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剣に選ばれた少年と偽りの世界  作者: 長月 淳
3/18

エリスの魔力量

「・・・ねぇ、アクス。あの時拾ってくれたってどういう意味?」

数分後、エリスは読書の邪魔になるとは思いつつも気になっていた事を聞く。

その言葉を聞き、手を止めたアクスは聖典を置きエリスを見る。

「ひょっとして父さんとの会話聞いていたのか?」

「うん。着替えて出ようとしたら聞こえてきちゃって」

申し訳なさそうに答えるエリスにアクスは微笑む。

「別に怒ってないし、隠すような事じゃないからそんな顔はしないでくれ。

俺は所謂、戦災孤児で物心付いたぐらいの時に魔王軍が俺の本当の両親諸共殺し、村は焼かれた。

両親に言われて、子供一人が入れる程の広さの床下収納に隠れていた俺は村で唯一の生き残りとなった。

膝を抱えていた俺は、サーフ父さんに見つけられ二人の養子になったんだ。

まぁ、殆ど覚えていないから父さんに聞いたんだけどな」

と笑うアクス。

「・・・本当の両親の記憶はあるの?」

辛そうな表情を浮かべ、そうエリスは聞く。

「あるよ、少しだけね。優しくて温かい人達だった。

あの時も自分達は死ぬかもしれないのに、俺が怖がらないようにと優しく微笑みながら中に入るように言ってくれた。

・・・その最期の言葉を朧気ながらに覚えている。

今では顔も声もぼんやりとしか思い出せないけど、今の両親と同じで優しくて温かい人達だって事だけは覚えているんだ」

悲しすぎてもう泣くことが出来なくなったかのようにアクスの瞳には悲しみが湛えられ、その顔は寂し気に笑っていた。

「アクスには育ててくれた優しい両親が居るし、これからは私もいる。だからアクス、沢山楽しい思い出を作ろう?」

そう言うエリスの瞳からは涙が零れていた。

アクスは愛おしいものを見るように微笑みながら、優しくエリスの頭を撫でエリスは吸い込まれるようにアクスの胸に顔を埋める。

「ありがとうエリス。嬉しいけど別にエリスが泣く事じゃないだろ?」

「・・・・っ。泣いてないわ」

アクスは頭を撫で続ける。

「じゃあ、胸が冷たいのも気のせい?」

そういたずらっぽく言うアクス。

「気のせいよ」

と強気に言い放ち、アクスから離れ顔を見られまいと俯きながら涙を拭く。

「もう眠くなったから寝るわ」

と歩き出し、扉を開ける。

「・・・お休みアクス」

そう背中越しに話し、静かに扉を閉めるエリス。

「お休みエリス」

閉まった扉に向かいそう呟くアクス。


行ってきます、と両親に挨拶をした二人は共に家を出る。

町へと向かう森の中でアクスは一つの疑問を口にする。

「なぁ、エリス。俺、何かしたか?」

「何もしてないと思うけど、どうして?」

「だって、朝からよそよそしいから」

その言葉にエリスは見る見るうちに顔を赤らめ、俯く。

「そ、それはその、昨日の夜にあんなことしたからなんか恥ずかしくなっちゃって」

「あんな事?なんかあったっけ?」

きょとんとした表情のアクスに、エリスは怒り気味に返す。

「分からないのならもう良い!」

と、歩みを速めアクスを追い抜き前を歩くエリス。

「うーん。頭撫でた事か?」

とアクスは歩きながら自分への確認をするように呟く。

そこじゃないんだけど、まぁ気にしているならそれはそれでいいわ。

とエリスは嬉しそうに微笑む。

「まぁ、いいか」

アクスの言葉を聞き、エリスは立ち止まり勢いよく振り返り、そのままアクスの前まで歩く。

