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カラスは春告げる  作者: ふく
第3章

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55/57

第55話 この気持ちは

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「そんな訳、ないだろ!」


キイイン……と、前田の部屋に僕の声がうるさく響いた。

前田の声が止む。


「いや、わかんない。わかんないけど……そういうことじゃないだろ、前田が野球じゃなくて、サッカーをやってたっていう、ただそれだけのことだろ。もし野球やってたら、とかじゃなくて、」


前田がとめどなく吐き出した言葉たち。ちゃんと一個一個理解できてる自信はない。

いや、今すぐには無理だろう。


この部屋は、全然健やかじゃなかった。


僕が思ってたような、キラキラ明るくて澄んでいて気持ちの良い光に照らされた部屋じゃなかったみたいだ。


この気持ちはなんだろう。

僕はなんて彼に返せばいい?


相変わらず僕の涙は止まらない。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら前田の顔を見る。


ショックだった。

でもそれ以上の感情が、確かにあった。

不思議と心はスッとしている気がする。泣いたから?違う。


めちゃくちゃ泣いて、視界もはっきりしてなくて、目の前の前田もぼんやりしてる気がする。

けど、そんな縋るような眼をした前田、初めて見たんだ。


これはなんていう気持ち?

わかりたくもない。そしたら僕、本当に性格が悪い。でも。


コンコンコン


部屋をノックする音で、我に返る。

目元と鼻を、制服の袖で取り急ぎふき取った。

咄嗟に前田が、そこら辺に放り投げてあったボックスティッシュを手渡してくれた。


「優磨、佳主真くん~。開けても大丈夫~?」


おばさんだ。僕はふと携帯に目をやった。


「えっ!?19時過ぎてる……!」


そんなに時間が経ってるとは思わなかった。

前田と顔を見合わせる。


「まあ……俺は知ってたけど」


「なら言ってよ!」


「母さん、大丈夫じゃない。めっちゃ取り込み中」


前田がおばさんに返答する。

そうだ、めちゃくちゃ取り込み中だ。

鼻水だか涙だかわからない体液が僕の顔面をめちゃめちゃにしている。


「え、なに!?何事なの!?」


「真野のこと泣かしちゃった」


「おいい!!!!!」


素直に回答する前田に条件反射的にツッコミを入れてしまって、それと同時にガチャッとドアが開き、おばさんが入ってきた。


「え、なに、大丈夫!?優磨が何か言ったんでしょう!」


「そう。ごめん、真野」


ごめんな、って、前田が優しく僕の肩に手を置く。

ああ違う、前田には謝ってほしくない。


「ち、ちがうんでず……僕がかっでにないでるだけで、グズッ」


前田、もっと話したいよ。


「あらあら、ティッシュ足りる?ケンカしたんじゃないならいいんだけど……ふふふ、なんだか懐かしく思っちゃうねえ。ね佳主真くん、明日土曜日だしこれから台風だし、もし良ければうち泊まっていかない?って言って、もうお母さんにはたった今お電話しちゃったんだけど!」


「え?」


そういい終わるや否や、普段全然鳴らない僕の携帯が鳴る。

母さんからだ。


「……はい」


「ちょっとあんた!お見舞いに行ってそのまま泊まらせてもらうなんてそんな非常識なことある!?もう高校生なんだからしっかりしてくれなきゃ!明日迎えに行くからね!」


「えっ何それいいよ、」


「あんたを迎えに行くんじゃなくて、前田さんにお詫びに行くんだよ!」


ツーツーツー


「……あ、」


確かにそうだ。

僕は何をやっているんだろう。今日は僕お見舞いに来たんだよ。

前田だって一応療養中の身な訳だし申し訳なさすぎるし、しかも多分さっきの大声とか聞こえてるだろうし、なんかめちゃくちゃ泣いてるし、お見舞いに来てケンカした挙句、泊まらせてもらう……。


僕が携帯を握りしめて固まっていると、前田がちょっと笑って、そんな僕たちを見ておばさんが言った。


「ふふふ、決まりね!お父さん帰ってくるまでもう少し時間あるから、先にお風呂入ってきちゃって!」


    


    


「……お風呂、ありがとうございました」


前田家のリビングはうちと違っていつも綺麗で(母さんごめん)、小さい頃から羨ましく思っていた。


おばさんがオープンキッチンに立ち、夕飯の準備をしてくれている。

この生姜のいい香りは、もしかして……。


「いいえー!優磨は今入ってる?」


「はい、たった今。すみません……シャンプーどれがどなたのかわからなくて、使ってはいけないものを使ってしまったかもしれません……」


お風呂から上がった後すぐに前田の部屋に行ったら、「髪の毛めちゃくちゃクサい」と一言吐き捨てるように言い放って、彼はお風呂場へ消えていったのだ。


「クンクン……、これ、わたしのシャンプー、カズくん」


突如背後に現れた、花梨ちゃん。

前田の妹だ。


「うわ!ごめん!本当にすみませんいくら払えばいい!?」


花梨ちゃんは僕たちと3つ違い。

今年の春から中学生だ。


「50円。うみゃあ棒5本でいいよ」


「うう、お慈悲をありがとう……」


「カズくん目赤いよ?お兄ちゃんに泣かされたの?」


花梨ちゃんは、ああ、前田の妹だなってすぐわかる。

前田と同じでクールというか飄々としている感じで、聡明だ。

背丈も……僕と同じくらいになっている。つらい。


「そう、身も心もズタボロだよ」


「かわいそう」


そう言って花梨ちゃんはリビングのソファにダイブして、テレビをつけた。

プロ野球中継だった。

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