンはそのことばにちいさくうなずいた

ほんとうは、うなずきたくなかったけれど




ロンはむらのにんげんのようしになることになった

いえのまどからあのおかをのぞく

いっぴきのおおかみがくさむらからでてまんげつをまえにすきとおったとおぼえをしたかとおもえば

くさむらのなかにふたたびおどりはいり、にどとそのすがたをみせなかった






おおかみがくさむらのなかをあるいている

するととおくからおんがくがきこえた


「・・・・・」


それをきいたおおかみはそのおんがくにむかって

はしりだした、わきめもふらず、ぜんりょくで



「・・・・・・ここは」



きづけばそこは、やまだった


「・・・」


ふたたび、あのおんがくがきこえてくる

それをきくたび、おおかみのからだがうずうずする


どこかできいたことのあるおんがく

じぶんがよくしっているおんがく


ひっしにきおくのひきだしをひっぱる


「・・・・・ねえ…さん?」


そうおおかみはつぶやいた

つぎにやまのうえからあたりをみまわす

すると、とおくにやしきがみえた

そこにはふたりのしょうじょがいた

おんがくをかなでていたのはそのふたりだった


それをみたおおかみのきおくがいっきに

ほりおこされる



「・・・・そうだ、私の名前は黄泉 寂滅。

狼じゃなくて、騒霊だ。だけど…どんな姿をしていた

のか、思い出せない。どうして狼になったのかが…

わからない」



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