「まぁ、いいか。じゃないでしょ!頭を撫でたのが原因だと思ったのなら、謝るとかなんかないの?」

「ご、ごめん。でも、結構前を歩いていたのによく俺の独り言が聞こえたな」

その言葉にエリスの顔が見る見るうちに赤くなる。

「あんなに大きな独り言を言われたら誰でも聞こえますー。それとも、私が耳をそば立てていたとでも言いたいの?」

「そんなに早口になるって事はそうなのか?」

「そんなわけないでしょ!バカアクス!無神経!」

とうとう耳まで赤くなったエリスはそう言いアクスを両手で押し、ふん。と再び歩き出す。

アクスは押された胸を摩りながら、押した理由を聞くのは得策ではないと言葉を飲み込み付いて行く。


町に着いた二人は、ギルドの依頼掲示板に目を通す。

「マジか・・・スキッドウルフの討伐が貼られている」

「それは凄い事なの?」

いつの間にか機嫌が戻っていたエリスは、愕然としたアクスにそう疑問を投げかける。

「凄いと言うよりも珍しいかな。別名[流浪の狼]と呼ばれていて、出産の時以外は巣を持たないんだ。

滅多に出会わない上に強いから、その毛皮や牙などの素材は希少性もあって高値で取引されているんだよ」

「へぇ、それで驚いていたのはどうして?近くに巣を作るから?」

「いや、巣を持ったスキッドウルフは子供の事を考えて狙う事を禁止されているんだ。

俺が驚いていたというか、困っていたのはその強さに低レベルの魔物は皆怯えて隠れるからなんだ」

と肩を落とすアクス。

「隠れているなら探せばいいじゃない」

アクスは落胆し、顔を横に振る。

「いつも以上に警戒心が強いから直ぐに逃げるし、何より探している間にスキッドウルフに遭遇したら俺が死んじゃうよ。だから今日は町の周辺で薬草採集でもしよう」

と依頼書を探すアクス。一度見渡しただけでは見つからなかったのか、二度三度と見返すが見当たらずとうとう依頼書の下にあるのではと、一枚ずつ捲りだした。

どうやら考えている事は皆同じようで、アクスの様な低ランクの冒険者達は我先にと依頼書を取って行った様だった。

普段なら誰もやりたがらないからと余っている依頼書も、今回ばかりは人気の依頼へと早変わりしていた。

「ねぇアクス。掲示板が大きいわけでも、ましてや依頼書が多いわけでもないんだから何度見ても無い物は無いわよ」

その言葉に手を止め溜息を吐く。

「そうだよな。もう諦めて今日は帰るか」

そう言い、肩を落としながら帰ろうとするアクスにエリスは話しかける。

「そう言えば、素材の換金って冒険者登録しないと駄目なの?」

「いや、そんな事は無いけど冒険者のランクが上がれば換金額が少し上がるから、大体の人は登録しているよ。まぁ、たまに素性を知られたくない人は登録しないとは聞いた事があるけど、どうして?」

「今後の為にも登録しといた方が良いのかなと思って。でも、今の話しだと登録だけでもしといて損はなさそうね。今日はやる事ないみたいだし、登録してくるね」

そう言って受付に向かうエリスの後をアクスは付いて行く。


登録申請書を書き終わったエリスは最後に、魔力測定のための水晶に手を翳す。水晶は仄かに光を放ち出した数秒後、魔力量を表す数字が浮かび上がる。

「ご、5000!?」

驚きのあまり受付嬢が声を上げると、それを聞いた周りがざわめく。

「おい、聞いたか?あの女の子魔力が5000だとよ」

「5000!?そんな数値Sランクでも中々いないぞ」

「計測ミスか、水晶が壊れているんじゃないか?あっ、見ろ。奥から新しい水晶を持って来たぞ」

魔力量がそのまま実力になるわけでもないのに、ちょっと多いだけで騒ぎ過ぎじゃない?

