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剣に選ばれた少年と偽りの世界  作者: 長月 淳
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使い魔契約

「じゃあ、私達も帰りましょうか」

「そうだな。でも、素材と討伐報告はどうしようか」

「別に緊急でもないんだし明日で良いんじゃない?」

それもそうだね。と歩き出す二人の後を大きな影が付いてくる。

「このまま大人しく森を去れば何もしないから、早くここから離れなさい。それともこのまま付いて来る気?」

振り返りそう言うと、スキッドウルフはその場に座り尻尾を振る。

その姿を見てエリスは呆れたように話す。

「あなたみたいに大きな仔は飼えないの。分かったらさっさと消えなさい」

そう言い放ち歩き出そうとすると袖を引っ張られ、振り向くと悲しそうな目を向け鳴くその姿にアクスは頭を撫でる。

「やっぱり放っておくのは可哀想だよ」

その言葉にエリスは驚きの表情を浮かべる。

「何を言っているか分かっているの?現実的にこんな大きな仔は飼えないでしょ?それに魔獣を飼っている事が知られたら、どんな弊害が起こるか分からないわよ?」

「そうだけど、テイマーとかもいるし大丈夫じゃないか?なぁ、スキッドウルフ。お前、体を小さく出来ないか?」

スキッドウルフは数歩離れ、その問いに答えるように自分の足元に魔方陣を展開させる。

「何だ?魔方陣?エリスは分かるか?」

「これは使い魔契約の術式・・・まさか私の使い魔になりたいの?」

「ウォン!」

スキッドウルフは嬉しそうな表情で激しく尻尾を振りながら座る。

「凄いじゃないかエリス!スキッドウルフは頭が良くて強い上になかなか遭遇しないから、使い魔に出来るなんて思いもしなかったよ。しかもそれをスキッドウルフ自ら申し出るなんて考えられない事だよ」

興奮気味にそう話すアクスだが、その返答はアクスの期待を裏切るものだった。

「そうなんだ・・・でもいや」

「ど、どうして?」

驚くアクスと悲しさで項垂れ尻尾を丸めるスキッドウルフ。

「どうしてって、大きすぎるもの。こんなに大きいとどこに行くにも目立つし、町中には連れて行けないし移動は人目に付かないように遠回りになる。それに、こんなに大きいと餌代も凄そうだし」

その言葉を聞いたスキッドウルフは立ち上がり、水魔法で地面に文字を書く。

「契約、する、体、小さい、出来る」

アクスが文字を読むと、スキッドウルフはその通りだと鳴く。

「つまり、契約したら体は小さく出来ると」

再び肯定の鳴き声を上げる。

「また何かを書き出したぞ。えーっと。食べる、自分、出来る。

食事は自分で調達するから餌は要らないって事か?」

アクスの問いに、肯定する。

「これならエリスの懸念は全て解消出来るはずだけど、どうかな?」

「アクスはどうしてそんなに契約させたいの?」

「だって、凄い事じゃないか!」

その目はどこまでも真っすぐで、ワクワクとした気持ちに溢れていた。

その目にドキッとした事を悟られぬ様、エリスは努めて冷静に話す。

「アクスは私がこの仔と契約したら嬉しい?」

「勿論!」

「・・・分かったわ。契約してあげる」

そう言い、杖を向け詠唱をするとスキッドウルフの下に魔方陣が浮かび上がる。スキッドウルフはそれに応えるように自身も魔方陣を展開させ、二つの魔方陣が重なり一つになると仄かに赤く光を放ち出す。

