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剣に選ばれた少年と偽りの世界  作者: 長月 淳
4/18

強襲

「色々買えたし、そろそろ帰ろっか」

「そうだな。けど、あんなに買ってもらって本当に良いのか?」

申し訳なさそうに言うアクスにエリスは笑顔を向ける。

「勿論。修行のついでに手に入れたお金だし、アクス達には良くしてもらっているんだからこれはお礼よ」

「お礼なんてそんな、朝食や薪を作ってくれただけで十分なのに」

「それはダメよ。素性の知らない私に優しくしてくれているんだもの。それに、あんなに貰っても使い道無いしね」

とアクスの顔を覗き込むようにエリスは言った。

「前を見なきゃ危ないぞ」

はーい。と楽しそうに前を向き歩いて行くエリス。


そんな他愛もない会話をしながら、森の中を歩いていると突然エリスの右から刃が現れ、キンッと音が鳴り肩の手前で止まった刃を見てエリスはニヤッと笑う。

「やっと来たのね。ただの尾行趣味じゃなくて良かったわ」

「え、エリスこれは一体」

「動いちゃダメよアクス。動くと怪我をするわ」

エリスを襲った刃は、まだこれからだと言うようにゆっくりと消えていく。

「まるでメイズさんに逆らった者への攻撃みたいだな」

「みたいじゃなくてそうなのよ。でもクエスト中でもないのに襲って良いのかしら?あぁ、自分に歯向かう者はクエスト時以外にも災いが降り注ぐって所かしらね。本当にくだらない」

呆れたようにそう言うエリス。その前方の何もない空間から突然大きな火の玉が飛んで来る。

魔法?それとも何かの誘導かしら?

襲い来る火の玉は二人の手前で何かにぶつかり消えた。

「なっ!」

その時、誰もいない前方から驚きの声が上がり、アクスは凝視するが何も見えなかった。

「アクス。あれは普通の眼では見えないわ。

それより、声なんて出したらバレちゃうわよ?どうせ物理結界しか張ってないとでも思って魔法なら通るとでも思ったのでしょうけど、甘いわ」

「エリスには何かが見えているのか?」

「ええ。魔力を目に集中させると視力が上がるから、それで空気の揺れって言えばいいのかな?今回は相手の力量のおかげではっきりと見えるわ。

それにしても、こんな姑息な奴が同じランクとか悲しいわね」

首を振り溜息を吐く。

「ふん、俺達三人ならBランクの一人や二人葬ってみせてやる」

「エリス!」

何か嫌な予感がしてアクスはエリスの前に立ち、盾になるように両手を広げる。だが、メイズ達の攻撃はアクスの前方でその悉くを結界に阻まれる。

「えっ?」

「もう。ヒヤッとしたじゃない。私達の周りには結界が張っているから、外に出ないようにと動かないように言ったのに・・・。でもありがとう。

それと、この程度の攻撃だったら防げるから安心して」

アクスに言った言葉に挑発されたメイズは力を溜め、更に後ろの男女による強化魔法を次々と上乗せされていく。

「魔法の練度は大したものだわ。二人のランクは?」

「こいつらはCランクだ。これぐらいしか出来ないこいつらを俺が拾って使ってやっているんだ。そのおかげでこいつらは苦労もなく飯が食え、寝床まである。全て俺のおかげだ」

