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カラスは春告げる  作者: ふく
第3章

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第49話 不安にすがりつく

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「いえ……僕はまだ、そんなコンクールなんて出るような、」


だって、まだギリギリ5月。放送部入ったの4月だよ。


「なんで!そんなことない」


声を荒げる川崎先輩を初めて見た。


「わたしが真野くんだったら、絶対出てる。始めたばっかりでまだ経験も少ないからこそ、軽い気持ちで腕試しすればいいじゃん。どうして?」


「すみません、正直、全然考えていなくて……」


僕は今それどころじゃない。

それに、川崎先輩だってエントリーを迷ってたんじゃないのか?


「この前あんな所見せちゃったから、幻滅した?」


「え?」


「さくら先輩のことがあって……情けないけど精神的に辛くなっちゃって、プチ不登校してたし、放送も噛みまくってたし。真野くんのやる気削いじゃってたら本当にごめんなさい」


「違います!それはないです、本当に。川崎先輩がエントリーしてくれて、僕嬉しかったです」


「だったら!真野くんもやろうよ。真野くんと競わせてよ!」


競う?


「競うなんて、そんなこと……そういうのは、嫌です、僕」


「違う、競いたいんじゃなくて、そういうことじゃなくて。一緒にやりたいの。一緒に頑張らせてよ。だって2回しかないんだよ?真野くんと一緒にコンクール頑張れるの。今年できなかったら、来年1回しか……」


「来年じゃ、ダメですか?」


声が震えた。


「……すみません、僕今、こんなこと先輩に言うの失礼ってわかってるんですけど、」


どうしたらいいのかわからない。何を、どう行動したらいいのか。


人を傷つけて、でも僕が思ってることと違うかもしれないし、まだ彼に謝れてなくて、何て言ったらいいかわからなくて。

誰かに縋りつきたいけどできない。今まで縋りついてきた相手だから。


『嫌いだね』


あの時のあの言葉は、僕に対して言ったのかと思うくらい。

でもそれも失礼だって、わかってる。


「僕、それどころじゃないんです」


「……」


自分の主張だけは、はっきり言うんだよないつも、僕。


「……真野くん」


「はい」


川崎先輩の顔が見られない。


「そうやってなんだかんだと理由を見つけて、うまくかわして、あっという間に死んじゃうよ」


「……」


「怖がらないで面倒くさがらないで、ちゃんと殴り合ってよ。わたしだって死んじゃうよ」


「死ぬなんて……大げさなこと言って脅さないでください」


「大げさじゃない。真野くんはわたしが欲しいものいっぱい持ってる。もったいないよ」


「そんなことありません。それに、エントリー締め切りももう過ぎてますし」


「石川先生に言ったらなんとかしてくれるよ、きっと」


「原稿だって、何にも考えてきてません」


「そんなの大丈夫、今日一緒に考えよう」


「先輩たちに、お手間をかけさせたくありません」


「手間じゃないよ、わたしたちだって去年、先輩たちにそうしてもらったんだから」


あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー面倒くさい。


自分たちが思う良いこと、良いもの、キラキラしたものたちを押し付けないで欲しい。

善かれと思って、ってやつでしょう?

息が詰まるんだよ。


「一緒に頑張ろう?不安かもしれないけど、夏が終わったら真野くんもきっとやって良かったって思うはず。わたしも先輩たちに……」


僕が野球好きだって?なんでそれを前田が言うの?

いつから、そう思ってた?


「不安なのは川崎先輩でしょう?」


「……え?」


「僕を、本内さくらさんの代わりにしないでください」


川崎先輩の膝の上に置かれていたお弁当箱が、地面に落ちた。

艶のある綺麗な黄色をした玉子焼きと、プチトマトが2つ程外に転がっている。


「真野、く……」


「一緒に頑張れる人がいないと、頑張れない人なんですか?川崎先輩は」


「待って、」


「でもそれって、今の放送部の僕以外のメンバーでは務まらないってことですか?」


キーンコーンカーンコーン


昼休み終了の予鈴が鳴る。

さっきまで、ずっとクラッシック音楽が流れていたことに今気づいた。

聞いたことある曲だけどタイトルはわからない。

こういう日は大抵、当番はさきぽん先輩とみとちゃん先輩だ。

流しっぱなしにして、裏でずっとおしゃべりしているんだろう。


「……すみません、失礼なこと言い過ぎました」


地面に転がったお弁当の片づけを手伝う。

2人とも昼ご飯を食べ損ねた。


「……大丈夫」


川崎先輩がものすごく小さい声で、ぽそりと言った。

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