これで双方が同意した事になり、魔方陣はスキッドウルフを包むように浮き上がり、魔方陣は水のカーテンのようにキラキラと光りながら消えていった。

スキッドウルフは歩き出し、エリスの前に座る。

「主よ、体の大きさはどれぐらいが良いですか?」

「しゃ、喋った!エリス、喋ったぞ。使い魔になると話せるようになるものなのか?」

「聞いた事ないけど、現に今喋ったわね・・・取りあえず、小犬ぐらいの大きさになりなさい」

驚きながらもそう指示をするエリスの言葉に、承知しました。と体を縮小させるスキッドウルフ。

縮小出来たとしても、これほどまでに小さくなれるとは思っていなかった二人はその光景に再び驚く。

「これぐらいで如何でしょう?」

「え、えぇ。良いわ。ところであなたの名前は?」

エリスはスキッドウルフを抱き上げ、そう話す。

「昔、私に畏怖の念を込めてディアブロと呼ばれることはありましたが、私自身に名はありません。ですので、お好きにお呼びください」

「ふーん。それであなた達は意思疎通出来ていたのが凄いわね。まぁいいわ。アクス、この仔の名前何が良いと思う?」

とアクスに小さな狼を渡す。

「俺に決めさせる気?」

抱きながらそう言うアクスにエリスは笑顔で、うん。と頷く。

「この仔と契約するのを勧めてくれたのはアクスだし、どうせなら名前も決めて欲しいな」

仕方がないな。と狼と向かい合うように持ち、瞳を見る。

その瞳は澄みきった空のように青く、力強さと慈愛を感じさせた。

「そうだな・・・スカイってどうだ?」

「なっ!」

その名前に小さな狼は驚きの声を上げる。

「嫌だったか?」

「い、いや。そうではないが・・・」

歯切れの悪いその返答に疑問に思っているとエリスはアクスの横に立つ。

「いいじゃない。あなたが好きに呼べって言ったんだから、文句はないでしょ?あなたは今からスカイよ。まぁ、嫌なら自分で考えるかここでお別れかになるけど?」

「無論。文句の一つもありませぬ。では、私は今よりスカイと名乗らせていただきます」

その言葉にエリスは、よろしくね。と笑顔で頭を撫でる。

まさかスカイと呼ばれるとは・・・まさか私の本当の種族を知っている訳でもあるまいし、偶然か?しかし、森の中で感じた気配はどこか懐かしさを感じたが・・・まぁ、いい。共に過ごせばいつかは分かる日も来るだろう。