高慢な物言いにエリスは呆れて溜息を吐く。

「本気で言っているの?彼らの詠唱速度、効果、精度。どれをとっても高いレベルよ?それこそCランクとは思えない程に。

私からすればあなたよりも優れているし、そのこれぐらいとやらに助けられていてよくそんな言葉が吐けるわね」

「・・・面白い。なら、全力でやってやるよ。あの世で後悔するんだな!」

そう言いメイズは駆け出し、その姿を現す。

その時、ガサガサと音を鳴らしながら木々の間を三頭の灰色の大きな狼が駆けて来るのが見え、メイズは立ち止まる。

「これはまさかスキッドウルフか。ツイているな。エリス、続きはこいつらを倒した後だ!」

メイズは2メートル程の位置にある首に切りかかる。

「戦力差も分からないなんて自殺行為ね」

その言葉通り、メイズの刃は容易く止められ咥えたままの剣ごと横に飛ばされる。

木に激突したメイズは足元に転がる自身の剣を見る。

「がはっ」

手を伸ばし掴み取ろうとするが、口から血を吐き出しそのまま横に倒れ込む。

「メイズ様!」

二人の男女も姿を現し、メイズに駆け寄り治療に専念する。

彼らにとって幸運だったのは、スキッドウルフ達がメイズに興味を持っていなかった事だった。

もし、スキッドウルフがメイズに止めを刺そうとしていたならば、二人の男女諸共文字通り瞬殺されていた事だろう。

グルルルル。と唸り声を上げるスキッドウルフ達の目にはエリス達が映っていた。

「標的はこっちなのね」

と苦笑いを浮かべる。

「エリス、この結界はあいつらの攻撃も防げるのか?」

エリスが答えようとした瞬間、結界に体当たりをする二頭のスキッドウルフ達。

残る一頭は離れた場所でただジッとこちらを見ていた。

「これはそう長くは持ちそうにないわね」

そう言い、エリスは空間収納から杖を取り出し前に向ける。すると火で出来た幾つもの矢がスキッドウルフ達を襲う。

ギャン!と反応の遅れた二頭に数本の矢が刺さるが、その目は殺気の色に染まる。

「本気にさせちゃったか。私が作れる最硬度の結界を重ねておくから、絶対に出ちゃだめよ」

「何言っているんだ、待てエリス!」

出ようとするエリスを止めようと肩を掴むアクスの手を、微笑みながら離す。

「二頭でも集中攻撃されたらどこまで持つか分からないの。

こっちを見ているだけの三頭目が攻撃に加わったら、多分私達は死ぬだけだわ。だから私は狭い結界を出て戦う、生き残る道はこれしかないと思うから」

悔しそうに拳を握るアクスを見てエリスはゆっくりと歩き出し結界から出て杖を構える。

「さぁ、ワンちゃん達可愛がってあげるわ」

自身に様々な強化魔法を掛けながらエリスは思う。

必ずアクスと共に帰ると。


「凄い。あんなに強力で早く、しかも無詠唱で魔法を使えるなんて」

「あれは魔力量だけじゃなくて、相当な修練の賜物だな」

メイズを治療しながらも二人の男女はエリスの戦いに目をやる。

「何を感心してやがる。今のうちに姿を消してあの狼を殺すぞ」

戦いを睨むように見ながらメイズは二人に話す。

「私達の強化魔法を受けての攻撃すら、いとも容易く防がれたではないですか。敵の目が向いていない今のうちに逃げるべきです」

メイズは立ち上がり男を睨む。

「使えん奴だな。今までやって来られたのは俺の指示と実力があっての事だ。気に食わないのなら目の前から消えろ、クズが!」

男は怒りと悔しさに拳を握り、歯をギリっと食い縛るが、心配そうに見る女の顔を見て細く息を吐き立ち上がり頭を下げる。

「申し訳ありません!私が間違っておりました!」

「分かればいいんだよ、分かればな」

と笑顔でメイズは男の鳩尾に拳を入れる。男は痛みから前屈みになる。

「次はないぞ」

「は・・・はい」

睨むメイズの言葉にそう返し、メイズ達は姿を消す。


「はぁはぁはぁ。強いわね」

エリスは口や手足から流血しながらも杖を構える。

近くには首から血を流したスキッドウルフが絶命しており、もう一頭の毛は逆立っており残る一頭は魔法での援護をするようになっていた。

仲間が倒れて怒りで毛が逆立つのは良いけど、段違いの強さね。それに奥の奴との連携が厄介だわ。距離を取って体勢を整えたいけど何故かアクスを狙っているから離れる事も出来ないし、どうしよう。

