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カラスは春告げる  作者: ふく
第3章

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第47話 名前で僕を呼んで

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

自分の好きなものとの繋がり方。


「素敵です。いや、僕なんかが素敵ですなんて、軽率かもしれないですけど」


「ううん、そんなことない。でもまた好きになれて本当に良かったんだ」


「はい」


「あんなに夢中だったのに、嫌いになったまま終わらなくて良かった」


嫌い。

嫌いになるくらい、頑張ってたってことだもんな。


嫌いになるくらい頑張るってどういうこと。わからない。


「だから、わたしなりに恩返ししたいなって思って今までやってきたつもりだったんだけど、気づいたらもう3年生だったわ」


にへっとさきぽん先輩が笑う。


またいつか、好きになって欲しいなんて思わない。

一番近くで見てきたはずだ。


「だから真野くん、悔いのない青春を過ごしてね。青春に後悔はつきものかもしれないけど」


        


部活を終えて、急ぎ足で校門へ向かった。

何で急ぎ足かというと、前田が待っているかもしれないから。待っていないかもしれないから。


「あ……」


校門が見えた。

前田がいる。その横に、女の子がひとり立っている。


ドクンドクン、と心臓が激しく鼓動し始めた。

指の先までドクドクしている。

一瞬逃げ出しそうになったけど、出口は一つしかない。

ドクドクしながら少しずつ近づいた。


「お疲れ」


そう小さく僕に放つ前田の隣に、あの人だ。


「へー、この子なんだ~。初めましてえ」


茉莉さまだ。

身体が硬直する。


「放送でたまにしゃべってるよねえ?いい声だよね~癒されてるよ~」


茉莉さまが慣れた手つきで、僕の頭をナデナデし始めた。

き、距離感……人との距離感アレしてる系の人だ。危険。


「やめてください」


前田が言った、僕が言う前に。

茉莉さまも少し驚いたように、前田の方を見た。


「こいつ、女子に免疫がないので。好きになっちゃいます、そんなことしたら」


「おおおい!」


ハッと我に返って口を押えた。

いつものノリで前田に突っ込んでしまった。今はそんな感じじゃないのに。


「あはははは、そんなことないよねー真野くんっ!あ、うち2年の高﨑茉莉っていいます。前田っちとは生徒会でお世話になってまあす」


こんな至近距離で「茉莉さま」を初めて拝んだ。

……確かにどちゃくそ可愛い。

顔がめちゃくちゃ小さいのにお目目キュルキュルだ。危険。


「1年9組、真野です。放送部です。前田には小学校の時からお世話になってます。それでは、失礼します!」


僕は今までの人生で最も高らかに、誇らしげに、滑舌良く、を意識しまくって発声した。

語尾に向かって力強く!負けてはいられない。


「いい声~」


茉莉さまがぽそっとつぶやいた気がした。

どうだ、いい声だろ。知らんけど。


僕はぽか~んとしている前田の手を掴んで、校門の外へ出る。

後ろでキュルキュル茉莉さまが可愛らしい声で「気をつけてねえ」と手を振っていた。


      


「なんで、茉莉さまと2人で待ってたの?」


僕は先ほどまでの興奮を抑えきれず、前田の手を掴んだまま勢いで問いかけた。


「なんだ、茉莉さまって」


「あと、前田っちってなんだよ」


「ああ」


「なんとかっちって、なんか古くない?ダサいよ」


「俺もいやだ。ちゃんと名前で呼んで欲しい」


「え、うん」


「2人の時以外も」


「……」


2人の時、以外。


「……2人の時はちゃんと名前で呼んでくれるの?」


「そう。優磨って」


「なんで、」


2人の時と、みんながいる時で呼び方を変えるのは何故?


「俺、あの人と付き合い始めたんだ」


「……」


待った。


「健脚会終わってちょっとしてからくらいかな」


待った待った。


「茉莉さまって、サッカー部の人と付き合ってるって聞いたけど」


「ああ、元・サッカー部ね」


前田は自分の顔を指さす。


待った待った待った。


「だからごめん、もう一緒に帰れないかも」


「……」


「俺あの人と付き合ってるんだ、佳主真」


           


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


「ちょっとー!あんたずっとアラーム鳴りっぱなしだよ!起きないなら最初からアラーム設定しない!」


母さんの怒声。1階からよくもまあ響く。

目の前に広がるのは僕の部屋の天井。

夢だ。夢です。最近夢見がちだ。


夢をたくさん見るっているのは、あんまりいい状態じゃないらしい。

特に悪夢なんて。あまりにも悪夢。


土曜日の10時、だるい。

昨日はあの後、前田と2人で結局無言帰宅ツアーだった。

いつもと違ったのは、僕が何故かずっと前田の手を掴み続けていたこと。


ふと、携帯に何かの通知が来ていることに気づいた。

僕の携帯に通知が来ることなんて、そんなに多くないからだ。


誰からだろう。


誰かからの連絡かどうかもわからないのに、少し期待と不安でドキドキしてしまう僕がいる。

あんな夢を見たせいもある。


ピコン


携帯に手を伸ばし通知を確認する。

ラインのメッセージだ。

川崎先輩の、満開の桜の写真のアイコン。放送部のグループラインかな?


「あ……」


違う。個人的なメッセージだ。


『真野くん、お疲れ様です。お休みの日にごめんね。何日もお休みしちゃって迷惑をかけてすみませんでした。そんな中で恐縮ですが、月曜日のお昼って時間ある?(いつもは前田くんとランチかな?)良ければ、話したいことがあるので時間をください。』

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