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カラスは春告げる  作者: ふく
第2章

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第38話 そのまま焼き尽くされないで

カラスは、ウグイスにはなれないのかーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「ご来場、誠にありがとうございました!今年度の宮野立高校演劇部にも、どうぞご期待ください!」


無事、演劇部新入部員お披露目公演・女祭りの部も終了した。


2日程とも観劇した人には、どちらの方がより良かったか投票する権利があるらしい。

昨日の楓くんたちの方で投票用紙が配られ、今日の回が終演した後回収箱に用紙を入れる、という流れだった。


「……」


「……」


僕と前田は各々、投票用紙に良かった方に〇をつけて、感想を書いて、出口付近にいる演劇部部員が持った回収箱に紙を突っ込んだ。


「真野くん、と前田くん?」


ふいに声を掛けられ顔を見上げると、回収箱を持っていたのは、あきちゃん先輩だった。


「あ、こんにちは」


「観に来てくれてありがとう。嬉しいよ」


あれ、あきちゃん先輩って前田のこと知ってたっけ?


「あ、2日間ともすごかったです。楓くんと、坂巻さんの演技も初めて見られてよかったです」


「あんずのほうが圧倒的に上手かったでしょ?」


「え?」


「確かに楓には華がある。情熱もあるかな。でもそれだけ」


「……」


「それだけでは太刀打ちできない世界だから。若いうちはいいかもしれないけど」


「いえ、そんなことは」


「あはは、顔に描いてある。観終わった後の2人の顔を見たらわかるよ」


「……」


「またゆっくり感想聞かせてくれると嬉しいな。ありがとうね」


      


坂巻さんの役は、三姉妹の長女・オリガだった。

坂巻さん本人が芯があってしっかりしているイメージだから、学校の先生もやっている長女オリガの役はぴったりに思えた。


「……」


「……」


「……なんか、演劇とか観終わった後って、何話したらいいかわかんないね」


「うん」


昨日は第一幕と二幕をやったから、今日は第三幕と四幕だ。

第三幕は真夜中のシーンから始まった。

どこかで火事が起きているようで、それを知らせる鐘が鳴り続けている。

その中で、オリガは姉妹たちの乳母・アンフィーサと共に登場する。


坂巻さんが舞台上に出てきた瞬間、僕はものすごく小さいけど、声が出てしまっていたと思う。

そこには坂巻さんというより、オリガがいた。オリガがいるなあ、と思った。

(ろくに戯曲も読んでいないし、演劇すら初めて観るのに何を思ってるんだろう、とツッコミ心は湧いたけど。)


舞台上に入ってくるその瞬間に、その場が一気に成立する感じ。

どう言ったら上手く表現できるのかわからないけど、頭のてっぺんから指の先まで、少しのため息でさえ、隙がなくそこに存在しているのだ、坂巻さんの身体で。


この人は、お芝居するのが好きで、全身全霊、誠実にそれに向き合っているのだなあと思わされた。


「前田のサッカーの試合観に行った帰りも、こんな感じだったかも」


「ああ、確かに。それでしばらくしたら全然関係ない話し出すんだよな。それもなんかこそばゆい感じで」


客席の空気も、昨日とは少し違う気がした。

シーンと静まっているんだけど気は張っている。

みんなが舞台上に集中しているのがわかった。


前田も、今日は寝ていなかった。


でもそれは決して、昨日のお芝居より今日の方がより優れていたとか、そういうこととはまた違うんだと思う。


だって、どちらも素晴らしかった。


「前田って、こそばゆさとか感じたりするの?」


「感じるわい」


ラストシーン、オリガは2人の妹を抱きかかえての、長ゼリフがあった。

何度も言うけど、最初から今までの流れをしっかり把握できているかと言われたらできている自信はない。

なのに、最後のオリガの、坂巻さんのセリフを聞いていたら何だか涙が出そうになったのだ。


「……すごかったなあ、2人とも」


本当にすごい。

スポットライトがあたって、みんなの視線にさらされるところで、舞台の板の上や芝や土の上で、パフォーマンスをするなんて。

そして、観客の心を震わせる。


キーンコーンカーンコーン


「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は、しゅ、消灯、戸締りの確認をしてから帰りましょう」


観ている人の心を、聴いている人の心を震わせ……あれ。


「あれ」


「これ、今朝のアナウンスの人と同じ人?」


「うん、川崎先輩だ」


下校アナウンスも嚙むなんて、本当に一体どうしたんだろう。体調でも悪いのだろうか。


観客はいつだって、安全なところにいる。

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