息を整えながら思案しているとスキッドウルフの爪が振り下ろされる。それを避け、反撃しようとしたエリスにもう一頭が放つ超水圧が襲い掛かり、魔法での防御を強いられる。

攻撃に移れず視線を移すと先ほど攻撃を仕掛けてきた個体が、アクスを覆う結界に爪を立てているのが見えた。

エリスは超水圧が止んだと同時に自身に防御壁を張り、アクスを襲う個体に杖を向ける。

「離れなさい!」

エリスが繰り出す大きな氷柱をその個体が飛び避けたのと同時に、エリスに再び超水圧が襲い掛かる。

数本の木をへし折りながら止まった場所で、エリスは砕けた骨と内臓損傷をぼやける脳に活を入れ、自身に治癒魔法を施す。

攻撃に専念していたからとは言え、多めに張った防御壁ごとここまで吹き飛ばされるなんて・・・下手したら死んでいたわね。

最上位の治癒魔法により癒えた体を強化魔法と防御壁で覆いながら、アクスの下へと駆けていく。


木々を抜け辿り着いたエリスの目に切り裂かれたばかりの結界が映る。

地面を穿つほどの脚力で高く飛んだエリスは杖を向け、今にも襲おうとするスキッドウルフの足元に魔方陣を作り出しアクスの前に着地する。

この間僅か2秒、突如現れた少女の姿に襲う側と襲われる側は驚き刹那の硬直をする。

その隙にアクスを幾重もの結界が覆い、杖を振り上げた瞬間魔方陣から火柱が燃え上がる。

その一連の作業の速さに反応が遅れたスキッドウルフは声も上げることなく、黒焦げた状態で現れ倒れる。

「アクス、怪我はない?」

残る一頭に目を向けたまま心配そうにそう話す。

「俺は大丈夫だけど、エリスは大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「魔力切れが近いからね。でも大丈夫、後一匹何とかしてみせるわ」

