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剣に選ばれた少年と偽りの世界  作者: 長月 淳
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イクス

アクスがゆっくりと目を開くと、目の前にエリスの顔が見え慌てて起き上がると、うぎゃ!という声と共に何かが胸から落ちる感覚がした。

「そんなに慌てて起きなくてもいいのに、体は大丈夫?」

エリスの声に振り向くアクス。

「大丈夫だよ、ありがとう。でも、膝枕はしなくて大丈夫だ」

「小僧―!貴様、寝ている私を転ばすとは何事だ!思わず変な声が出たではないか!」

アクスの言葉を遮り、スカイはアクスの肩に上り前足で頭を叩く。

「いたたた。何かが落ちる感覚がしたのはスカイか。あんな所に乗っているのが悪いんだろ」

「何だと小僧、大体貴様が確認もせず突然起き上がるのが悪いんだろう。この莫迦者が!」

「だから寝ているのに乗っちゃダメって言ったでしょ?それは逆恨みよ」

とスカイを抱き上げるエリス。

「俺は本当に一人で倒したんだな・・・」

墓標の様に剣が突き刺さったロックドッグを見て、感慨深げにそう呟く。

「うん。とても凄かったよ!」

「ありがとう。エリスの治療があると思えたから何とか倒せたよ」

そんな事ない、と否定しようとするエリスよりも先にスカイが口を開く。

「それでも内容はギリギリの及第点で、貴様の剣が突き刺さったのは奴が暴れた事で傷口が開いたからに過ぎん。あのタイミングで倒せたのは運が良かっただけだぞ」

その言葉にアクスは頷く。

「分かってる。それに、こいつが今までに何度か傷を負う戦いを経験していたら負けていたのは俺だった」

「ふん。そこに気付いているのならいい。今日の訓練は終わりだ。それをもってギルドに行くぞ」

分かった、とアクスは立ち上がり運ぶための棒を探す。

「私の空間収納で運ぼうか?」

そのエリスの申し出に、アクスは初めてCランクの魔物を討伐出来たから自分で運びたいと断り手頃な棒を拾い上げる。


「お帰りなさい、アクスさん。今日は大物ですね」

「大物ってCランクですよ。確かに俺にしては大物ですけど。後、こいつもお願いします」

と鞄からスライムが入った瓶を取り出す。

「スライムはエリスが討伐したので俺とは別です」

「ロックドッグはお二人で討伐したのではないのですか?」

スカイが仕留めた魔物は主であるエリスの手柄にすると予め決めていたが、今まで罠を仕掛けてCランクの魔物を倒した事はあれど、戦って勝ったことがないアクスのその発言に少し驚きながらそう聞き返す受付嬢。

「アクスはたった一人で私の目の前で倒しましたよ。私がしたのは戦闘終了後に傷を癒したぐらいです」

アクスが言葉を発するよりも先にエリスはどこか誇らしげにそう言った。

「畏まりました。討伐人数でランク評価が変わるのでお聞きしましたが、どうかお気を悪くしないでくださいね。

それでは査定に回しますが、ロックドッグは食用に向いていませんがどうされますか?」

そうだったんだ、と討伐人数での評価が変動する事を知らなかったと感心するエリスの声を聞きながらアクスは答える。

「それじゃあ、換金出来る所は全部換金して下さい」

「承知致しました。それでは少々お待ちください」


「ようアクス。一人でロックドックを倒したんだって?本当はそこのエリスちゃんに手伝って貰ったんだろう?なんたって、薬草と兎しか獲れない万年Dランクだか・・ら・・・。いや、何でもない。これからも頑張れよ」