エリスはざわめきに疑問を抱きつつ、新たに持って来た水晶に手を翳す。

その数値は先程と変わらない値を示していた。

「・・・失礼ですが、エリスさんはエルフとかの亜人種ではないですよね?」

その質問にエリスは髪をかき上げ耳を出す。

「見たままの人間です。疑問に思われるのなら登録してくれなくても結構です。最低限、私は素材が売れたらそれでいいので」

その笑顔に受付嬢の顔は青ざめ、深々と頭を下げる。

「も、申し訳ありません!これほどまでに高い数値というのは厳しい修行を何十年と続け、更にその中の一部の者だけが到達すると言われているので失礼ながら確認させていただきました。

登録はこのままさせて頂きますので、少々お待ちいただけますでしょうか?」

「別にそこまで怒っていないので、頭を上げてください」

「ありがとうございます。それでは少々お待ちください」

と深く頭を下げ、書類を持って中へと走っていく。

「登録って紙書いて終わりと思っていたけど違うのね」

「いや、殆どはそれで終わりだよ。今回はエリスの魔力量の多さでどのランクからスタートするかを上に話しに行ったんだと思うよ」

エリスは溜息を吐き、カウンターに項垂れる。

「別に魔力量がイコール強さになるわけじゃないんだから、私は一番下からでいいのに」

「一般的にはそういう認識じゃないしな。それに、一番下からだとランクが上がりやすいからその都度昇格手続しなきゃいけないし、お互い手間だろ?」

確かに。とエリスが納得していると、奥から大柄な男性が受付嬢と共にやってくるのが見え、アクスはこちらを向くエリスに真っすぐ立つように促す。

「彼女がエリスさんです」

と受付嬢に言われた男性は満面の笑みを浮かべる。

「やっぱりエリスか。久しぶりだな」

そう話しかける男性を見て、エリスは一瞬驚き嬉しそうに笑う。

「もしかしてライズおじ様?」

「家出したとあい」

「し―!その話は内緒よ」

と口元に指を当て、それ以上話すなと目でも訴える。

「・・・分かった。取りあえず、ランクについて色々と聞くことがあるから中で話そう。案内と人払いを頼む」

ライズは受付嬢に指示を出し来た道を戻って行く。

「承知いたしました。それではエリスさん。どうぞこちらへ」

とカウンターを上げ中へと促す受付嬢に、分かりました。と答える

「ライズおじ様は父の友人で、昔はよく家に遊びに来てくれていたの」

不思議そうに見るアクスにそう笑顔で話す。

「そういう事か。じゃあ、エリスの家は比較的にここから近いんだな」

その言葉にエリスはカウンターの中に入りながら答える。

「どうだろ?ここに来るまでに寄り道しながらだけど、一週間は掛かったし。まぁ、近いのかな?とりあえず話はまた後でね」

とアクスに小さく手を振り、中へと案内されていく。

一週間か、そう言えば昨日の食事の時にも言っていたな。

この町にも来た事が無さそうだったし、まさかあの森の中で野宿を?・・・さすがにそれは無理があるか?

それにしてもあの魔力量には驚いた。エリスは魔力量イコール強さじゃないって言っていたけど、エリスの力ならきっと神器も手に入れられるだろうし神兵アウリエスにもなれるだろう。後は強い見方を見つけて魔王を倒すだけか。きっと成長したエリスなら大丈夫だろうな。