と目を逸らさず空間収納に手を入れ、瓶に入った液体を一気に飲み干す。

強化魔法ですら補えない力を使ったエリスの足は骨にヒビが入っていたが、アクスに気付かれぬ様に治癒魔法で治す。

「初めて魔力ポーションを飲んだけど、足りないわね」

そう話し、新たに四本飲み干す。

「とりあえずは魔力切れの心配はないかな?買ってて良かった。あれ?」

残る一体を倒すだけだと杖を構えたエリスの視線の先では、スキッドウルフがこちらを見ながら腹這いになるのが見えた。

「今度は何?」

「何となくだけど、さっきまで感じていた圧力を感じないし戦うのを止めたんじゃないかな?」

「まぁ確かに、さっきまでの圧力は感じないわね」

とエリスは警戒を解かず、杖だけを下ろし一歩踏み出す。

「!ダメっ、止めなさい!」

突然そう叫ぶエリスの声に驚き、アクスがスキッドウルフの方を見るとその横から突然剣が振り下ろされるのが見えた。

あっ、とアクスが思った瞬間。その剣を避けたスキッドウルフはそのまま前足でメイズを踏みつける。

その光景に安堵の溜息を吐く二人。

「その個体が一番強い事が分からなかったの?下手すれば死んでいたわよ?」

とエリスは歩き出す。

「あっ、念のためにアクスはそこにいてね」

振り返りそう言うエリスに、分かった。と一言返す。

近くに着くと、メイズの体が軋む音が聞こえた。

「もう足を上げなさい。こんな男殺す価値も無いわ」

スキッドウルフは足を上げ、そのまま転がり仰向けになる。

「触って欲しいの?・・・あら?モフモフして良い手触りね」

お腹を摩りそう言った後、危険はないと判断したエリスは振り返り結界を解きアクスを呼ぶ。


「・・・で?あなた達はこれをどうしたいの?」

手足の骨は本来曲がらない方を向き、口からは赤黒い泡を出すメイズを一瞥し、姿を現した二人の男女に問いかける。

「救いたい・・・・です」

「あんな奴隷みたいに扱われて?何か魔法で契約させられているの?それとも弱みを握られているとか?」

男の言葉にエリスは抑揚のない声で聞く。

「俺達は行く先々のパーティーで、役に立たないと捨てられてきました」

「お金も住む所もない私達が、もう冒険者を辞めようかと思っていた時に住む所と食べ物を与えてくださり、パーティーを組んでくれたのがメイズ様なのです」

二人の言葉にエリスは尚も冷たく話す。

「・・・よほど見る目の無い人ばかりだったのね。それで?傷を治さないの?私は止めないわよ?それに、早くしないと死ぬわよ?」

「エリス、そんな言い方」

「アクスは黙って。私は嫌いな人間がどうなろうと構わない。その仔に足をどかせたのは、この二人の言葉が聞きたかったからよ」

エリスの真剣な目を見てアクスは言葉を飲み込む。

「お願いします!どうかメイズ様を助けてください!」

「お願いします!私達の力じゃこんな傷は治せません。助けてくれたら何でもします!だからどうか!」

そう土下座をする二人の横にアクスも座る。

「あ、アクス。お願いやめて」

エリスの言葉も虚しくアクスは額を地面に当てる。

「俺からも頼む!今はこんなだけど、昔は新人思いの良い人だったんだ。俺も色々教えてくれたし、いつまでも魔物が狩れない俺を慰めてくれ、どうすればいいかを一緒に考えてくれた。罠を使うのもメイズさんの案で、メイズさんは俺の恩人なんだ。頼むエリス!治してやってくれ!」

呆気に取られたエリスは溜息を吐き、メイズに杖を向ける。

「三人とも頭を上げて。私だって見殺しにする気はなかったわ。ただ、あなた達二人の意見を知りたかっただけ。まさかアクスまで頭を下げるとは思わなかったけど」

淡い光が消え、メイズは目を開ける。

「メイズ様!」

駆け寄る二人にメイズは上体を起こし、睨みつける。

「お前らが助けるのが遅いから死にかけただろうが!このクズ共がはっ」

「エリス!」

自身の行いを悪びれる事もなく、開口一番に言ったその言葉にエリスはその顎を蹴り上げた。

アクスの叫ぶ声を無視し、エリスはメイズの前にしゃがみ込む。

「あなたの傷が瀕死で済んだのも、この二人では治せなかったその傷を治したのも私なの。それはこの三人があなたを助けてくれって土下座をし、女性の方はあなたを助けてくれたら何でもするとまで言ったの。この三人は昔のあなたの行いに助けられたからそうしたのよ?なのに、何今の言い方は?」