知り合いの冒険者は話の途中で、エリスの顔を見て引き攣った顔で言葉に詰まり、逃げるようにその場を後にする。

「・・・エリス。そろそろその怖い笑顔を止めてくれる?」

アクスは離れていく知り合いの冒険者を見ながら、横にいるエリスに話す。

「怖いって女の子に言う言葉じゃないよ?」

「そうかもしれないけど、怖かったのは事実だ。横から冷たい空気を感じる」

この光景を見ていた冒険者達はアクスを馬鹿にすると命の危険が付きまとうという噂が瞬く間に広がり、これ以降アクスを馬鹿にする者はいなくなったという。


「こんなに貰えるんですか?」

受け取った換金額にアクスは驚く。

「はい。ロックドッグは今、討伐依頼が出ていたので運が良かったですね。

それから、ロックドッグを一人で倒した事が分かりましたので、アクスさんは今日からCランクになります。おめでとうございます。これからも頑張ってくださいね」

万年Dランクと馬鹿にしていたアクスが、ロックドッグを一人で倒したと証明された事に、周りの冒険者達はざわつく。

「すみません。エリスさんの力を借りていると蔑む声を耳にしたので、わざと一人で討伐した事を言いました。普段は言わないんですけどね」

小声でそう話す受付嬢の気持ちにアクスは礼を言い、ギルドを出る。


アクスは刃毀れした剣をどうにかしようとエリスと共に武器屋に入る。

「すみません。この剣を修理すると幾らぐらいしますか?」

逞しい腕の店主は剣を受け取り、剣を見て刀身を指で叩く。

「安物の剣というのもあるが、酷使しすぎて修理は出来ないな。どんな硬い物を刺したのかは知らんが、先端から亀裂が内部に走ってやがる。こうなると、どこまで亀裂が走っているかが正確に分からないから全部作り直しになる。よっぽどの思い入れが無い限りは、買い替えた方が安く付くぞ」

「そうですか。分かりました、新しい剣を探します」

と受け取った剣を鞘に納め、エリスを見る。

「ロックドッグを倒せたのはギリギリだったみたいだね」

そう話しながら、歩き出すアクスに店主は声を掛ける。

「待て、坊主。今、ロックドッグを倒したと言ったか?」

「は、はい。言いましたけど」

先程とは違い、前のめりに話す店主の勢いにアクスは少し気圧される。

「どこを刺したんだ?」

「首です」

「首だと!?まさか、前から刺したとは言わないだろうな?」

「そのまさかです。仰向けにして無理矢理突き立てました」

全ての問いに考えることなくはっきりと答えるアクスに、店主は豪快に笑う。

「面白いじゃないか。良ければ、どうやって戦ったか教えてくれないか?」

アクスは自慢出来ることじゃないですけど、と前置き話し出す。


「わははははは!面白いな坊主、気に入った。名前は何と言うんだ?」

「アクスです。そんなに面白いですか?」

何がそこまで店主を笑わせているのかがアクスには分からなかった。

隣にいるエリスを見るが、分からないと言うように肩を竦めながら首を振る。

「あぁ、面白いな。その様子だと、ロックドッグの弱点が関節部分って事を知らずに戦っていたんだろう?しかも止めを刺したのがうなじじゃなくて、最も硬い首の前とはな。普通はよほどの技術か武器が無いと首は狙わん。アクス、換金額が多くなかったか?」

どうしてそれが分かるのかと驚きながら、討伐依頼が出ていたからその上乗せ分だと思っていると伝える。

「それもあるだろうが、そもそもロックドッグを解体する時は足の関節から徐々に切っていくしか出来なかったのが、首から真っすぐに切るだけで済む。

作業する側としてはその分の労力と、素材として使える皮膚を綺麗に取れるから品質が良いものが取れる。

増額がどれぐらいかは知らないが、その浮いた労力分の礼ぐらいは出ていると思ったんだよ」

なるほど、と納得の表情を浮かべるアクス。

「ところで、その子が話しに出ていた」

と店主はエリスを見る。

「申し遅れました、エリスと申します。色々あってアクスの専属のヒーラーを務めています」

「専属とは貴族みたいな扱いだなアクス。

っと、そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺の名はカイゼル。見た目はただの人間と変わらんが父がドワーフでな、これでも人間よりも長寿命なんだ」