そんな事を考えながらアクスは近くの椅子に座り、エリスを待つ。


「さてエリス。先ずはギルド長としての質問だ。実戦経験は?」

ライズはソファに腰かけ、前に座るエリスにそう問う。

「あります。ここに来るまでの一週間で様々な魔物を倒してきました」

エリスは真っすぐにギルド長の目を見据え答える。

「それを証明出来る何かはあるか?無ければ、どこでどんな魔物と戦いどう倒したのかを教えてくれるだけで良い」

エリスは徐に空間収納を出し、中に手を入れ一つの角を取り出す。

「例えばこの角。これは森の奥で遭遇した一角獣の角」

ことっと音を立て置かれた角を見てライズは目を見開く。

「こ、これはひょっとして夜になると仄かに光る泉の近くで討伐したのか?」

「はい。よく分かりましたね、あそこは修行にはもってこいでした」

エリスは次の素材を取り出そうとする手を引っ込め、そう答える。

「ユニコーンは遭遇も稀で高い戦闘能力を持っているから、Bランクに指定されているのだがそれを一人で・・・」

驚くライズを尻目に次に取り出したのは、七色に光る一対の翅だった。

「これには鱗粉が飛ばないように簡単な結界で覆っているから問題なく触れます」

「まさかこれはデビルモス?」

「名前は存じませんが、魔法耐性が高い上に鱗粉が毒だったからこの翅を傷付けずに倒すのは苦労しました」

「デビルモスは攻撃力がそんなに高くないという理由でBランクだが、本来その気性の荒さと魔法耐性の高さそして様々な毒を混ぜ合わせた様な強力な鱗粉。

攻撃力以外だとAランク相当の魔物なんだ。それを一人で倒せる者がいるとは驚いた」

「きっと父なら、一人でも私と違って簡単に同じことが出来ます」

その言葉にライズは笑いだす。

「そう言えばそうだな。お前は昔から自身と比べる相手はアイゼンだけだったな。

質問は終わりだ。お前のランクはBからスタートになる。

アイゼンの時はCからだったから、一つ父を超えたな」

エリスは静かに首を振る。

「それは比べられません。登録時、父が使えた魔法は二種類の初級魔法だけだったと聞いています。私はその倍以上の種類と上級魔法まで使えるのにこの程度の差なのです。大魔導士と呼ばれた父に基礎を教えてもらいながらこれですから、まだまだ精進が足りません」

ライズは短く溜息を吐く。

「お前のその向上心は凄いが、たまには自分を褒めないと疲れるぞ?それにお前が討伐した魔物にAランクがいなかった事が最も大きな理由だ。残念ながらこの辺りにはそんな強力な魔物はいないがな。

だが、俺は個人的にはお前にAランク以上の力があると思っている。だからこの程度の差なんて言うなエリス」

とライズは穏やかに笑う。

はい。とエリスは微笑み返す。


「それじゃあ今からはただのライズとして聞くぞ。

危険を冒してまで旅をする理由はなんだ?アイゼンは、旅に出てきます。って書置きがあっただけと言っていたが」

とライズは茶を一口飲む。

「あはは、お父様を困らせちゃったかな」

と照れくさそうに頬を掻くエリス。

「いや、それが思ったより困っていなかったぞ。いつかこんな日が来るとは思っていたが、それが思っていたよりも早かっただけだと言っていた」

「・・・そっか。だから捜索されなかったのね。

おじ様、私はお父様が為せなかった魔王退治がしたいの。

そしてそれが出来たのは大魔導士アイゼンの娘だからって、お父様は神器が無かったから逃げるしかなかったけど、本当は倒せるだけの実力があるんだって皆にそして何よりお父様に知ってもらいたいの」

