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カラスは春告げる  作者: ふく
第3章

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43/57

第43話 何味かわかる?

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「えっと、あとまだ少し先の話になりますが、7月の第一金曜日に球技大会があります。そこでの割り振りを……」


結局、今日は前田とほとんどしゃべらずに、一日が終わってしまった。


前田としゃべらなかったということは、今日誰ともしゃべっていないのとほぼ同義で、表情筋も全然使ってなくてガチガチだ。


その証拠に、帰りのホームルームが終わった後、赤星くんに「保健委員会の教室って2年6組だったよね?」と声をかけられて「え?」と反応した時、眉毛がうまく上がらなかった。

使ってなさすぎだろう、表情筋。


「……真野くん、」


「基本的には組ごとでの縦割りになります。班長は3年生の中から……」


しゃべらなかったけど、ちょいちょい目は合った。

でも、その度にふい、と逸らされてしまう。


「……嫌いじゃん、それ」


「真野くん、まーのーくん」


「3年生の各クラス2人のうちで、班長を決めて後で報告しに来てください」


前田に、嫌われた。

どうしよう。終わりだ。


「ま、の、くん!」


ペチペチ!


手を叩かれて、ハッと我に返る。


「あ……ごめん」


「ううん、大丈夫?」


そうだ……それで、今日は放課後に委員会があって、僕は赤星くんと保健委員の委員会に来ていた。


「ごめん、話なんも聞いてなかった……」


「大丈夫、特に大した話してなかったから」


コソッと小声で赤星くんは言ったが、隣に座っていたおそらく2年生の先輩の視線が、ギロリとこちらに向いた気がして僕はヒヤッとした。


「どうしたの?明らかに元気ないけど」


「うん……ケンカというか……失言というか……」


「え、前田くんと?」


前田。赤星くんの口からその名前を聞いたら、なんだかまた泣きそうになってきた。


「うん、そう。こんなの初めてでどうしたらいいかわかんなくて」


「真野くんの失言が原因なの?」


「うっ……多分、そうです」


「真野くんがどんなこと言ったのか知らないけど、前田くんそんなの気にしなさそうなのにね」


「そう、そうなんだよ、そうだからこそ……」


「……そっか」


キーンコーンカーンコーン


「……それでは、保健委員会を終わります」


3年の保健委員長が委員会の終わりを告げる。ほんとに何も聞いてなかった。

ごめん、赤星くん。


「ね、真野くん。部活までちょっと時間ある?」


       


ガゴンッ


「はい!最近のマイブーム」


職員棟と校舎を繋ぐ渡り廊下と並行して建っている、大きな部室棟。

その建物の職員棟側はあまり人通りがなく、一日中日陰になっているような場所に自動販売機が置いてあった。


「あ、ありがとう」


赤星くんが飲み物を奢ってくれた。

渡されたのは、『お楽しみソーダ』。


「え、何これ……」


「書いてあるとーり!炭酸ジュースだけど、何味かは飲んでみてのお楽しみ」


プシュッと音を立てて、赤星くんは同じ謎の缶ジュースをぐいっとひと口いった。

あ、またグレープだ……と少しがっかりしている。


「こんなの、格技場前の自販機とかには置いてないよね?」


「そうそう、ここにしかないんだ!真野くん、何味?」


恐る恐る、ひと口飲んでみる。

甘い。甘いけど、何の味かよくわからない。


「え……りんご?」


「え!りんご!?りんごソーダ!?ほんとに?」


キラキラ目を輝かせて、赤星くんが迫ってくる。

赤星くんってこんな風にはしゃぐんだなあと思ったら、少しほっこりした。


「……え、これ何味なんだろう」


ひと口飲んで、赤星くんは顔をしかめた。

やっぱりよくわからないみたいだ。

ただただ甘ったるい炭酸。


ふいに、ガラガラッと引き戸を開ける音が響いたかと思うと、2階の渡り廊下から声が聞こえてきた。


「ちょっと~前田っち、これもコピーお願あい」


「1枚10円です」


「え!なにそれえ~、チロルチョコ払いでいい?」


「現物払いは受け付けてないです」


「え~ケチくない?」


渡り廊下の2階、ちょうど購買部の売店の真上に、生徒会室がある。

そこから出てきたのは……


「……前田、」


と、女子生徒。

そうか、今日は委員会があったし、前田は生徒会のところに行ってたんだ。


「ありゃ、2年の茉莉さまだな」


「え、誰それ」


誰かと急に話し出した赤星くんの方へ振り向くと、そこには楓くんがいた。

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