そう言い、カウンターから出て来たカイゼルの身長は150センチ程だった。

「まぁ、身長は人間ほどに高くないがな」

と豪快に笑い飛ばす。

「ところでアクス。うちの武器を金額関係なしに選ぶならどれだ?」

「えっ?突然なんですか?」

突然の問いかけに驚くアクス。

「あぁ、言い忘れた。お前ら二人は敬語なくても良いぞ。俺は気に入った奴に敬語を使われるのが嫌いなんだ。

それと、武器に関しては深く考えるな。もしもの話しだしな。その答えで剣を売らない、作らないは言わないから、軽い気持ちで選んでくれ」

笑顔のカイゼルに、分かった。とアクスは店内を歩く。

剣の事が全く分からないエリスはカウンターの近くで待つ事にした。

「お前さんのその指輪はどこで手に入れたんだ?」

カイゼルはエリスの親指に嵌めている指輪に視線を向け、そう問う。

「これ?これは父からの誕生日プレゼントで貰ったの。昔は魔力制御が出来なくてよく暴発していたから、出来るようにってね。魔力制御が出来ている今でも気に入っているから付けているの。どうして?」

なるほど、と懐かしむようにカイゼルは頷く。

「そうか、あの時の・・・。それを作ったのは俺だ。アイゼン殿は息災か?むぐっ」

エリスは慌ててカイゼルの口に手を当て、アクスを見る。

真剣な顔で剣を選ぶアクスを見て、安堵の溜息を吐き小声で話しかける。

「お父様の話はしないで。今の私はただのエリス。分かった?」

鬼気迫る表情で話すエリスに、カイゼルは頷く。

手を離したエリスは、突然ごめんなさい。と頭を下げる。

「誰かの娘って目で見られたくないの。だから内緒にしていて」

「分かった。確かにその事実は目立つな。俺の方こそ気が回らなくて悪かった」

と頭を下げる。

「でも、この不思議な指輪を作ったのはカイゼルだったのね。どの指に付けても、ぴったりなサイズになるし効果も変わらないから、一度製作者に会ったらお礼を言いたかったのよ。ありがとうカイゼル。この指輪は私の宝物よ」