嬉しそうに話すエリスの頭を撫でながら、ライズは笑う。

「そうか、分かった。それなら先ずは一緒に戦ってくれる仲間を見つけなきゃな。

でも、たまに立ち止まって休むことを忘れるなよ?」

「分かったわ。だからそろそろ手を放してくれる?」

「おっと、すまん。つい昔の癖で」

もう。と乱れた髪を手櫛で直すエリス。

「さっきの少年は知り合いか?」

「ええ。アクスって言うの。今は訳あってアクスの家に泊めてもらいながら、手伝いをしているの。まぁ、昨日からだけどね」

とはにかむエリス。

「そのアクスという少年は強いのか?」

「いえ、弱いわ。兎の魔物を狩るので精一杯みたいだし」

でも、何かほっとけないのよね。と付け加え、柔らかい笑みを浮かべる。

「弱いけど、良い男を見つけたんだな」

「そうなの・・・・って違うわよ?今のは人としてって意味だから!宿が無い私を泊めてくれたり、辛い過去があってもそれを感じさせない優しさについてよ?」

ライズは堪え切れずに笑いながらエリスを見る。

「相変わらず焦ると早口だな。後半はただの惚気だったぞ。

さて、話はこれで終わりだが素材は換金していくか?」

「だから、そんなんじゃないってばもう。

もういいわ、他にもいろいろあるけど換金してくれる?」

「あぁ、全部出してくれ」

分かったわ。とエリスは次々と素材や魔物の死体を床やテーブルの上に置いていく。

「これで全部かな」

「まさか、素材を取らずに倒しただけの魔物がいるとかはないよな?」

「あるわよ?素材が折れたりしていたらそのままにしたりしていたし、全身使えそうな魔物はこうやって丸ごと収納したしね」

そう事も無げに話すエリスにライズは、小さく笑う。

「もう驚き疲れそうだ。この感じだと数件討伐依頼をこなせばAランクに昇格出来そうだな。怪我とかは大丈夫だったか?」

「もう昇格?早いわね。怪我の殆どは魔法で直ぐに治せるほどのかすり傷ばかりだったから大丈夫よ」

「殆どが討伐依頼に出ていたやつだからな、実績に付けておくよ」

ありがとう。とエリスは立ち上がる。

「それじゃあ、よろしくねライズおじ様。換金はさっきの所で待っていればいい?」

「あぁ、出来たら呼ばせる。なるべく早く済ませるように言っておくから、待っていてくれ」

分かったわ。とエリスは扉に向かい歩き出す。

「そう言えば、アイゼンから言付を預かっている。

エリスの実力を信じているから、捜索はしないが親としては可愛い一人娘を心配もする。

だから、旅の途中だからと意地を張らずに顔を出すなり手紙をくれると嬉しい。だとさ」

エリスは背中越しに聞くその言葉に、涙が出そうになるのを堪える。

「・・・ありがとう、ライズおじ様」

静かに扉が閉まり、ライズは深々と椅子に腰かける。

親父の名誉の為に命を懸ける・・・か。その旅にアクスとかいう少年がいれば良いのだろうが、話しに聞いた限りの実力では無理だろうな。

そう言えば、アクスと言う名。どこかで聞いたことがあるような・・・。っと、こうしている場合じゃない。早く素材を鑑定に回さないと。

ライズは慌てて起き上がり、扉を開け鑑定士と解体屋を呼ぶ。


「お待たせ。でも、もうちょっと待って欲しいの。今、持ち込みの素材を換金してもらっているの」

「良いよ別に。どうせ今日は何も出来ないしな」

手を合わせ、お願いする仕草にアクスは笑顔でそう返しその前にエリスは座った。

「ありがとう。そういえば、さっき沢山の人に囲まれていたけどどうしたの?」

「魔力量が異常に高い初めて見る女の子がギルド長と親しげに話していて、しかもその子が俺と一緒に来たから関係性を聞かれたんだよ」

「ふーん。なんて答えたの?」

そう身を乗り出しながら聞くエリス。

「昨日会ったばかりの知り合いって答えたよ。」

「そか。今日はこの後に家に帰るんだよね?」

「そうだね。俺が出来る依頼は無いし、罠を作るにはスキッドウルフが怖いしね」

「それなら、換金出来たらそのお金で何か買って帰ろうよ。この町も見て回りたいし」

頬杖を突き、そう話すエリス。

「それはさすがに悪いよ。エリスのお金なんだし、エリスが買いたい物を買うといいよ」

エリスが答えようとすると横から聞きなれない声が聞こえる。

「なんだアクス。魔物は子供でも狩れるような低級しか狩れないけど、人間はこんな高ランクな上玉を狩れるんだな」