「お、おまえら・・・」

三人の顔を見渡し、言葉に詰まる。

「あなた、助けられたらなんていうか分からないの?」

「あ、ありがとうございました」

笑顔のエリスに気圧され、メイズは両膝を付き頭を下げる。

「それから?」

言葉の意味が分からず戸惑っていると、エリスは射殺すような目で笑顔を浮かべる。

「話を聞いていなかったの?この三人のおかげで助かったのよ?」

「・・・っ!ありがとうございました」

言われている言葉の意味が分かり、三人に向かい頭を下げるメイズ。

「心が籠っていないわね」

「ありがとうございました!」

恐怖に駆られ、頭を下げるメイズ。

「誠意が全く感じられないわ。誠意を感じるまで、血を吐こうが心を込めて言い続けなさい。

今のあなたはただ言わされているだけよ」

「血を吐こうが?そこまでしなくても、もうお前らには伝わっただろ?ぎゃっ」

そう言った瞬間、メイズの両掌を氷柱が貫く。

「あなたが今生きているのは私のおかげよ?その私に口答えする気?それに三人は地面に額を擦り付けていたけど、あなたは手を地面に付けて首を曲げるだけなのね」

あなたが今生きているのは私のおかげ

その言葉が、普段自分が言っている事だと気づきメイズは今までの自分の行動を恥じ、悔いた。

腐ったのは自分の都合なのに暴君の様に振舞い、沢山の人を傷つけてしまった。

その思いが勢いよく額を地面にぶつける事になり、心からの謝罪の言葉を発する。


「エリス。もう許してやってくれ。もう見ていられない」

アクスの言葉にエリスは氷柱を解く。

「もう許してくれるって。良かったわね」

「ありがとうございます・・・」

男女に寄り添われ、頭を上げ再び謝罪するメイズの右手が仄かに光り、傷が塞がる。

「左手はそのままにしておくわ。二人に治して貰うでも良いけど、その傷にどんな意味を持たせるかは自分で決めなさい」

感謝の言葉と共に頭を下げるメイズの額からは血が流れ、目からは涙が零れていた。


エリスは倒した二体のスキッドウルフを空間収納に入れ、残るスキッドウルフの前に立つアクスの元に歩く。

「お待たせアクス」

「エリス。さっきのはやりすぎだよ。めちゃくちゃ怖かった」

その言葉に距離を感じたエリスは慌てて言葉を紡ぐ。

「いや、違うの。あれぐらいしておかないと、傷が治ったらまた同じことをするだろうし、自分の行いを知ってもらうにはああするのが一番だと思ったの。確かに、ちょっとやりすぎちゃったかも知れないけど、でもあれは本心じゃなくて」

そこまで聞いてアクスは笑いだす。

「な、なに?」

自分は何かおかしなことを言ったのかと不安になり、そう聞く。

「あはは、ごめん。必死に話すのが面白くてつい。気持ちは分かっているよ。でもやりすぎは良くないな。

けど、メイズさんの目は昔の優しかった頃に戻ったように見える。ありがとうエリス」

メイズの方を一瞥し、エリスに向かい微笑むアクス。

「分かってくれたなら良いけど、わざと慌てさせる言い方は意地悪よ」

そう言い、むくれてそっぽを向く。


「メイズ様、これをお返しいたします」

メイズの前に黒い石を置き、女はそう言った。

その石を見たメイズは驚きながら、女の顔を見る。

「どういう意味だ?」

二人は立ち上がり頭を下げる。

「メイズ様。今までありがとうございました。俺達の実力が高いレベルにあると言うエリスさんの言葉に、俺達は自分達の力でもう一度一人前の冒険者を目指そうと思います」

男の言葉にメイズはゆっくりと瞬きをし、そうか。と呟く。

メイズは立ち上がり、石を二人の前に差し出す。

「それなら、これは餞別だ」

その言葉に二人は慌てて頭を上げる。

「いただけません!これはメイズ様がダンジョンで見つけたレアアイテムではありませんか。このアイテムのおかげで幾つもの危機とクエストを攻略したのに、そんな貴重なものはいただけません!」

女の言葉にメイズはゆっくりと首を振る。

「いいんだ。俺には使えないものだったしな。それにこんなものじゃ足りない事は分かっているが、これは今までの詫びも兼ねている。どうか受け取ってくれ」

その真剣な目に女は、分かりました。と受け取る。

「さてそれじゃあ、先ずはギルドに顔を出して今までの非礼を詫びなきゃな」

と両手を上げ、背筋を伸ばす。左手には傷が塞がっただけで、傷跡が残っていた。これは自戒の念を込めて自らそうなるように女に治してもらったためだ。

「それじゃあ、元気でな」

そう言いメイズはその場を離れようと歩き出す。

二人の男女は目を見合わせ、頷き静かにエリスに頭を下げる。

それを見たエリスは応えるように小さく手を振る。

「俺達も町に帰るんですから、一緒に帰りましょうメイズさん」

と駆け寄る二人。

「いや、だがな」

「冒険者は助け合いが基本。ですよね?」

自身が教えた言葉を言われ、メイズは溢れる涙を見られまいと俯く。

「どこか痛みますか?ひょっとして左手が」

その言葉に首を振る。

「いや、左手はおかげで痛くない。ただ、ちょっと心が満たされただけだ」

その頬を自身の歪んだ心が雫となって伝い、地面を点々と濡らす。

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