「今でも大事にされているのが輝きで分かる。こっちこそ大事にしてくれてありがとよ」

そう話していると、アクスが一振りの薄汚れた装飾の剣を持って来た。

「カイゼルさ・・・カイゼル。俺はこの剣を選ぶ」

咄嗟に敬語になりかけたのを言い直し、カイゼルの目を見据える。

「えっ?どうしてそんな汚れた剣なの?他にもキラキラと宝石を散りばめたのとか数百万するやつとかあるじゃない」

「そうだね。けど、何となくこの剣は最後まで共にいてくれそうな気がしたんだ」

「最後まで共にって、そんなに凄そうには見えないけど剣を使う人には違うのかな」

よく分からないと呟くエリスの横で、カイゼルは真っすぐにアクスを見る。

「アクス、その剣を選んだ理由はそれだけか?」

「うまく言えないけど、この剣に呼ばれたような気がしたんだ。確かに見た目は薄汚れているし、俺は別に目利きが出来る訳じゃないから刀身を見ても善し悪しが分からない。

でも、不思議と惹かれるんだ」

芯の通った力強い目でカイゼルを見る。

「・・・わはははは!やっぱりお前は面白いなアクス。その剣は使い手を選ぶ剣でな、お前が呼ばれたと感じたのならそいつはお前と共に行きたいのだろう。

他の剣を選んだのなら、特別にお前が出せる金を上限として売るつもりだったが、その剣だけは別だ。ただでくれてやる」

満足そうな顔でカウンターに戻るカイゼル。

「いや、それはさすがに悪いよ」

「そいつの値札をよく見ろ、なんて書いてある?」

そう言えば見ていなかったとアクスが値札を見ると、気になったエリスも覗き込むように見る。

そこには時価とだけ書かれていた。

「選んだ理由と選んだ奴の力量で金額が俺の気分で変わるんだ。さっきも言った通り、その剣は使い手を選ぶからな。殆どの奴は鞘から引き抜くことも出来やしない。

その剣が俺の元に来てもう三百年は経つが、選ばれたのはお前だけだ。だから俺の気分でただにしてやる。

アクス、剣を磨いてやる貸してみろ」

アクスは剣を渡すと、カイゼルはまるで我が子の旅立ちを喜ぶようで、どこか寂しそうな表情でゆっくりと丁寧に隅々まで磨いていく。

「やっと旅立てるんだな・・・」

カイゼルは微笑み、剣に一言そう話し黙々と磨いていく。


一時間程経った頃、待つのに飽きたエリスは飽きることなくカイゼルの作業を見続けるアクスをカウンターの横に出してもらった椅子に座りながら見つめる。

「悪い。待たせちまったな、特にエリス。いつも以上に気合入れて磨いていたら長くなっちまった」

エリスを見てそう言い、視線をアクスに向け剣を渡す。

「アクス、光属性の魔法は使えるか?」

「魔法は何度も練習したけど、使えなかったんだ」

剣を受け取りそう話し、上に掲げる。

見つけた時とは比べ物にならない程の光沢がその美しさを際立たせ、アクスは嬉しそうに見上げる。

「見た所、全く魔力が無いとは思えんが・・・まぁいつかは使えるようになるだろう。

そいつは光属性と相性が良いから時間を見つけて、エリスにでも教わるといい。恐らくだが練習の仕方か練度の問題だろうしな」

その言葉にアクスは剣を佩く。

「分かった。それにしても凄く綺麗だな。惹き付ける妖しさがあると言うか」

「それはそいつ本来の輝きだ。そこまで褒められると、そいつが照れて鞘から出なくなっちまうぞ」

と嬉しそうに笑うカイゼル。

「武器が照れるって・・・でもありがとうカイゼル。おかげでこんなに良い武器に巡り合えた。何かあればまた来るよ」

「あぁ、達者でな」


出て行くアクス達の背中を見て、店内を見回す。普段は数人の冒険者がいるのに今日は不思議と誰もいなかった。

まるでアクスとあの剣を引き合わせるように人払いをしたみたいだな。

とカイゼルは静寂が包む店内で一人、カウンター内の椅子に腰掛ける。

アクス、その剣を持つ者は必ず戦いの渦に巻き込まれる運命だ。今のうちに強くなれ、きっとアイゼンの娘がいるのも偶然ではなかろう。・・・アクス、魔王を倒せるだけの力を持った時お前はどうする?

そう思い、カイゼルの口元が僅かに緩む。

「ふっ。俺もお前に期待しているみたいだな」

その時、いつものように買い物に来たであろう冒険者達が入って来た。

カイゼルはいつものように客を観察しながら、あの武器が合いそうだとか考える。


「どうしたエリス?さっきからずっと見ているけど、そんなにこの剣が気になるか?」

辺りは薄暗くなり、今日はそのまま真っすぐ家に帰る事にしたアクスは、歩きながらちらちらとエリスが剣を見ている事が気になり声を掛けた。

「えっ?そんなに見ているかな。あはは、そう言えばカイゼルがその剣が鞘から抜くことが出来ない人がいるって言っていたけど、アクスは抜けたんだよね?」

エリスは磨かれてからの剣に違和感を覚えていたが、それが何なのかが分からずただ思いつくままにそう話す。

「言われてみれば、一度も抜いていないな」

はっ?と呆れたように返すエリス。

アクスは立ち止まり、肝心な確認をしていない事に気恥ずかしそうに笑う。

「きっと大丈夫だよ、うん」

そう自分に言い聞かせるように竜の鱗を模した柄を握り、ゆっくりと純白の鞘からその刀身を滑らせるように出す。

その刀身は埃を被っていたとは思えぬほどに美しく、夕闇に蒼銀の光がキラリと反射する。

「何の抵抗も無く抜けたよ。けど、妖刀と呼ばれる刀は見る者を狂わせるって聞くけどこの剣もそれに劣らない美しさがあるな」

そう言い抜けた事に内心ホッとしながら納刀する。

「抜けたのは良かったけど、見惚れて戦いの気を逸らしちゃだめよ?」

「そんなことしないよ」

と二人は笑いながら歩き出す。


家に着いたアクスは両親に初めて罠を使わずに一人でCランクの魔物を討伐しランクが上がった事、剣が壊れてしまい武器屋の店主に剣を貰った事、そして今日は肉が無くて討伐報酬しか渡せない事を告げる。