その言葉に二人が振り向くと、剣を背負った笑う声の主とその後ろに二人の男女がいた。

「メイズさん・・・。この子は、エリスはただの知り合いです。狩るとかそう言う言い方は止めてください」

「なんだそうなのか?ただの知り合いに何かを買おうとしているのかこのエリスちゃんは」

とメイズはエリスの肩に手を置く。

「俺はメイズ。Bランクの冒険者だ。早速だけど、知り合った記念に俺にも何か買ってくれよエリスちゃん」

エリスは肩に置かれた手に一瞥し、メイズを睨みつける。

「この手をどけなさい」

「魔力量5000の期待の新人様は怖いなー。でも、この町で俺に歯向かった新人は皆、不思議とクエスト中に事故に遭って中には引退する者もいるんだ。だから」

「だから何?私はこの薄汚い手をどけろと言っているの」

その言葉にメイズは不敵に笑い、手をどける。

「悪かったよ。そんなに怒るなよ冗談だろ?単に仲良くしたかっただけなのによ」

とメイズは二人の男女と共に離れていく。

「はぁ、何なのあの品性の欠片も無い男は」

深く溜息を吐き、呆れたように言うエリス。

「メイズさんはこの町で一番の実力者と言われているんだけど、気に食わない奴や自分に歯向かって来る奴らは皆、数日中にクエストから原因不明の怪我をして帰ってくるんだ。

多分メイズさんが何かをしているんだろうと噂があるけど、証拠がないから皆怖くて嫌われないようにしているんだ」

「証拠が無いってどういう事?怪我をした原因か相手を見たんじゃないの?」

アクスは首を振る。

「やられた人は皆、口を揃えて何も無い所から突然何かに切りつけられたって話すだけで、証拠も手口も何も分からないんだ」

「何も無い所から突然ねぇ」

その時、換金受付からエリスの名を呼ぶ声が聞こえた。

「出来たみたいだし、行きましょうか」

二人は受付へと向かう。


「お待たせいたしましたエリスさん。先ず、こちらがBランクの冒険者プレートです。本来ならば登録受付の方でお渡しするのですが、ギルド長より一度で全部済ました方がお互い良いだろうとの事で、こちらの窓口でお渡しします」

礼を言いプレートを受け取ったエリスは、そのまま空間収納に入れる。

「Bランクからのスタートなんて凄いじゃないかエリス。でも何でチラッと見ただけで直ぐに空間収納に入れたんだ?」

「だって今持っていても邪魔じゃない。使うのはギルドに来た時に受付をしてもらう時ぐらいでしょ?それだったらその時に取り出す方がいいもの。

それに、書かれている内容に興味も無いしね。見たのは内容が間違えていないかの確認よ」

殆どの人は初めて登録した時のプレートに胸を躍らせるが、エリスは文字通り興味を持たず見えない場所に入れたのだ。

アクスは自分が初めて登録した時の事を思い出し、その温度差に引き攣った笑いを浮かべる。

「確かに、無くさないようにと首からぶら下げる方は多く見ますが、空間収納が使える方はそちらの方がいいのかもしれませんね。

それでは最後に換金額は合計で金貨1万枚となります」

その言葉に周りからは驚きの声が広がる。

受付嬢は後ろに立つ男性職員に目配せをし、頷いた男性職員は重そうに麻袋をカウンターの上に置く。

「この袋が一つで千枚入っています。

彼は元冒険者でそれなりに力はある方なのですが、その彼でも重そうにする程ですので、よろしければギルドでお預かりも出来ますが如何でしょう?もちろん、預けたお金は他のギルドからも下せます」

「いえ、十袋全て貰います。けど、その重い物は台車にでも乗せてきたのですか?」

そうです。と受付嬢は全て受け取るというその返答に驚きつつそう答える。

「なら、お手数ですがその台車を私が見える位置まで引いてくれますか?」

男性職員は言われた通りに重そうに台車を引き下げる。

「はい。そこで止まってください」

と男性職員が停止すると、台車に乗った袋が一つ二つと浮き上がりふわふわと空間収納へと入って行き、最後にカウンターの上の袋も入って行った。

「十と。はい、確かに受け取りました。他には何かありますか?」

「い、いえ。これで終了です。わざわざ魔法を使って引き取って頂きありがとうございます。ギルド長からはきっと全部引き取るだろうから、全額持っていくようにと言われた意味が分かりました。」

