FLOPPYDISK 宇宙豪華客船スペースウォーカー号乗客コータロー・ハセガワの原稿データ
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Future Software Inc.
FS-COS(C) Version3.10
SINCE 1985
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C:\>A:\
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A:\>dir
diary29800412.txt
genkou29800313ver.txt
genkou29800318ver.txt
A:\>type diary29800412.txt
このデータを残す。
私の名前は長谷川幸太郎、作家だ。
私のライフワークとも言うべき魔銃士物語の作者と言えば分かるだろう。
始めに断っておくがこれは遺書である。
自殺などではない、単に自分自身の死が確定しているだけなのだから。
私は新作の構想が思い浮かばず、宇宙豪華客船スペースウォーカー号に乗った。
一ヶ月かけて太陽系を一周……夢のような一ヶ月になるはずだった……。
これを書いている4月12日、突然の揺れと共に見たこともない化け物が突如現れ、船は宇宙に漂う巨大な棺桶にすっかり変わってしまった。
化け物は次から次へと人を襲い、食らう。
そして窓の外は位相航行空間の真っ只中、以前取材で聞いた話だと操縦士が位相空間への移行を行うのだが、位相空間内から抜け出すのは操縦士による手動操作、もしくは燃料切れによるドロップアウトしかない。
前者は望み薄だろう……生きているならすでに位相空間から抜け出しているはず。
残る燃料切れだが、宇宙豪華客船に使用されるTNDCバイオマス燃料はフルに供給して連続稼働しても2年は持つ……。
そう、だから宇宙に漂う巨大な棺桶と表現したのはそれが理由だ。
部屋のドアをベッドとソファーで塞いでいるが破られるのも時間の問題だ。
もしこのデータを見ているのであれば私はすでに死んでいるであろう。
フロッピーディスク内に未完成の原稿データを残してある。もしよければ貴方の手で完成させて欲しい……私はもう書けないのだから。
2980年4月12日
長谷川幸太郎
[EOF]
A:\>type genkou29800313ver.txt
ERROR!!
DATA HAS BROKEN.
A:\>type genkou29800318ver.txt
ERROR!!
DATA HAS BROKEN.
A:\>shutdown
Really?(Y/N)
y.
System shutting down.
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【死亡診断書】
氏名:コータロー・ハセガワ(性別:男)
享年:52歳
死亡推定時刻:不明(なお、船内に残された旧世代パーソナルコンピュータ内に残されたフロッピーディスクの更新日時から2980年4月12日午後10時43分頃と推定される)
死因:腹部裂傷からの大量出血によるショック死
特記事項:スペースウォーカー号消失事件における重要な情報として彼のフロッピーディスクはアーカイブ化の後、厳重に保管する。なお破損データのサルベージは現代の機種では不可能。
DOSプロンプト風な感じがやりたかっただけです。
フロッピーディスクは今じゃ使われることが無くなってきているし、フロッピーディスクドライブも見かけなくなってきているからデータ破損あったら修復は絶望だろうな……。
正直言ってスペースウォーカー号で起きた惨事は俺ですら分からない。
残された情報から断片しか見えない、全てを知るのはその時その場にいた者だけだから……。