討伐報酬を受け取ったサーフはその金額に驚くが、アクスはたまたま討伐依頼が出ていただけだと話す。

いつもよりも会話が弾んだ食事の後、アクスは早く新しい剣を振りたいと食器を早々に片付け剣を取る。

「日課に行って来るよ」

と玄関に歩いて行くアクスにスカイは自分を忘れるなと言わんがばかりに駆け寄る。それに気付いたアクスは抱き上げ、定位置となった肩に乗せて家を出る。


スカイは少し離れた場所に座り、月明りの下抜刀するアクスを見る。

さっきも思ったけど、やっぱりこの剣は軽いな。鞘に入っている時は普通の剣の重さに感じるのに不思議だ。

そう思いながら剣を振る。

少しすると剣の軽さで気付けばいつもよりも素振りが早くなり、剣がぶれている事に気付いたアクスは一度止まり深呼吸をして気持を整え、いつもの速度でいつも以上に芯がぶれていないかを意識しながら素振りを始めた。

ほう。自分で重心のズレを感じ取れるとは、小僧は将来化けるかも知れんな。

そう思うスカイの横にエリスは座る。

「今日はアクスの日課が見られるのは嬉しいけど」

とスカイを膝の上に乗せる。

「気のせいかしら?ちらちらとあの剣から何かが見えるんだけど、スカイは見える?」

帰り道で感じていた違和感が何か得体の知れないものの様に感じ、不安からエリスはそう聞く。

「・・・主は力の一割も発揮出来ていないあの剣に、見えるものがあるのですね」

スカイの瞳はアクスの剣を映す。

「どういう事?あの剣が何か知っているの?」

スカイはゆっくりと歩き出し、エリスに対面する形で座りじっと目を見る。

「主はこれから小僧とどうしたいのです?小僧を魔王討伐に連れて行くつもりで?」

「それは・・・その質問とあの剣に何か関係があるの?」

スカイはゆっくりと頷く。

「この世界の根幹に係わると言っても良いでしょう。そして、小僧があの剣に導かれるままに成長すれば、間違いなく主とは道を違えます」

スカイの青い瞳は月光に照らされてか、仄かに黄金に光っているように見えた。

その雰囲気に自分が思っているよりも大きな話だと感じ取ったエリスはスカイの目を真っすぐに見る。

「・・・・それは・・・私とアクスが敵対すると言いたいの?」

「二人が神兵アウリエスになれるだけの力を手に入れれば間違いなく」

慎重に選んだ言葉は、否定を願っていた。アクスと戦うことなど考えたくもないからだ。

だが、返ってきた答えはエリスにとって最も聞きたくない残酷な言葉だった。

自身の夢を叶えるという事は即ち、アクスと刃を交える事になる。

エリスは信じたくない気持ちと、スカイが嘘を吐く意味が無いことを踏まえ事実なのだろうと受け入れようとしている自分の気持ちに葛藤し言葉を発せずにいた。

「そろそろ小僧の鍛錬も終わりそうですね」

スカイは振り返りアクスを見てそう言葉を発し、迎えに行こうとアクスに向かう途中で足を止める。

「あの剣の名はイクス。この名が何を指すのかを正しく知ることが出来れば、きっと世界を元の形に出来るでしょう」

そう背中越しに話す使い魔は主の元から離れていく。


一か月後、魔物への恐怖も無くなり様々な魔物を狩れるだけの力を付けたアクスは生涯を共にする剣の名をイクスと名付けていた。

これにはエリスもスカイも驚いていたが、アクスは何となくこの剣がそう言った気がしたと話す。

アクスは二人が驚いた理由を聞くが、慌てたように剣に名前を付けるなんて珍しいと言われたが、アクスはそうかな?と返しこの話は終わった。

「まさかあの時の話を聞いていたんじゃ?」

「いえ、あの時は私が近くに来るまで気付かなかった程に集中していたので、それは無いかと。

剣を選ぶ時も名付ける時も小僧はあの剣が語りかけたと言っていたので、そのまま受け取るのが無難かと」

アクスに聞こえないように小声で話す二人を見て、アクスは気にせず修行として次の魔物を探しに行く。

「剣が話すとかあり得ないと思いたいけど、あり得ないと思っていた存在が目の前にいるから否定しづらいわね」

そう言い、スカイをじっと見る。

何のことだと言わんがばかりにスカイは首を傾げ、小僧の元に行きましょう。と歩き出す。

そうね、とエリスは立ち上がりアクスの後ろを付いて行った。


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