受付嬢は驚きながらもそう言い頭を下げる。

「これぐらいは大したことじゃありません。ありがとうございました。それじゃあ、アクス行きましょう・・・アクス?」

歩き出したエリスは返事のないアクスの方を振り返ると、そこには驚いたままで固まるアクスがいた。

「どうしたのアクス?」

「あっ、あぁごめん。あまりの金額に驚いて固まってしまった」

なにそれ。と笑いながらエリスはアクスと共に歩き出す。


金額を聞いて騒がしかった周りは驚くことなく淡々としたエリスとその魔法を見て、一部の冒険者達は静かになり会話は不思議と小声になっていた。

受付嬢はその光景を見てふうと息を吐き椅子に座る。

「アクスさんの反応も、周りの反応も気持ちは分かるわ。私もギルド長に聞かされた時は驚きのあまり声が出なかったし、さっきの魔法だって空間収納なんて一部の人しか使えないのにそれを自在に好きな場所に展開させていた。

自分から離れる程に制御が難しいと言われているのにいとも簡単に」

「だから、それが分かる一部の冒険者達は息を呑んだ」

男性職員の言葉に頷き、受付嬢は更に言葉を続ける。

「それにあの金額を聞いて平然としていられるエリスさんもおかしいわ。ギルド長とも知り合いみたいだし、実は登録していないだけのエルフ族かとも思ったけどそれも違うし、本当に何者なのかしら?」

「実はどこかのご令嬢とか?」

「そうだとしたらどうしてそんな方が一人で森の中に?ギルド長曰く彼女は今回の魔物全てを一人で倒したそうよ。殆どがBランクなのによ?後、二回ほどCランク以上の魔物の討伐依頼をこなせば彼女はAランクに昇格よ」

その言葉に男性職員はゴクッと唾を嚥下する。

「一体、何者なんでしょうね・・・・」

二人はギルドを出るエリスの背中を見つめていた。


「あんな金額が出るなんて、一体どんな素材を出したんだ?」

アクスは道すがらエリスに疑問を投げかける。

「確かBランクの魔物の素材が10体分程で、その内の半分以上に討伐依頼が出ていたけど討伐者不明で支払金が溜まっていたみたい。

後は多分だけど、直ぐに空間収納に入れたから状態が劣化していないのもあるかも」

「び、Bランクの魔物を一人で倒したのか!?」

「うん。そうみたい」

事も無げに答えるエリスにアクスは驚く。

「そんな大した事じゃないように・・・確かに最近はBランクの魔物討伐が張り出された翌日には、素材だけを取られた死体が見つかったって理由で依頼書が剥がされるのが続いていたな。まさかそれがエリスとは・・・エリスは思っていた以上に強いんだね」

「そんなことないよ」

とはにかみながら笑うエリスは、ある露天の前で立ち止まりアクセサリーを見る。

「何か良いのが見つかった?」

「うん。これ、良いと思わない?」

とエリスは赤い石が埋め込まれた銀の指輪を左手の人差し指に嵌めて見せる。

「良いね。エリスに似合っているよ」

「ほんと?それじゃあ、アクスはこっちね」

と青い石が埋め込まれた銀の指輪をアクスに渡す。

「俺はいいよ」

「ダメ、付けて」

渋々と右手の人差し指に嵌めるアクス。

「うん。やっぱり似合う。おじさん、これ下さい」

「エリス!?」

アクスの言葉を聞かず支払いを済ませるエリスは笑顔でアクスを見る。

「これが私の買いたい物だもん」


Bランクの魔物を一人で倒しただと?俺が倒そうとしたアシッドバイパーが死体になっていたのも奴が?ふざけるな!あんな大蛇を魔法使いが一人で倒せるわけがない。きっと何か裏があるはずだ

尾行し離れた場所からエリス達を見るメイズ達。


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