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後日談。

前半はお兄様、後半は本編直後の図書館での二人です。


 アルバート・コックスは悶々としていた。


 王立騎士団に勤務するアルバートは、入団当初からメキメキと頭角を表し、品行方正で誠実な人柄とその実力を買われて二番隊の副隊長にまで昇り詰めた、優秀な若者である。

 しかし一方で、5つ年下の妹、シャーロットが関係すると途端に少々残念な男に成り下がるという事実は、まだ家族以外には知られていない。


 妹のシャーロットは先日、デビュタントの舞踏会を迎えた。12歳まで病弱で痩せ細っていたが、彼女の並々ならぬ努力の結果、蛹から蝶に変化するように、舞踏会では輝くばかりの美しさを見せ、会場の視線を攫っていった。そればかりではない。シャーロットは優しく、素直で、思いやりと気品のあるとても素晴らしい女性になった。どこに出しても恥ずかしくない立派なレディだ。だが。



 どこに出しても恥ずかしくはないが、こんなに早く縁談が決まってしまうとは……!



 表向き、シャーロットは舞踏会で公爵令息のテオドール・スタインフェルドに見染められ、婚約したということになっている。

 しかし、アルバートはあの日の二人を見ていた。あの親密な雰囲気は、どう考えても初めて会って出るものではない。シャーロットのためにと両親には黙っているが、アルバートは複雑だった。シャーロットが一人きりになるのは、図書館以外にはないはずなのだ。


 今日はシャーロットが王立図書館へ読書に行く日だ。そう、読書だ。おそらく。しかし。


 出かけるときに、婚約者として節度ある付き合いをするようにと声をかけるべきか迷ったが、逆に節度ある付き合いとは何かと問い返されそうで、何も言えずに出勤してしまった。

 やはり公爵家に釘を刺す手紙を出そうか、と考えた時、後ろから声がかかった。


「コックス副隊長!よろしいでしょうか!」


 振り返ったアルバートの恐ろしい形相を見て、自分は何かしでかしたのだろうか、と部下は冷や汗をかいた。






*******






 いつものように閉架書庫に向かう途中、シャーロットはテオドールに声をかけた。


「あの、テオドール様」


 するとテオドールは勢いよくこちらを振り向いた。顰めた眉。


「様?」


「え?」


「その呼び方は好かない」


「え」


 ではどのように呼べと言うのか。


「前と同じでいいだろう」


 シャーロットは戸惑う。前は司書だと思っていたからテオさん、なんて呼ばせてもらっていたが、そんなことが許される身分の方ではない。

 改めて、その身分の高さを実感する。なんだか、遠い存在になってしまったような気がして、寂しい。

 物思いに沈んでいるうちに、書庫に着いてしまった。シャーロットは薄く微笑んで、扉の内に入る。


「流石に、テオさんとお呼びするわけには参りません」


 テオドールが扉を閉めた。


「ここには僕たちしかいない」


 はっとして振り返ると、テオドールはシャーロットを見つめていた。


「テオと呼んで欲しい。いつものように」


 真剣な眼差しに、シャーロットは戸惑う。テオドールは美しい顔をしている。以前は前髪で少し隠れていたその美貌が今は曝け出されていて、シャーロットはなかなか真っ直ぐに見られない。


「……それでは、テオ様、とお呼びするのはいかがでしょう……?」


 少し考える素振りを見せたが、テオドールは頷いた。


「わかった。二人きりのときはそうしてくれ」


 その満足気な表情を見て、シャーロットは思わずくすりと笑った。成人男性を可愛いと思ったのは初めてだ。

 眉を上げてこちらを見るテオドール。


「何だ?」


「ふふ、なんだか、可愛らしく見えてしまって」


 テオドールは少し不機嫌そうな顔になり、シャーロットに一歩近づく。


 掴まれたのは、手首。

 次の瞬間くるりと回って、シャーロットの背には、壁。






「君のあのドレスの色は、どういう意味?」


 耳元で聞こえる囁きに、シャーロットは真っ赤になる。


「あれは……」


 舞踏会で着た、深い青のドレス。テオドールの瞳の色を纏って、守られているようで心強かった。だが、見られることはないと思っていたからこそ選んだのであって、今となってはその話題に触れられないことに安堵していたのに。


 見上げると、テオドールはニヤリと笑っていた。

 やっぱりこの人は、少し意地悪だ。


 シャーロットは心を決めて、テオドールを真っ直ぐに見た。


「あなたの瞳の色です。テオ様。……舞踏会で着たら、きっと守られてるようで心強いと思って選びました」




 テオドールは目を泳がせ、片手で顔を覆うと、明後日の方を向いてしまった。耳が赤い。


「そうか……光栄だよ」







 その後公爵家に一通の手紙が届いた。

 要約すると、婚約者として節度ある振る舞いをするようにと書かれた手紙を読んで、テオドールは頭を抱えた。



 

 


お読みいただきありがとうございます。

とても嬉しいことに、素敵なレビューをいただきました。活動報告にも書きましたが、本当にありがとうございます!

想像していたよりもたくさんの方に読んでいただき、評価やブックマークをつけていただいて驚きつつ、ありがたく思っております。

それから誤字脱字報告も、ありがとうございました。

まさか日間ランキングに載せていただくことになるとは。あまりのことに手が震えますが、せめてもの恩返しにと、後日談を急ぎ投稿してみました。

楽しんでくださったら幸せです。

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