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カラスは春告げる  作者: ふく
第2章

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第23話 あの子は陽の当たる場所に

カラスは、ウグイスにはなれないのか――


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「そう。あの人も俳優志望。」


出た。また俳優志望だ。そんなにみんな演じたいのか。僕には一ミリもわからない感覚だ。


「でも、松野先輩ってテニス部じゃなかった?」


「うん」


「あ、楓くんたちと一緒の児童劇団にいたとか?」


「あー、ほんの一瞬いたことはあるらしい。俺たちは被ってないけど。」


「ふーん。よくわからないけど、坂巻さんはあきちゃん先輩が好きな感じかと思ってたけどなあ。」


「おい。」


楓くんの声色が急に変わる。


「それ、坂巻に絶対言うなよ。」


楓くんが見たこともない、刺すような真剣な眼差しで見つめてきた。これは、本当に言ってはいけないやつのようだ。いや言わないけど。


「う、うん。」


さっきまでの和気あいあいとした空気とは打って変わって、息が詰まるような沈黙が訪れる。楓くんは僕を見つめたまま、何も言わない。そんなにまずいことを言ったのだろうか……。


「まあまあ松原。そんなキメ顔朝から披露しちゃうと女子たちが黙ってないので」


前田の一言にハッと我に返る。確かに、教室の隅々から視線を感じた。教室にいる女子、いや女子だけじゃなく男子の視線までも、楓くんは独り占めしてしまうみたいだ。


「うおっ、ていうかもうこんな時間か。やべ。あ、真野、なんか嫌な感じで言っちゃってごめん。またなんかゆっくり話す機会あったら話すわ。」


「いや、僕こそごめん。こういう話題疎くて。」


「じゃあなー」


楓くんが爽やかに去っていく。松野先輩……確かに入学早々、女子たちからその名前を何度か耳にしたことがある気がするから、相当人気の男子生徒なのだろう。でも、この前遭遇してしまった例の現場、坂巻さんと一緒にいたあの人が松野先輩なら、僕は断然、松原楓派である。少なくとも爽やかさでいったら数段、格が違うと思う。なんて、何故か僕がちょっぴり誇らしげな気持ちになってしまった。


「はー、前田ありがとう。楓くんのあんな顔初めて見た。」


前田がいつものペースを崩さずに入ってきてくれたお陰で、なんとか場の空気は丸く治まった、気はする。


「色々大変そうだな、演劇部界隈。」


「うん。それを考えると放送部はほんと平和そうで良かったよ。女子だけだからなんかドロドロしたのあったらヤダなと思ってたけどそれもなさそうだし」


「そう言い切るのはまだ早いんじゃないの。」


「あ、そうだ。部長。」


「ん?」


「前田、生徒会に関わってるなら、なんか部活動の名簿とか見られない?」


「え、なんで」


「放送部の部長、部長なのにずっと部活来てないみたいなんだ。」


     


「真野く~ん、何だか早速色々噂になってるみたいだね~」


放課後、放送部の部室に向かうと、そこにいたのは2年のみとちゃん先輩だけだった。


「え、噂ってなんですか?」


「なんか、1年の演劇部の女の子が松野先輩に告ったんでしょ?そこに真野くんが現れて修羅場になったとかならないとか……」


「え!何ですかそれ!違いますよ!」


「そうなの~?まあ松野先輩にアタックする女子はたくさんいるから珍しいことではないんだけど、今回はその女の子が松野先輩に平手打ちをかまして、松野ガールたちを怒らせてるって。」


「松野ガール……?」


「松野先輩の取り巻きっていうかファンクラブみたいなやつ」


「そ、そんなのあるんですか」


「そんなのが、あるんだよ~!びっくりだよねえ。わたしはあんまり興味ないからちょっとよくわからないんだけど。それだったら、わたし前田くんの方がかっこいいと思うなあ。」


「前田ですか!?」


「うわっびっくりした。そんなにおっきい声も出るんだねえ、真野くん。」


「すみません、まさかこの流れで前田の名前が出てくると思わなかったので。」


「え~そうなの?前田くん普通にかっこいいと思うけど。」


「いや、はい、それはまあ僕も思ってますけど、なんていうか前田はそうやって周りにというか女子とかにキャーキャー言われるタイプではないと言いますか……」


「そうかなあ。そんなことないと思うよ~」


「そ、そうですか。そう、ですよね……」


モヤモヤが、ざわつき始める。何に対してかわからないし、わかったら何かが壊れてしまいそうな、そんなモヤモヤが僕の心を覆いつくそうとする。 それを突き詰めたら、もう僕は前田の隣にいられないような気がした。前田の友だちでいる資格を、はく奪されてしまうような感覚。

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