スカイはアクス達と共に歩きだす。


家に着いたアクス達は両親に討伐した魔物に子供がいて懐かれたから連れて来たと話し、大きくなるまでならと飼う事を許して貰う。

夕食までの時間、部屋で過ごすと言いアクスは自身の部屋に入ったと同時に、一直線にベッドに倒れ込みふぅと短く息を吐く。

今日は色々ありすぎて疲れた。それにエリスがいなかったら間違いなく死んでいたな。でもエリスのおかげで使い魔契約とか貴重なものが見られたし、メイズさんも・・・

アクスの意識にゆっくりと帳が落ちていく。


ペチペチと何か弾力のあるもので頬を何度も叩かれる感覚に、アクスの意識はゆっくりと覚醒していく。

「こら、寝ている邪魔しちゃダメでしょ」

エリスの声が聞こえたと同時に、顔の前の何かがいなくなったのが分かった。

「そうは言っても主。こ奴を起こすために来たのに、起こさないどころかずっと寝顔を見ているだけではありませんか」

「それはその、顔色を見ていたの。あまりにも疲れていると起こすのも悪いじゃない」

「主、その判断に数分も掛かりませぬ」

そんなやり取りを聞いていると、面白くなってきたアクスの口から思わず笑いがこぼれる。

「あ、アクス。いつから起きていたの?」

「小僧、主を誑かすとはいい度胸だな」

とスカイはエリスの手から飛び降り、再び前足でアクスの頬を叩く。

「誑かすなんて人聞きが悪いよ。二人の会話が面白くてつい聞き入っちゃって」

アクスはそう言いながら上体を起こし、ベッドの縁に座る。

エリスは顔を近づけ、真剣な顔でアクスの目を見る。

「いつから起きていたの?」

「えっと、エリスが寝ている邪魔しちゃダメって言った辺りから」

それを聞いたエリスは脱力し、布団に顔を埋め上目遣いでアクスを見る。

「という事は、私が何をしていたかも聞いたって事だよね?」

「俺の寝顔を見てたって事?」

「バッチリ聞かれていたかぁ。・・・スカイ、あなたのせいよ」

顔を上げスカイを睨む。

危険を察知したスカイは咄嗟にアクスの後ろに回り込み、そっとエリスを覗き見る。

「アクスを盾にしても意味がない事を教えてあげるわ」

エリスは両側から手を回し、アクスの背中でスカイを捕まえた。

「主、その怒りは理不尽に過ぎますぞ」

とその手から逃れようと暴れるスカイだが、ガッチリと捕まえられ逃げられずにいた。

スカイを眼前に持ってくるためエリスは立ち上がろうとするが、目の前に微笑むアクスの顔があり頬を紅潮させ固まる。

あ、あ、あ、アクスの顔が吐息が全部が近いーー。

もはやエリスの思考回路はショート寸前だった。

「せっかく起こしに来てくれたみたいだし、そろそろ部屋を出ようと思うんだけど良いかな?」

「は・・・はい・・・」

エリスの手から力が抜け、脱出したスカイはアクスの近くは安全だと思い肩に上る。

アクスはスカイの頭を撫で、ゆっくりと立ち上がり放心しているエリスに手を差し出す。

「エリス、夕飯食べに行こう。もうお腹空いたよ」

「う、うん。そうだね」

その手を取り共に部屋を出る。

アクスに抱きついちゃった。さっき湯浴みしたから臭いは大丈夫だよね?あぁ、もうどうしよう恥ずかしすぎて顔を上げられないよー。


「おぉ、起きたかアクス。今日はよっぽど疲れたんだな」

「あはは、そうかも」

リビングで寛いでいたサーフはキッチンにいるマリーゼにアクスが起きて来たと声を掛ける。

「アクスちゃん!体調は大丈夫なの?・・・あぁ、それでエリスちゃんが呼びに行っても遅かったのね」

「それでって?」

「そんな仲良く手を繋いでラブラブなんだから」

と二人の手を指差し嬉しそうに話すと、直ぐにご飯の用意をするからとマリーゼはキッチンに戻って行く。

慌てて手を離し弁解しようとアクスが目線を手から前へと向けると、キッチンへと入って行く母の後ろ姿しか見えなかった。

「本当に思い込みが激しいんだから・・・。ごめんなエリス。母さんには後で誤解だって言っておくから」

エリスは俯きながら首を振る。

「ううん。大丈夫、分かっているから。私、マリーゼさんの手伝いをして来るね」

とキッチンへと向かって行った。

アクスはなんだか悪い事をしたような気持になりながらも、椅子に座る。

少しして、運ばれてきた食事を食べながら話していくうちに、エリスの表情はいつものように柔らかくなりアクスは安堵した。


「日課に行って来るよ」

「おいおい、今日ぐらいは休んだらどうだ?色々あって疲れただろう?」

いつものように剣を持って家を出ようとしたその時、後ろから聞こえる父の言葉に振り返る。

「確かに疲れているね。けど、それを言い訳にしていたら強くなれない。今日だってエリスがいたから生きていられた」

「そうだな。今日はたまたま運が良かっただけだ」

いつもと違う刺のある言い方にエリスは反論しようとするが、マリーゼに止められる。

アクスは何か思う事が父にあるのだろうと、無言で見つめる。

「なぁ、アクス。鍛錬を続けてどれぐらいだ?」

「二年ぐらい」

「その二年で、どれぐらい強くなった?」

「それは・・・」

それはアクス自身も悩んでいた事で、アクスは言葉に詰まり目を伏せる。

「毎日のように獲って来てくれる兎の魔物は、鍛錬をし始めた頃から倒せていたよな?その他の魔物は罠を使わずに倒せたか?」

その問いに返す言葉が無く伏し目がちになる。

「勘違いするなよ?俺は鍛錬が無駄といっているんじゃない。そのおかげで体力も付いただろうしな。だが、最近は罠での狩りがメインになっていないか?お前は猟師になりたいのか?アクス、お前が強くなろうとした理由はなんだ?」

父の目を真っすぐに見据えるアクス。その目には信念の様な強い気持ちが宿っていた。

「俺は魔王軍を滅ぼしたい。けど、俺は弱いから罠を使うし鍛錬も欠かさない。何より俺を拾ってくれた二人を助けたい」

そう言い視線を落とし自分の手を見る。

「・・・でもダメなんだ。魔物と対峙すると、恐怖で体が思うように動かせなくなって逃げる事しか出来ないんだ」

そう言い、エリスを見る。

「けど、不思議とエリスといるとその恐怖が薄らいで、体がいつものように動くって事に気付いたんだ。だから俺は、エリスがいなくなる前に一人でも戦えるようになっておきたい」

「アクス・・・」

心配そうにそう呟くエリスと無言でアクスを見つめる両親。

暫しの沈黙の後、サーフは何かを思いついたように口を開く。

「・・・エリスちゃんの回復魔法はどれぐらいの傷までなら治せるんだい?」

「え?えっと、瀕死ぐらいまでならなんとか」

突然のサーフの質問に戸惑いながら答えるエリス。

「それは凄いな。お願いがあるんだけど、明日からアクスの傷を治してもらっても良いかな?」

「それは構いませんけど」

「ありがとう。それじゃあアクス、今日は鍛錬せず湯浴みをして休め。明日からは狩りの時間を鍛錬に回せ。その鍛錬はエリスちゃんと一緒に魔物退治だ。但し、戦うのはお前一人だ。怪我は治してくれるみたいだから存分に戦ってこい、これは父としての命令だ」

「あなた、いくらなんでもそれは無茶よ」

サーフはマリーゼを見て襟を引っ張り、左肩を露出させる。そこには痛々しい傷跡があった。

「この傷は俺の油断で出来た傷で、冒険者を辞めるきっかけになったものだ。お前もあの時の事は覚えているだろう?俺はアクスにこんな目に遭って欲しくない。だから、今までどんな結果になろうと聞かれない限りは口出ししなかった。

アクスははっきりと魔王軍を滅ぼしたいと言った。それは毎日が生き死にの戦いに身を投じるという事だ。もう剣を握れない俺が息子の意思を尊重するためにはこれしか思い浮かばなかった。

唯一申し訳ないのは、客人であるエリスちゃんに負担を掛けてしまう事だな」

申し訳なさそうにエリスを見るが、それぐらい大丈夫です。と明るく返すエリスに感謝の言葉を掛ける両親。

そうだ。父さんも冒険者だったんだ、それなら魔物と戦うのが怖い事を相談すれば良かったのに、俺は恥ずかしくて言えなかった。それで二年も燻って、俺は馬鹿だ。

でももうこんな日々は過ごさない。これからはどんなに小さくても毎日一歩ずつ進んでやる。

アクスの心に決意の火が灯される。そんなアクスに母は近づき背中を押す。

「そう言うわけで、アクスちゃんは湯浴みをして来なさい。着替えは用意しておくからね」

と押されるがままに脱衣所にアクスは入れられ、母は着替えを取りに向かう。


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