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カラスは春告げる  作者: ふく
第3章

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第42話 雨

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「すみません、わがまま言って」


「ううん、こっちも勝手に男の子の方がルールとか詳しいだろうから、真野くん適任かなーって思っちゃって」


「でもやっぱり、女子に場内アナウンスしてもらった方が、部員たちも喜ぶと思います、普通に」


「あはは、そうかなあ」


川崎先輩が、体調を崩してお休みらしい。

なので急遽、今朝の放送当番を吉森先輩とやることになった。


「……」


「……」


僕が勝手に意識しているだけかもしれないけど、なんとなく重苦しい空気が放送室に充満している。


今月末はイベントが盛りだくさんだ。


毎年司会アナウンスとして参加しているという、市が主催のフラワーアートフェスティバルが土日。


そしてもう一つ、日曜日に、野球部の練習試合があるらしい。


うちの学校の野球部は、女子は入部できない決まりになっていて、マネージャー的な立場の部員もみんな男子だ。

なので練習試合の場内アナウンスもマネージャー男子部員が務めていたのだが、うちの放送部のアナウンス力が校外でも評価されるようになってきてから、野球部の試合の場内アナウンスも任されるようになったらしい。

数年前までは、公式戦のアナウンスをやっていたこともあったようだ。

(学校の近所に大きい野球場があって、そこで公式戦も行われている。)


吉森先輩たちは、あまりルールをよくわかっていない女子がアナウンスをやるよりも、少なくとも自分たちよりは野球というものに慣れ親しんでいるであろう、男子である僕が、適任だと思ったみたいだ。


「でも、ケガ治って良かったね。硬球なんてビューンって飛んで来たら今でも怖いけど、小学生くらいだったらもっと恐怖だろうなあ。そりゃトラウマになるよね」


「自分でも情けないんですけど……結局その後も兄の試合とかも全然応援に行けなくなって、ずっと兄にいじられてます」


「あははは、真野くんのお兄さん、会ってみたいな~」


8時15分。


「おはようございます。8:15になりました。生徒の皆さんは、教室に入りましょう」


今朝も無事にしゃべり終えて、少しだけホッとする。たった3文だけど。


そして実は、アナウンスを終えた後ここからが勝負の時間だ。

本令は8時30分。

僕がいる1年9組の教室は、放送室がある職員棟から一番離れた校舎の、いちばん奥なのだ。

いつも僕は朝の放送当番は免除されているので、8時30分までの朝練組のスリリングなバタバタぶりを傍から眺めているだけだったけど、今日は違う。


急いで原稿をカバンにしまおうとした瞬間、人差し指の付け根あたりに鋭い激痛が走った。


原稿で指を切ったみたいだ。

皮と肉は裂けているけど血は出ていない……が、その切り傷よりもすぐに指先の方に視線が行った。


気づかないうちに、またささくれがいっぱいできている。

無意識に自分の指でもガリガリやってしまっていたみたいで、少し血が滲んでいた。


「こっちのが、地味に痛い」


   


「ハアハア……」


教室に到着した。

8時24分。全然セーフだ、良かった。


自分の席に向かうところで、前田がこっちを向いて目があった、気がした。

気がした、にしたのは、何も反応がなかったから。


「……」


いつも僕が席に着くと、振り向いて前田の方からおはようって言ってくれるのだけど、今日は違った。


「おはよ」


「おはよう」


少しドキドキしながら前田の後頭部に向かって声をかけると、前田は半身だけこっちを向いて返事をした。


……冷静に昨日を振り返る。

はっきりと明言はできないけど、心当たりはあった。


着席してしばらくしても、前田は僕の方を向いてくれない。


「前田」


「ん?」


「昨日夜テレビで幸和堂出てきたよ」


「うそ」


「季節限定の、梅のお菓子の特集やってたよ」


「梅かーいいな」


「うん、おいしそうだった。今度行こうね」


「うん」


会話終了。

前田はスッと前を向いてしまった。

いつもなら何てことない話を、チャイムが鳴って担任の長谷川先生が教室に入ってくるまでしてるのに。


前田のこんな反応は、今まで付き合ってきて初めてだった。

ケンカだってしたことがない。


前田を傷つけて、怒らせてしまったかもしれない。

今になって、高校1年生にもなって初めてだ、こんな気持ち。


キーンコーンカーンコーン


前田の後ろ姿を見ていると、涙が出そうになってくる。

傷つけたのは僕なのに。


やってしまった。

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