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カラスは春告げる  作者: ふく
第1章
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第8話 スポットライトの内と外

カラスは、ウグイスにはなれないのかーーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

気づいたら前田によって、僕は演劇部部長に差し出されていた。その木村部長と、顔がぐっと近づく。


「え、おい、ちょっと前田っ」


「……麻生!!!」


突然目の前で大きい声を出されて、情けなくビクついてしまった。演劇部部長が叫ぶと、何だか黒子みたいな小さい女子がサササッと駆けてきて、二人で何やらコソコソ話し出してしまった。


僕はできる限りの小さい声で、隣の前田に文句を言った。


「おい、前田!」


「いやだって事実だし」


「わざわざ言わなくていいよ、何なんだよもう」


「それよか、すごいな。大好評じゃん、昨日のやつ」


「うるさい! もうよくわかんない、とりあえず甘酸っぱいトキメキメモリアル的なことではなかったみたいだし、今のうちに教室戻ろう」


「確かに」


ラインダンス部隊も困惑しているようで部長たちを心配そうに囲んでおり、僕たちはその固まりを横目にそそくさと屋上を後にした。


 


「この高校って、なんか押しが強い人多くない?」


階段を急ぎ目に駆け下りながら、僕は悪態をつく。


「今日だけで2回目だな」


「え?」


「放送部と演劇部」


あ、そうだった……放送部のことをすっかり忘れたていた。


「あんなちょっと校内アナウンスしたくらいでこんなにまとわりつかれちゃうなら、あんまり気軽に体験入部できないなー」


部活動初心者の僕としてはのんびり色んな部活を見学してみたかったけど、先輩たちの強めな圧に、2日目にしてもうおなか一杯の気分だ。


「……」


前田からは、特に返事はない。


「えっ今日どうする? 今日も回る?」


「俺は回るつもりだけど、真野くんがまた頭角を現してこれ以上人気者になっても困るだろうから、真野くんの好きなようにしてください」


「なっなんだよそれー」


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。僕たちはバタバタと階段を下りきって、教室へと急いだ。


 


 


その日の授業が全て終わって、掃除もきっちり済ませた放課後。


結局僕は、家に帰っても母さんからの「今日はどうだったの? 部活は決めたの?」等の質問攻めを受けながら今日の報告会をしなければならないと思うとすぐに帰宅する気になれず(遅く帰ったとしても結局ご飯の時間にしゃべらされるんだけど)、前田に付いていって部活動見学を一緒に回ることにした。


目立つ体験がなさそうなところを厳選し、囲碁将棋部、マンガ研究部、華道部、オカルト研究部を回った。


この4つは部員の人たちもいい感じに力が抜けていて、話を聞いていて疲れなかった。というのも、部員数が以外にも多いから、必死に部員争奪戦に参加しなくても毎年一定数新入生が入ってくる、人気の文化部のようだ。うちの高校が全員部活動加入必須、ということを入学してから知る人も少なくない。そういう人たちも含めて、ゆるっと自分のペースで部活を楽しみたい人たちにとっても打ってつけの部活なんだと思う。地味なようでいて大所帯だから部室も広めだし、宮野立高校部活動の中でも力があるというか、発言力もあって、「文化部四天王」と呼ばれているらしい。


確かに今日の4つはなかなか良かった気がする。週1~2回全体の活動日があり、その他は基本的に自由。土日も来たい人は顧問や部長らと相談した上で活動可。基本個人プレーベースなので、集団行動が苦手な人でも過ごしやすい。そして何より、部員の人たちの雰囲気が良かった。ガツガツしていなくて、人の話をあまり聞かず強引に物事を進めていったりしない感じ。いや、放送部や演劇部の人たちを否定しているわけじゃない。ただ僕には合わないと思っただけだ。そういうガッツな空気を今まで避けながら生きてきたんだから。


「俺、囲碁将棋部にしようかな」


下校時刻が近づいてきたので、今日はもう切り上げようと下駄箱に向かっている最中、前田が言った。


「あ、そこなんだ。確かに良かったね」


「うん、囲碁とか将棋もちゃんとやったらおもしろそうだなと思った」


へー、今までサッカー部でゴリゴリ運動やってきた人間が、囲碁将棋に興味がわくこともあるんだ。前田と囲碁将棋。想像しただけでちょっと笑えるんだけど、でもおもしろそう。


「お前は?」


「え?」


「今日の4つの中から決めるの?」


正直言うと、どこでも良かった。今日の見学を通して、前田みたいに何か少しでも興味がわけばそれが一番いいんだろうけど、それはなかった。


「そうなると思うけど、どうしようかなあ。前田と一緒の、囲碁将棋部にしてみるかな……」


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


僕がそう言った瞬間、チャイムが鳴り響いた。


「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は、消灯、戸締りの確認をしてから帰りましょう」

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